カオスの収拾
「うわあぁん! 中学までは私だけのりんごだったのにっ……」
「う、うんうん。夢ちゃん、中学の時も今も、夢ちゃんは私の一番の友達だよ?な、泣かないで〜」
りんごにキスを迫っていた軟式テニス部部長の松平。
それをりんごに咎めて揉めていた許婚の俺。
その様子を見て、三角関係の修羅場かとざわついていた(西園寺含む)他のテニス部員の面々。
その場にいた一同は、宇多川がりんごに濃厚なキスをするという場面を目撃して固まり、その後大泣きする宇多川をりんごが慰め始めるのを、誰も声をかける事が出来ず、立ち尽くすばかりだった……。
「え? 何々? 部長が狙っていた森野さんは、実は里見と許婚で、でも本当は宇多川さんと百合カップルだったって事か?」
「4角関係って事? 複雑ぅ……!」
「っ……」
部員がざわつき始め、このカオスをどうやって収めたらいいんだと途方に暮れていた時……。
ダダダッ!!
いい黒服にサングラスのガタイのいい男性が、豪速でこちらに向かって走って来た。
「お嬢様ぁっ!!」
……!!
いつになく、焦っている様子の彼は、黒川さんだった。
「(ひゃっ! 誰だ、あの黒服?)」
「(任侠の人?!||||||||)」
「あ。黒川さんっ!」
「く、くりょかわ……?」
更に周りがざわつく中、黒川さんは、座り込んで、泣いている宇多川とりんごの前に跪き緊迫した声で告げた。
「お嬢様、旦那様から急遽帰宅命令が出ています! すぐに、お戻り下さい!」
「……! わ、分かったわ……」
宇多川は黒川の言葉に、ハッとしたように頷き、涙を拭いた。
「森野様、多大なご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「い、いえ、そんな。私は別に……」
黒川さんに謝られ、りんごは戸惑ったように小さく首を振っている。
そして黒川さんは、周りを見渡し、人差し指を口元に当てた。
「軟式テニス部の皆様。 お騒がせ致しました。今見た事はくれぐれもご内密にお願い致しますね? ご配慮頂けましたら、宇多川凛蔵の名にかけて皆様の悪いようには致しません」
「「「「「「「「ひっ……! ||||||||」」」」」」」」
黒川さんが凄みを利かせた笑顔で宇多川財閥の長にして、政界の黒幕とも言われる宇多川凜蔵の名前を出された事に、軟式テニス部の面々は震え上がった。
裏を返せば、『この事を喋ったら宇多川財閥が全力で潰しにくる』という事なので、当然の反応だろう……。
「さ、お嬢様」
「夢ちゃん」
黒川さんが宇多川を促し、りんごが彼らの後ろから付き添い、移動する三人と行き会った。
「ふんっ」
「里見様も、この度は大変申し訳ありませんでした。いずれ、お詫びに伺います……」
「黒川さん。いえ、それは構いませんが……」
俺と目が合うと、宇多川はぷいっとそっぽを向き行ってしまい、付き添う黒川さんには申し訳なさそうに頭を下げられた。
更にその後に続くりんごに目を向けると、奴はビクッと肩を揺らした。
「こ、浩史郎先輩……。あの、今の不安定な状態の夢ちゃんを放っておけないの。私もここで夢ちゃんに付き添って帰る事にしますね……?」
気まずそうにそう言い、こちらの様子を窺い見るりんごに俺は思わず鋭い目を向けた。
「俺は放っておいてもいいと、君はそう思っているのか?」
「え、えっと……。そうじゃないけど。浩史郎先輩ともちゃんと話をしなきゃいけないって思ってるけど、その……」
ピリついた空気に、りんごが手を組み合わせて俯くと、俺はため息をついた。
「いいよ。宇多川があんな状態で君が気もそぞろで話し合っても意味ないし、俺も今は冷静に話せそうもないから。
落ち着いたら、後でちゃんと話そう」
「は、はい。分かりました。また、連絡します」
りんごは、少しホッとした表情になり、大きく頷くと、黒川さんと宇多川の後を追いかけて去って行った……。
*あとがき*
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