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【第六話】決して離れるのことのない、縁。

_____________________________________


――第二貨物室


なんとか、第二貨物室にたどり着けた。

ドロシィの言葉が本当ならここにお姫様がいるとのことだが。


「これは……。」


思わずため息が出そうな光景が広がっている。

その理由は第二貨物室が最初に見た第一貨物室と同じぐらいの広さの部屋で、

さらに荷物の量もほぼ変わり様がないからだ。

怪我を負っている状態でここからあのお姫様を探すとなると、

さすがに骨が折れる。

どうしたものか。


「ほう……怪我した野ウサギの後を追ってみたら、白い狼が釣れたね。」

「あら、あなた。この子、怪我しています。」


扉の前で絶望感に浸っていると、後ろからの気配に気が付けなかった。

自分の真後ろで優しげな顔をした一国の姫君のような気品のある女性と、

獣のような鋭い眼光をした、優しい男性が微笑んでいる。


「あ、あなたたちは……。」


あの魔モノの襲撃の時にいた、

魔法で支援しながら獣と化して戦っていた夫婦だ。

しかし、その微笑はまるで迷子の子供を見つけた親のようではなく、

それは、狩りを楽しむハンターの顔をしているように感じた。


「しかし、なかなかひどい傷だねぇ。誰にやられたんだい?」

「あなた、それよりも治療を先に。」


自分の中で警鐘を鳴らしている、この人たちは危険であると。

そしてこの気配は以前にも経験したことがある。

自然と体に染みついた恐怖から、後退りをしてしまう。


「ちょっと……治療しますのでジッとしてくれますか?」

「大丈夫、僕らは何も君を取って食おうってわけじゃないさ。」


余程恐怖に満ちた顔をしてしまっていたのか、

二人がかなり心配している。

何もしてこないところを見ると本当に治療してくれるのだろう。

これ以上距離も詰めてこないし、なんだか申し訳ないことをした。


「あ……す、すみません……。」

「なに、気にしてないさ。おそらく僕らの同胞と一度やり合ったのだろう?」

「アクアヴェイルにいたのですから、

おそらく【ジャガーホーク】さんでしょうか?」

「あー……彼は中々にえげつない性格をしているからね。」


やはりこの人たちは猟兵旅団のメンバーのようだ。

雰囲気や目つきが依然感じたことがあるのは例の狩人の仲間だからだろう。

例のアクアヴェイルでの一件以来、あの狩人には目の敵にされているし、

あまり、関わりたくはないのだが。

それにしても、あのエイファを狙っていた狩人、ジャガーホークと言うのか。


「まぁ、安心してくれ。彼は同胞だが、

別に彼の敵だからと言って僕らが君を狩る、なんてことはしないさ。」

「えぇ……そもそも、一般人を狩るのは私たちの流儀に反します。」


その言葉を聞いて、少しは気持ちが落ち着いた。

そしてそれを察してか、女性が近づき、治療を始める。

かなり安らぎのある心地良い魔術で、

みるみるうちに傷は塞がり、痛みも和らいでいく。


「……はい、これで終わりです!」

「相変わらず素晴らしいね、ヘスティアの魔術は。惚れ惚れするよ。」

「やだっ、あなたったらー!」


目の前の夫婦がいちゃつき始めたが、それはそっとしておこう。

それよりも、さすがに治療までしていただいて、

それじゃバイバイというわけにもいかないので、

お礼と自己紹介ぐらいはしておかなければ。


「すみません……本当にありがとうございました。俺はハクって言います。」

「ほぉ……ハク君って言うんだね?うん、覚えた。」

「あら、ハク君ってそのまんまな感じの名前ですね!」


二人はにこやかな笑顔を浮かべ、最初の雰囲気はもうなくなっていた。


「僕は【ベルゼルガ】で、こっちは妻の【ヘスティア】。

まぁ、ここで会ったも何かの縁だ、よろしくな。」


ベルゼルガは握手を求めるように、手をこちらに突き出してきた。

ベルゼルガは紳士服の服装にハットをかぶっている、

自分より身長が大きく中々な大男だ。

ヘスティアは前から思っていたのだが、

服装からもどこかの姫君のような雰囲気を纏わせている。


「さて……それよりも君はどうして怪我を負っていて、

こんなところにいたんだい。」


この二人に今までの経緯を話していいのだろうか。

もちろん、巻き込んでしまうのをためらうという意味もあるのだが、

まだこの二人を信用しきれていないし、どうしたものか。


「……あら?そういえば、あの小さなお嬢ちゃんはどこにいるのでしょう。」


ヘスティアがイラの不在に気が付いたようだ。

これは下手に取り繕ってもバレるのは時間の問題だし、

素直に話すことにするか。


「えぇ、実は――。」

_____________________________________


「ふむ、船内でそんなことが……。」

「怖いですね……。」


イラがいなくなってから今まで何が起きたのかの状況を二人に簡潔に伝えた。

ドロシィとクルルの下りは省いたが。

二人はこの騒動の時は後方デッキにいたらしく、

自分の血の臭いが漂ってきて異変を感じ、ここまで来たらしい。

しかし、血を嗅いでここまで来るとは、やはり狩人か。


「あの聖職者のおっさんが本を盗まれる……か。」

「……聖職者にとって自分の聖書は命の次に大事なものですからね。」

「そうなんですか?」

「えぇ……聖書とは言わば聖職者の信仰心そのもの。

あれがなくてはブリジットハーツの教会に入れないどころか、

魔術もろくには扱えないでしょう。」


魔術もろくに扱えない状態であの威力か、

やはりシンバサはかなりの手練れだったようだ。

しかし、そうなると聖書を盗まれた時のシンバサの気持ちはわからなくもない。


「とにかく、だ。聖職者のおっさんもそうだが……イラちゃん、だっけか?

