番外編(ココロのノート) 古家 沙奈枝
私の名前は古家 沙奈枝。小学6年生。今私は私立中学の受験のために勉強をしている。友達はあまり居ないが、親友と呼べる存在は1人だけいる。河野 高音。彼女だけが私の1番の心の支えだ。
「私たち、ずっと親友だよ?」
「もちろんだよさなえちゃん!」
こんな幸せな日々が続くと思っていた。
……………………………………………………………………
私は中学受験に落ちてしまった。でも、親はそこまで気にしてはいないし、高音と同じ中学に行けることになりあまり悲しくはならなかった。いや、悲しまないように誤魔化してた。その時、ニュースで悲惨な事件が放送される。
『本日18時頃、y県k市で高校生による殺人事件が起きました。高校生Aさんは「親友であるBの可愛い可愛い絶望に堕ちた顔が見たかった。」と、高校生Bさんを殺害したことを認めています。警察は……』
このニュースを見た私に衝撃が走る。おかしいなとも思った。けど、受験のストレスでこの気持ちを抑えることは出来なかった。
「たかねの絶望に堕ちた顔が見たい。」
……………………………………………………………………
中学の入学式の前日、私は筆記用具を買いに行こうと高音を誘う。高音はこころよく了承してくれた。
しばらく買い物をしたあとに高音がトイレに行きたいと言った。
「さなえちゃん。私トイレ行きたい。」
「うん!行こっか。」
「ありがとう!」
手足が震えた。買い物の途中でロープとガムテープは買った。チャンスはここしかない。
「さなえちゃん。前で待っててね。」
「……ねぇ、たかねちゃん。」
「なに?」
「実はね、昨日テレビで見たんだけど、ロープで体の決められた場所を縛るとトイレが早く終わるんだって!試さない?」
「うーん。ちょっと怖いけど、さなえちゃんが言うんなら信じられるし、いいよ!」
「ありがとう。」
ロープを縛るために高音に触れる手や指が少しの緊張とワクワクで震える。この後どんな顔を見れるんだろう。
「できた。たかねちゃんどう?」
「うーん、身動きは取れないけどトイレ出やすくなったかも!」
「よかった!じゃあちょっと目瞑って?」
「え?う、うん。」
高音が目を瞑ってくれた。今しかない。私は急いでガムテープを取り出し、切り、高音の口を塞ぐ。
「ん!んんん!」
「ふふ」
口を塞がれた高音が必死に騒ごうとしてる。…可愛い。凄く。可愛い。
「ねぇ、たかねちゃん。私ね、たかねちゃんのこと、大好きだよ。」
ナイフをカバンから取り出すと、高音の顔色が変わり、さっきよりも必死に抵抗してくる。が、小学生の力でギチギチのロープが解けるはずもなかった。
「んん!!んんんんん!」
「たかねちゃん。今までありがとう。いい顔だね。大好きだよ、これからもずっと…ね。」
次の瞬間、私の手には血まみれのナイフがあり、さっきまで元気だった高音は動くことはなく、血まみれだった。私は焦ることも無く、余韻に浸っていた。高音のあの顔、多分一生忘れない。信用してた人からの突然の裏切り。親友に裏切られた顔。私は今、幸せだ。
……………………………………………………………………
後日、ニュースで今日のことが取り上げられた。犯人は分かっていないそうだ。私はもう、この気持ちを抑えることは出来なかった。また絶望顔を見たい。今の私の心の中にはその気持ちしか無かった。
……………………………………………………………………
中学で私は友達を9人作った。普段は何気ない顔で話し、4ヶ月に1人のペースで絶望顔を見た。最初ほどの感動こそなかったものの、やはり親友の絶望顔は最高だった。ペースを空け、証拠隠滅もしたことで私が犯人だとバレることはなく、高校生になった。
……………………………………………………………………
高校に入って、友達を作り、楽しく過ごしていたある日、一通のメールが来た。
『お前がこれまでに女子9人を殺害したことは分かっている。ばらされたくなければもう殺しはやめろ。』
一気に緊張が走った。まさか、バレていたなんて。私は高校でも親友の絶望顔を見ようと思っていたが、バラされる訳にはいかないので必死に堪えた。
……………………………………………………………………
そして時は過ぎ、3年生の文化祭前日。私の毎日は充実していた。対等に話しかけてくれる友達、尊敬してくれる生徒の皆。絶望顔を見たいという欲求もほとんど無くなっていた。そして文化祭当日。私は校内の見回りをしていた。
「みんな楽しそうね。私も最後の文化祭だし、たくさん楽しまないとね!」
そんなことを思いながら歩いているといつの間にか屋上への階段に来ていた。
「いつの間にかこんな所に。考え事も良くないわね。」
そんなことを思いながら戻ろうとした次の瞬間、頭に強い衝撃が走る。痛いと感じる間もなく、私の体はその場に倒れてしまい、意識も飛んで行った…。
……………………………………………………………………
…気がつくと私は教室にいた。周りには見たことがある顔、無い顔、様々な19人の女子学生がいた。
「ここは、どこ?」
まだ痛む頭を抑えながら教室を探索する。すると自分の机の中に何か紙があった。
『ほんとうに絶望顔見なくていいの?ほんとうは見たいんじゃないの?ねぇねぇねぇねぇ?』
「なに…これ。」
急いで紙を隠す。これを見られたら困る。その一心で私は紙を破りポケットにしまった。
「絶望顔はもう見なくてもいい。私は絶望顔を見なくても幸せになれる。今も幸せなんだ。………でも…、あの子可愛いな…。」