拓(迷子
ぴよよーん ぽよよーん
手にだらりと握ったままのおもちゃの剣がマヌケな音を出す。
――――――と
『紅蓮の化身、我が掌握へ具現せよっ』
卵のカゴを放り出し、短い呪文と見慣れぬ印を切る仕草。
少女が手の平を犬に向け突き出す。
と 同時に突き出した手の平から渦を描くように炎が出現しそれは拓斗に飛び掛ろうと跳んだ犬の鼻面に届く。
「ギャワワワッツン!」
炎に包まれたわけではないが鼻先が少し掠ったらしく、犬はべちゃりと落下し悲鳴をあげる。
「おおおおおおぉっ?!」
目の前でおこった事についていけない拓斗は目を丸くする。
犬は尻尾を下げキューンキューンとか鳴いて走り去った。
「あああぁ…怖かったぁ~」
手を突き出したままペタリと座り込む少女。
放り出したカゴから卵がこぼれて少女の周りは大惨事だ。
「あ、キミ大丈夫だった?ありがとう助けてくれて」
まだ恐怖が抜けないのか顔色が少し悪いがそれでも拓斗を見て微笑む。
「いやいやいや、オレ何にもしてねーし…てかさ、魔法だよな今の?オレいかにもな魔法みるの初めてだよ!三つ子が使ってたのはなんか移動~とか光ピカピカ~みたいのだけでさ。すっげえな!火が出てたじゃん!!いかにもファンタジー!」
放心から立ち直り、喋っていてしだいに興奮しだした拓斗がおもちゃの剣をぶんぶん振り回しながら瞳を輝かせている。
「え?魔法見たことないって…キミこの辺の子じゃないの?それに三つ子ってまさかお城の?」
ぴよよーん とか鳴るおもちゃの剣と拓斗の顔を交互に眺め少女が首を傾げる。
「ふっ、聞いてモノノケ!オレはなんと異世界から来た勇者・つまり救世主なんだぞ!!」
剣を頭上に掲げ胸を張る。
ぴよよーん ぽよよーん
「…物の怪?」
少女は首を傾げたまま眉を顰める。
ツッコミどころはそこ以外にも沢山あるのだが。
「まあ、サインはまだ考えてねーからまた今度な。てかさオレちょっと人探してんだけどさーなんか見つかんなくてさ、…つうかここドコ?」
それになんか腹へったー喉渇いたー などとぼやく拓斗。
「えーキミ迷子なの?じゃあ、とりあえずウチにおいでよ。お菓子くらいしかないけど、助けてくれたお礼。その後に警備の兵士さんとこ連れてってあげる」
そう言うと少女は立ち上がり無事だった卵をカゴに拾う。
オレが迷子なわけじゃなくってアイツラが勝手にーとか拓斗がブツブツ呟くが迷子の原因となった『なんだすっごくいい匂い』が少女の周りに漂っていることに気付き神経を嗅覚に集中させる。
…もしやこの卵もお菓子の材料だったのかも。
知らずあふれ出てくる唾液を拭い、『知らない人に「お菓子をあげるよー」と言われてもついていっちゃいけません』という親や学校の先生が念仏のように繰り返し教えたはずの注意のかいもなくいそいそと少女について歩き出した。




