第九章 帰還、そして日常へ ― 喫茶店「樹」
◆ 帰還、そして日常へ ― 喫茶店「樹」
光の扉をくぐった瞬間、
リサと翔子の身体はふわりと浮き、
次の瞬間――
硬いシートの感触が背中に戻ってきた。
まぶたを開けると、
視界には白い天井と、
カプセルの内側に反射する淡い光。
「……ここ……現実……?」
リサが小さく呟く。
隣で、翔子もゆっくりと目を開けた。
「……戻ってきたんだね……」
カプセルの蓋が静かに開く。
外の空気が流れ込み、
二人の頬を優しく撫でた。
その瞬間――
「リサちゃん! 翔子ちゃん!」
シャロンが駆け寄ってきた。
その顔は涙で濡れていて、
声は震えていた。
「良かった……本当に……良かった……!」
シャロンは二人を強く抱きしめた。
リサは驚きながらも、
その温かさに胸がじんわりと熱くなる。
「シャロンさん……心配かけて……ごめんなさい……」
翔子も小さく笑った。
「……ただいま、シャロンさん」
シャロンは二人の頭をそっと撫でた。
「もう……本当に……心配したんだから……
なかなか目を覚まさないから……
もしものことがあったらって……」
その声は震えていたが、
そこには深い安堵と愛情があった。
リサはシャロンの胸に顔を埋めた。
「ありがとう……シャロンさん……
助けてくれて……ありがとう……」
シャロンは優しく微笑んだ。
「おかえりなさい。
二人とも……本当に、おかえり」
◆ 喫茶店「樹」の日常へ
数日後。
喫茶店「樹」には、いつもの穏やかな午後が戻っていた。
シャロンはカウンターでパンケーキの生地を混ぜ、
翔子はテーブルに水を運び、
リサは注文を取りながら店内を走り回っている。
「翔子〜! テーブル3番、追加の紅茶お願い!」
「はーい、今行くよ」
そんな日常の中――
「ちょっと! わたくしのパンケーキはまだかしら!」
「私のフォンダン・オ・ショコラも忘れないでね?」
聞き覚えのある声が響いた。
リサはピタッと動きを止め、
ゆっくりと振り返る。
テーブルには――
ハートの女王と王様が、
優雅に座っていた。
「……また来てるのよ、あの二人……!」
リサは呆れたようにため息をつく。
翔子は苦笑しながら肩をすくめた。
「まぁ……向こうでは美味しいスイーツ食べられないしね」
女王は胸を張って言った。
「こ〜んなに美味しいスイーツ、向こうには無いのだから!」
「さぁさぁ、もっと食べなさい、女王よ!店主! ケーキの追加を!」
ハートの王様はケーキの追加注文をしている。
シャロンは嬉しそうに微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
リサは頭を抱えた。
「はぁ……ほんとにもう……」
翔子はそんなリサの肩を軽く叩いた。
「リサ、嬉しいくせに」
「べ、別に嬉しくなんか……!」
「はいはい」
二人は顔を見合わせて笑った。
店内には、
甘い香りと、
笑い声と、
ワンダーランドの余韻が静かに混ざり合っていた。
今日も、喫茶店「樹」の一日は、
ゆっくりと、そして穏やかに
過ぎていったのでした。
終わり