あの子はここにいるんだろう?早く探しそうか、ヘスティア。」

「そうですね……。では、少しお待ちください。」


ベルゼルガがヘスティアの方を振り向き、

彼女はそれに応えるように呪文を唱え始めた。

彼女を中心に波紋のようなものが広がっている、探知魔術の一種か。


「あの奥の方に反応が……しかし、この反応は……。」

「何か見つけたのかい?」

「反応の大きさからはイラちゃんではないみたいです。

ですが、一人……大人でしょうか、動いていませんね……。」


どうやら部屋の奥の方にイラではない何かがいるようだ。

とりあえず、3人で近寄ってみると、

近づくにつれ、ベルゼルガの顔が険しくなっていく。


「あんまり好きじゃない臭いだねぇ……。赤く鉄の混じった腐った臭いだ。」

「……?」


ベルゼルガは血の臭いを察知することができるようだ。

狩人の性からだろう、遠くからでも血の臭いがしたらすぐにわかるようが、

自分にはまだそういった血の臭いは特に感じられない。


「あなた・・・?」

「おかしいね。かなり近いはずなのにどこが発生源かわからない……。」


ヘスティアがかなり驚いた顔をしているが、よほど珍しいことなのだろう。

確かに、彼女が探知した場所はこの辺りだが、臭い一つしないのは謎だ。


「ここからみたいですね。」


彼女が指さしているところには大き目な箱が設置されていた。

その箱から嫌な気配を感じ、顔をしかめてしまう。

それに対し、彼らは平然としたこんな気配は日常と言っているような顔だ。

この箱は本当に開けてもよいのだろうか。


「これは……。」

「まぁ、開けてみるか。」


何のためらいもなく、ベルゼルガは箱を力いっぱい開ける。

開けた瞬間、何かのバチッとした音と共に、腐臭が勢いよく広がった。

そこから現れたのは――


「う、うわあああああああああああああ!!!」

「これはこれは、中々悪趣味だね。

服装から見て、乗客にいた小太りのおっさんかな?」

「あら、昼からお見掛けしませんと思っていたら、こんなところに……。」


箱一杯の赤く染まった何か、流れてくる赤い液体、

肌に直接付着するような生臭った鉄の臭い。

目の前に広がるのは決して人とは呼べない、塊のような形状をしていた。

あまりに悲惨で非情な光景に、思わず吐き気を催してしまう。

二人はこんな惨状を目の当たりにしても、

顔色すら変えずにむしろ興味があるようにそれを調べている。


「これをやったのはかなりの手練れのようだね……。

あの魔術陣といい、この形状といい、中々厄介だ。」

「あなた、さっきの魔術陣は【フォールクヴァング】のもので

間違いありません。」

「少し時間がかかったようだね。余程の――。」


次々にそれを躊躇なく漁りながら推察を繰り広げている夫婦。

それに対し腰を抜かし、青ざめながら座り込んでいる青年。

なんとも見苦しく、恥ずかしいことだろうか。

自分が今すべきこととは、自分が昨日の夜、イラと誓ったこととは。

そういった思いが頭の中をぐるぐる回る。


強くならなくては――。


気合でなんとか落ち着きを取り戻し、息を整える。

そして、自分の遺志を彼らにぶつけるように立ち上がり、

目を見開きながら彼らをまっすぐに見る。


「!?驚いたな。これを見ても平気なのかい?」

「あまり無理をなさってはいけませんよ……。

これは常人には中々クるものがございます。」


彼らは驚いた表情を浮かべた後、

すぐに新しいおもちゃを見つけたような興味を示した顔をした。

こいつはなかなか面白いやつだなと言わんばかりの表情を浮かべている。


「……大丈夫です。それよりも続きを……。」


これから強くなろうって思っている奴が、

死体の一つや二つ見て腰抜かしているのでは笑われてしまう。

今なすべきこと、それは犯人の特定と追跡、そしてイラの捜索だ。

とにかく、自分の決意をベルゼルガにぶつけてみる。


「……そうだね。

とにかく、犯人はフォールクヴァングの奴で間違いないようだ。」

「フォールクヴァング?」

「あら、知りませんの?あんなに有名ですのに……。」

「フォールクヴァングはブリジットハーツに拠点を置いている聖職者の集団さ。

基本的に、ブリジットハーツにいる聖職者は皆、そこに所属している。」

「……その集団が今回とどういうつながりが?」

「箱を開けるとき、バチッって音が鳴っただろう?

