五人目の地球人
男の姿が消え、左から轟音が響く。目を向けると、腕を交差して男の拳を受け止める冬馬の姿があった。
「と――っ」
足が地面から離れる。
身体強化を施し、冬馬の元へ駆け寄ろうとした俺だったが、一歩踏み出そうとした筈だったが、踏み出した足が地面に到達する事は無く、身体ごと宙に浮かされていた。
「――あっちの子はいいけど、君はまだまだだね」
平衡感覚もなくなった状態。そんな声だけが鮮明に聞こえたと思ったところで、勢いよく地面に激突する。
「が――ッ!?」
「うーん、魔力特化型なのに"部分強化"もしないで俺っちに対抗しようとするなんてねー。まあ、ゼルとかと比べると大分身体能力も高いみたいだけど、それだけじゃあダメよ~ダメダメ」
地面へと叩きつけられた衝撃をなんとか回復魔法で治す。集中しきれなかったせいか効力が低く、まだ身体へのダメージが残っているが、何とか立ち上がれた。
男は俺が立ち上がるのを待っていたようにその場にしゃがみ込んで笑っている。俺の対面に立つ冬馬には、自らの背中を見せてる体勢となっているが、その状態でも冬馬が男に攻撃を仕掛ける事を躊躇っている。
「おー、すぐに立ち上がるのは予想外だね。後ろの彼も、むやみに突っ込んでこなかったのは正解かなー。多分来てたら殺しちゃってたし」
笑顔を崩さずに飄々と"殺す"と発言するこの男。もう、間違いないだろう。コイツが――
「あっ。気付いてると思うけど、俺っちが"レイト=イサキ"。本名は"伊岬玲斗"。よろよろ~」
ゼルを拉致した張本人だ。
小さく両手を振るレイト相手に、俺も冬馬も身動きが取れない。勿論ミーナとリンちゃんに至っても同じ状態だ。顔はにこやかだが、こっちの動きひとつで状況がどう変わるか分からない今、不用意に動けない。
「むっ。最近の若い子は冷たいねー、おっさんがこんなに平和的解決の為に手を振っているというのに……って誰がおっさんじゃっ。俺っちはまだ22だよっ」
一人でしゃべり続けるレイト。軽口を叩けるのなら『何が平和的解決だと』声を大にして言いたい。そもそもゼルを攫ったそっちからの始まりだろうと。
「それは違うんだぜ黒髪男子。ゼルは元々俺っちたちの仲間だったの。仲間を回収することに何の問題があるってんだい?」
ビシッ! という効果音が付くような勢いで人差し指を向けられる。人を指差しちゃいけませんってお母さんに習わなかったのか。
「ザ~ンネン。俺っちの両親は、俺っちが生まれた時にはすでに地球にいないかったのさー。あ~あ、過去の話を掘り返されてかーなしーなー」
言葉とは裏腹に悲しさなんて微塵も感じさせない様子で天を仰ぐレイト。話が進まず、埒が明かないと思い始めた時、冬馬が一歩前に出る。
「よぉ、何でもいいんだけどよぉ。ゼルの野郎はどこにいるんだ?」
冬馬の質問に言葉は返さず、首を捻って目を合わせる事で対応するレイト。
そのまま立ち上がり、冬馬の近くへ移動する。急な動きの変化に身構えているた冬馬だったが、不意に肩に手を伸ばされて、そのままバシバシと叩かれ始める。
「いやーいいよいいよその気迫! 俺っちに物怖じせずに向かってくる感じ! 力の差は歴然なのによくその勇気を出せたなー! 俺っち感動しちゃうぜっ!!」
「お、おい! 何だよテメェ……って痛ェから! そのバシバシ半端じゃなく痛ェから!!」
一頻り冬馬の肩をバシバシしていたレイトだったが、満足したように冬馬から距離を取り、俺の元へとやってくる。
近付かれて改めて感じるその存在感。ゼルやリンちゃんと対峙した時とは比べ物にならないほどの重圧が俺を襲う。まさに蛇に睨まれた蛙……と言ったところか。
思い知らされているんだ。今の俺たちでは、コイツには勝てないという事を――
「そんなに固くなっちゃって~。リラックスリラァックスしなきゃ~」
動けない俺の耳元へ頭を近付ける。
「大事な大事なお姫様も守れなくなっちゃうゾっ」
「――ッ! "ライ・ガン"ッ!」
俺に近付いたことで、ほぼゼロ距離で撃ち出された"ライ・ガン"を、その身を捻る事で簡単に避け切ったレイト。その勢いを利用して戻り、再び俺の正面に立つ。
「いきなり術ぶっ放してくるなんてヒドイなぁ黒髪男子。お兄さんが避けなかったら致命傷だったんじゃないかい? そのつもりで撃ってたなら残念無念また来週~ってヤツだけどねぇ」
「……"避けられなかったら"とは言わないんだな」
「うん。そんな訳ないからね」
「だろうな」
だけどまあいい。俺の今の攻撃はただの合図だ。本命は――
「本命は茶髪男子の物理攻撃……だよね?」
俺が"ライ・ガン"を撃った直後に身体強化のギアを上げて走り出した冬馬。レイトの背後を取りそのまま猛攻を仕掛けるが、冬馬に背中を見せたままその攻撃を全て避ける。
「なっ!?」
「このォ――ヤロウッ!!」
小さく連打していた冬馬の振りが大きくなった瞬間、レイトが一瞬で冬馬の背後へ回る。そのまま左手で冬馬の頭を掴み、地面へと叩きつける。
地面が割れる激しい破壊音が鳴り響き、冬馬から血飛沫が舞う。
「冬――」
「あ。隙見ーっけ。まあ元々隙だらけだけど」
冬馬の元へ駆け寄ろうとした俺だったが、それよりも速くレイトが俺のは背後へ回り、冬馬と同様に地面へと叩きつける。
「ガ――ッ!?」
「んーいいねえ。一回やってみたかったんだよねこういう事。……お前は、無力だ。的なっ」
ヤツの……軽口が、耳に入らない。少しでも気を逸らすと……意識が飛び、そうだ。
「この程度で終わっちゃうとか、よくゼルの為にこんなところまで来ようと思ったねえ。因みに今の俺っちと君たちの実力の差を具体的に話すと、俺っちが戦闘力五十三万、君たちは……そうだ! 私はこの左手だけで闘ってあげますよ。って感じ」
どうにか立ち上がり、血が流れる額へと回復魔法を使う。俺の傷が一通り治ったところで、冬馬にも回復魔法を使う。
「おっ。復活したのかな? さっきの感じで例えると、千切られた腕を再生させたってトコロかな。魔力が大分減ってきてるぜ、男子たち」




