第一章 静かな崩壊の始まり
◆ 異変の予兆
朝の光が、デジタルワンダーランドの森に差し込んでいた。
葉の一枚一枚が、まるで宝石のように光を反射し、
小鳥たちの歌声が空気を震わせる。
白ウサギは、いつものように懐中時計を抱え、
森の小道を軽やかに跳ねていた。
「今日は遅刻しないぞ、今日は遅刻しないぞ……!」
彼の足取りは軽い。
リサが帰ってからというもの、森は穏やかで、
どこか“満たされた空気”が流れていた。
――そのはずだった。
白ウサギがふと立ち止まった。
風が止んだわけではない。
だが、森の空気が一瞬だけ“ざらり”と揺れた。
「……今の、何?」
葉が揺れた。
だがその揺れは、風の動きではなかった。
まるで、画面の中の映像が一瞬だけ乱れたような――
そんな不自然な“ノイズ”だった。
白ウサギは耳をぴんと立て、周囲を見回した。
「気のせい……じゃないよね?」
森の奥で、木の幹が一瞬だけ白く“塗りつぶされた”ように見えた。
すぐに元に戻ったが、胸の奥に冷たいものが落ちていく。
「……嫌な予感がする」
白ウサギは懐中時計を握りしめ、駆け出した。
◆ ハートの王様の部屋
その頃、ハートの城の奥深く。
王様は机に突っ伏し、頭を抱えていた。
「い、いかん……! これはいかん……!」
机の上には、物語のコードがびっしりと書かれた羊皮紙が散乱している。
王様は震える手でその一枚を掴んだ。
「わしが……“女王が勝つ”ように書き換えたせいで……
プログラムに矛盾が出てしまった……!」
王様は涙目だった。
「だって……だってじゃ!
たまには女王を喜ばせたかったのじゃ……!
いつも“負け役”では、女王が不機嫌になるし……
わしだって……わしだって……!」
言い訳のような独白が、部屋に虚しく響く。
王様は震える手で隠し端末を使い、慌てて元のコードへ書き戻した。
「これで……これで元通りじゃ……!」
王様は、隠し端末を元の隠し場所へ戻そうとした
「いかん、隠し場所は何処にいった…? あれも、最近言うことを聞かんし…」
その時、隠し端末のモニターに赤い文字が浮かび上がった。
《不正な変更を検知。整合性エラー発生》
「ひ、ひぃっ……!」
王様は椅子ごとひっくり返った。
◆ システム管理AI ― 無機質な視点
その瞬間、ワンダーランドの最深部。
“システム管理AI”は静かにログを読み取っていた。
《ログ:物語コードに不正な書き換えを検知》
《ログ:変更は即座に元に戻されたことを確認》
《判断:外部ウイルスによる攻撃の可能性》
《対策:自動回復プログラムの起動を推奨》
AIには感情がない。
ただ、規則に従い、最適解を選ぶだけだ。
《自動回復プログラム、起動》
その一文が、ワンダーランドの運命を決定づけた。
◆ 森に広がる“白い霧”
白ウサギが森を走っていると、
足元の草が一瞬だけ白く“塗りつぶされた”。
「……まただ!」
今度ははっきりと見えた。
草の色が消え、白いノイズが走り、
すぐに元の緑へ戻る。
「これは……ただ事じゃない……!」
白ウサギは息を切らしながら、帽子屋の家へ向かった。
だが、森の奥から“何か”が歩いてくる音がした。
コツ……コツ……コツ……
規則正しい、無機質な足音。
白ウサギは木陰に身を隠し、そっと覗いた。
そこには――
真っ白なロボットが立っていた。
表情はない。
目もない。
ただ、白い人型の“空洞”のような存在。
ロボットは森の木に手を触れた。
その瞬間、木の表面が白く染まり、
葉が“決まったパターン”で揺れ始めた。
「ひっ……!」
白ウサギは口を押さえた。
「初期化……されてる……!」
ロボットはゆっくりと森の奥へ進んでいく。
白ウサギは震える足で立ち上がり、
森を駆け抜けた。
「リサ……! リサを呼ばなきゃ……!」
◆ 森の空に走る“ひび割れ”
その時、空が一瞬だけ“割れた”。
青空に、細い白い線が走る。
まるでガラスに入ったひびのように。
白ウサギは立ち止まり、空を見上げた。
「……世界が……壊れ始めてる……」
風が止まり、森が静まり返る。
その静寂は、
まるで“物語の終わり”を告げる鐘のようだった。
◆ そして、物語は動き出す
白ウサギは胸に手を当て、深呼吸した。
「リサ……助けて……!」
その願いは、
まだ遠く渋谷の空へと、
かすかな光となって飛んでいった。
デジタルワンダーランドの崩壊は、
静かに、しかし確実に始まっていた。
前作「シャロンの喫茶店」 GW特別編 Lisa's Adventures in Digital Wonderland の続編です。
王様がプログラムをいじったせいでデジタルワンダーランドが初期化され始めてしまいます。
今回は、翔子とシャロンもリサに協力してデジタルワンダーランドを救おうと奮闘します。