あれは箱に仕掛けられた【魔術陣】というトラップみたいなものさ。

今回の魔術陣の特性は臭い消しと存在感を薄めるみたいだ。

そして、その魔術陣は地域ごとに書き方に特徴が出てくるって感じだ。」


ベルゼルガの説明から魔術陣という新しい言葉が出てきた。

魔術陣、様々な効果をもたらす魔術を色々な場所、物に設置できるものだそうだ。

魔術陣ごとに様々な特性があり、その使い方は多岐にわたる。

今になってみるとハルフィードの村が隣の森の魔モノ達から襲撃されないのは、

こういった魔術陣を張っているからだろう。

魔術陣について考えていると、いきなりバックが光始めた。

また例の本に何かが刻まれたようだ。


「……何かバッグが光っているけど、大丈夫かい?」

「だ、大丈夫です。続きを……。」


しかし、今はベルゼルガの推理に集中しよう。

本は後からでも確認できる。


「……そうか。それから、一度解除された魔術陣は基本的には残らないのだが、

うちのヘスティアはその残留を辿ることができる優秀な魔術師でね。

誰……とまではいかないが、どういった特徴だったかってのはわかるんだ。」

「それで出てきたのが……。」

「フォールクヴァングの特徴。つまり犯人は……聖職者だ。」


ベルゼルガがニヤリと笑った。

_____________________________________


――客室前廊下。


現在、客室前の廊下に一人で佇んでとある人を待っている。

すると、下の階から階段を上ってくる人物の姿が見えた。

鼻歌交じりに体が踊って歩いているところから、相当上機嫌なようだ。


「ふんふふん~。おや……?」


こちらに気が付いたのか、鼻歌を止め立ち止まる。

それに合わせてこちらから声をかけた。


「さっきは危ないところを助けていただいてありがとうございます。」

「やあ、君はおっさんに襲われていた白髪の!足は大丈夫だったかい?」

「えぇ、もう大丈夫です、治療もしましたし……。

それより……シンバサさんはどこにいるか知っていますか?」


そう、自分が待っていたのはあの船を守っていた青年だ。

シンバサに襲われていた時、寸でのところで助けてくれた彼は、

あの後シンバサと共にどこかへ行ってしまった。


「……知らないねぇ。

あんまりあのおっさんに近づかないほうがいいんじゃない?」

「シンバサさんの居場所を聞いているんです。

あの後、二人でどこへ行きましたか?」

「……君、もしかしてドMなの?もう一度、あのおっさんに襲われたいわけ?」


さっきまで上機嫌だった顔付きが段々と真面目に、真顔になっていく。

しかし、それでも追及を止めることはない、止めてはいけない。


「さっきから、シンバサさんの姿が見えないんです。

何か心当たりがありま――――ガッ!!」

「……うるさいねぇ。」


距離は結構離れていたはずなのに、いつの間にか目の前に青年がいた。

そして、自分の首を片手で締め上げておりかなり苦しい。

振りほどこうにも体格に似合わないような物凄い力をしており、

抵抗してもビクともしない。


「ガッ……グッ……!!」

「アハハハハハハハ!!てめぇもついでにやっておこうか!!」

「アッ……ッッ……。」


一体、この細い腕のどこからこれほどの力が出ているのだろうか。

剣で抵抗しようにも、体が思い通りに動かなく、何もできない。

奴の目は恐ろしくも楽しんでいるように見える。

そろそろ限界だ。


「さぁ!!あの世で後悔しな!!終わ――――ッ!!」

「オマエガナ!!」

「チッ!!まだいたのか!!」


ベルゼルガが獣姿の状態で物陰から青年に奇襲を仕掛けた。

そして、奇襲は見事成功し、彼の左腕は吹き飛ぶ。

しかし、後5秒遅かったら自分も天に召されていたのかもしれない。


「ガハッ!!ゲホッゲホッ!!アーアー……し、死ぬかと思った……。」

「いやはや、君らとは敵対しないと思っていたのだけどね。」

