6話 ミウの正体
リウの声で目が覚めたミウは、見上げた先にリウの顔を見つけた。
ランタンを持ち、驚いた顔をしている。ただ驚いたと言う顔ではなく、そこに恐れが混じっている顔・・・。
「エッ?」
ミウは慌てて自分の耳に手を当てる。
「アッ・・・」
気付いた瞬間はもう遅かった。人間の姿に変身する間もなく、本当の姿を見られてしまった。
「ア、ア、ア、・・・コ、コロサナイデ・・・」
ミウの金色の瞳からぶわっと涙が溢れ、ガタガタと震えだす。
恐怖に怯える顔、それが今のミウの顔だった。
「ミ、ミウ・・・、ミウは魔物・・・だったの?」
ミウはブンブンと顔を横に振る。
「チ、チガウ、マモノ ジャナイ ニンゲンガ カッテニ ツケタ ミウハ マモノジャナイ・・・ダカラ コロサナイデ!」
泣きながら殺さないでと訴えてくるミウを見て、リウは悲しくなってきた。
今までずっと仲良く暮らしてきたのに、ミウは僕に殺されると本気で思っているの?
「ミウ、僕はキミを殺さないよ。だから安心して。」
だが、ミウの身体の震えは止まらない。
「ニンゲンハ トウサン コロシタ クダモノ トリニイッタダケナノニ カオ ミタラ コロシタ マモノダカラッテ コロシタ」
ミウはボロボロと涙を流しながら、父親の最後を語る。
「トウサン ナニモ ワルイコト シテナイノニ・・・」
人間に無残にも殺された最後の一瞬を、きっとその目で見たのだろう。そのショックは、幼い心の中に、たとえようもない大きな傷を残していたのだ。
リウはミウの前にしゃがみ込み、視線を合わせてミウの瞳をじっと見た。
「ミウ、ミウ、よく聞いて。僕は絶対にミウを殺さない。ミウは魔物じゃない。僕の恩人だよ。だから落ち着いて・・・」
リウはランタンを地面に置き、ミウの両手を包み込むようにそっと握る。
「ねっ、僕は殺さないよ。だから安心して・・。」
リウはミウの背中に腕を回し、背中をポンポンと優しく叩いた。川で溺れかけたときに、ミウがしてくれたその行為を、今度はリウが返した。
ヒックヒックとしゃくりあげて泣いていたミウが落ち着くまで、リウはずっと背中を優しくポンポンしたり、撫でたりを繰り返した。
ようやくミウが泣き止んだころは、朝陽が差し込み明るくなっていた。
リウはいつの間にか場所を移し、ミウの隣に腰を掛けている。
「もう、大丈夫?」
リウが横からミウの顔を覗き込む。
「リウ・・・ アリガト・・・アッ」
ミウはふと思い出したように自分の耳に手を当てた。
「ヘンシンスルノ ワスレテタ」
大きく尖った耳はシュルシュルと丸く小さくなり、水色の肌の色も白くなって人間の姿に変わる。
「変身するのって、疲れない?」
「ホントハ トテモ ツカレル」
「だったら、もう、変身しなくてもいいんじゃない? ミウはミウのままでいたらいいよ。」
「ホントニ? コワクナイ?」
「怖くなんかないよ。ミウはとっても可愛いもの。」
「カワイイ?」
「ああ、可愛いよ。僕はミウのこと、だーい好きだよ。」
あっ、そうだ!と小さい声で独り言を言うと、リウはミウのほっぺにチュッとキスをした。
驚いたミウは、キスをされた頬を手で触る。
「ドウシテ クチ ツケル?」
「へへっ、これって、僕たちの愛情表現なんだ。ミウ、大好きだよ。」
「アイジョウヒョウゲン?」
少し照れたように赤くなったリウの顔を、じっと見つめていたミウであったが、ミウも、リウのほっぺにチュッとキスをした。
「ミウモ リウノコト ダイスキ・・・」
リウはますます真っ赤になった。
ふとリウの脳裏に、遠い昔の小さかった頃の記憶が過ぎった。
ほっぺにキスして「これは愛情表現よ」って教えてくれた人がいる・・・
誰だったっけ・・・?
「そうだ、罠にかかった獣を見に行かなくっちゃ。」
二人が外に出て見に行くと、罠に小柄なイノシシがかかっていた。暴れすぎて疲れていたようであったが、二人の姿を見るとまた興奮して暴れ出す。
「トウサン コレデ ウゴカナイヨウニ シテタ」
ミウが物置部屋から縄と金属でできた保定具を数種類持って来た。
「そうそう、これこれ、兄さまと一緒に使ったのと同じ・・・あれ? 僕に兄さまがいたの?」
チラリと頭に浮かんだ兄らしき人の影・・・。でも、それ以上はっきりと思い出せない。
はっきりわかったことは、以前に誰かと一緒にイノシシを捕まえて、処理したことがあるということだった。
時間はかかったが、リウとミウは二人がかりで、鼻と足を保定具で固定した。次はできるだけ早く仕留めて血抜きをする必要がある。
「ごめんよ。美味しいお肉になってくれ!」
可哀そうだが、お肉を食べるためには仕方がない。
リウは、記憶を頼りにイノシシを仕留めて血抜きをした後、解体した。
一日がかりで作業が終わり、夕飯にはイノシシ肉の焼肉を食べることができた。
「あー、やっぱり肉は美味い!」
塩で味付けしただけの肉であったが、苦労した分、よけいに美味しく感じる。
残った肉は、干し肉と塩漬けにした。
ふふっ、今までミウに頼りっぱなしだったけれど、肉に関しては、僕の方が頼られているぞ。
とても嬉しくて、にやけてしまうリウであった。