「ソレハ同感だが、さすがに罪を犯したモノを見逃せないね。」

「……やはり、厄介だな猟兵旅団。」


獣状態を解除するベルゼルガの隙を見て、

青年はすぐさま吹き飛んだ左腕を拾い、後方に逃げ間合いを取った。

お互い均衡状態が続き、静寂の時間が流れる。

すると、青年の方から何やら別の声が微かに聞こえ始めた。

自分たちには辛うじて聞こえないぐらい小さな声だ。


「了解……まぁ、用も済んだし、ここいらで退散させてもらうよ。

また会おう、猟兵旅団の諸君と白髪君。」

「逃がすと思うか!まて――――くっ!!」


言葉の終わりと同時に激しい光と音を放ち、眩しすぎて目が開けられない。


「……惜しかったな。逃げられたようだ……。」


ベルゼルガの声と聞く頃には眩しさもなくなり、目を開けることができた。

どうやら、あの青年には逃げられてしまったようだ。

_____________________________________


――第二貨物室。


時はあの青年との戦闘から少し遡る――。


「フォールクヴァングの特徴。つまり犯人は……聖職者だ。」


ベルゼルガがニヤリと笑った。

しかし、その言葉を聞き、自分の中でモヤモヤしたものが生まれる。

それが何なのかわからないが、とにかく彼らに伝えたほうが良い気がした。


「……ちょっと気になることがあるんです。」

「ほう、それはなんだい?」

「……あの死体はだって昼から今にかけての最近のものですよね。

自分がシンバサの部屋の扉が開いていたのは昼前の頃。

つまり、昼頃には聖書を手にしていないんです。」


そう、自分が疑問に思っていることは、あの魔術陣のことである。

あの魔術陣は確かにヘスティア達が言っていた、かなり高度の術であると。

しかし、聖書をなくしたシンバサがそのような高度な魔術陣を描けるのだろうか。

しかも、いくらシンバサが強者だからと言って、聖書なしに誰にも気づかれずに、

小太りのおっさんを塊にして隠すほど器用ではないと思う。


「確かに、あの高度な魔術陣は聖書なしの聖職者が書くには中々難しいね。」

「あなた、それにそもそもあの聖職者様の魔術は無属性と光属性でしたわ。

このような塊にできるような魔術は持ち合わせてはおりません。」

「では一体だれが……?」

「一人だけ心当たりがあります。それは――――。」


そう一人だけ心当たりがある。

自分が見た中で相当な実力者で、シンバサとも接点があり、

さらにはこのような魔術を使える者を自分は知っていた。

そして確信をもって言える。

そう、あの青年しかいないと――。

_____________________________________


――第一貨物室。


ちなみに、あの青年との戦闘の間、ヘスティアにはシンバサの探索を頼んでいた。

悲しいことにどうやら見つかったのは、物置部屋のロッカーに塊となって、

詰め込まれていたようだ。

そして戦闘後、二つの死体を乗組員に連絡し、起きたこと全てを船長に話すと、

船長からはこのことは他言無用でお願いしたいと言われ、

さらにはベルゼルガからもこのことはもう忘れたほうがいいと言われた。


そしてそれから、当初の目的であるイラ捜索をやっと再開。

ヘスティアに頼み、船全体を探知してもらいイラの場所を突き止める。

どうやらここ第一貨物室、一番最初に来た場所にいるようだ。


「どうやら、ここに眠っているらしいねお姫様は。」

「あら、そちらの箱の中にいるようですね。」


第一貨物室に入ったすぐそばに藁が入った少し大きな箱がある。

箱の中を上からのぞいてみると、安らかに眠っているお姫様の顔を拝めた。

それと同時にカンカンと鐘を叩く音が聞こえ、乗組員の声が遠くから聞こえる。


“エールに到着いたしました。乗客の皆様は忘れ物がなさいませんよう、

お気を付けてお降りください。”

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