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【第五話後編】手は結ばれ、心は離れる。

_____________________________________


――二日目、前方デッキ。


暑い日差しが体に差し込み、その眩しさで目を覚ます。

穏やかな波の音と程よい涼しさの潮風が中々に快適だ。

欠伸をし、周囲を見渡すと、誰もいない静かな空間が広がっている。


「……ん?」


誰もいない。そう、あのちびっ子もいないのだ。

周囲を捜索しても見つからない。

どこに行ったのだろうか。


「おーい!」


わかってはいたが、呼んでも出てこない。

とにかく探すためにデッキから移動することにした。

_____________________________________


――第一貨物室


デッキから船内に入り、一番近い部屋に入った。

そこは中々の広さの部屋で、

積み木のように大きな箱のようなものがたくさん積み上げられている。

これはエール行に届ける荷物だな。


「かなりたくさんある……。」


見上げるほど積み重なって今にも倒れてきたら埋もれてしまいそうだ。

さすがにここにはいないよな、と思いつつも物陰など探してみる。

もともと見つけるのが困難なくらい小さいのに、

こんなにモノがたくさん置いてある広い場所となると萎えてしまう。


「このぐらいで次に行ってみるか……。」


引き返し、部屋を出た。

_____________________________________


しばらく歩いていると、いくつかの部屋が並んでいる。

部屋の扉には番号が割り振られており、部屋の間隔は狭い。

どうやらこの部屋の作りからして、ここら一帯は寝室のようだ。


「誰かいるのかな?」


コンコンと一つ一つノックをしてみるも、返事が返ってこない。

全ての部屋がもぬけの殻のようだ。

しかし、一部屋だけノックをしようとすると部屋が勝手に開いた。


「あっ……。」


鍵をかけていないところを見ると、誰か中にいるのだろうか。

少しだけ中を覗いてみるが、気配すら感じられない。

単なる鍵のかけ忘れか、はたまた寝ているのか。

これ以上踏み込んで泥棒扱いされても困るので、

そっと部屋を出て次なるところへ目指した。

_____________________________________


――休憩所


先ほどの部屋から出て、もっと先に進んだところに休憩所があった。

途中いくつか部屋があったが、鍵がかけられており入れないようだ。

他に行く当てもないので入ってみると、なかなか狭く、人が3人ほどしか休めない簡易的なつくりになっている。

部屋を見渡すと、一人椅子に座っている見慣れた顔ぶれに遭遇してしまった。


「あらあらぁ?あなたはぁ、昨日のぉ……ハク君!」


そのねっとりとしたこそばゆい特徴のある声だ。

ドロシィ――昨日のデッキで出会い、シンバサとひと悶着あった後に、

姿をくらました妖美で怪しい女性である。

椅子に座って足を交差し、妖美な視線でこちらを見つめてくる。

一瞬名前を言う前に大きな間があったのは気のせいだろうか。


「あらぁ?今日はあなた一人ぃ?あのおちびちゃんはどこかしらぁ。」


キョロキョロと自分の周囲を舐めまわすように見てくるドロシィ。

しかし、イラが一緒ではないとわかった瞬間、残念そうにした。


「その、朝起きたらイラがいなくて……どこにいるか知っていませんか?」


シンバサの言葉を信用するなら、

あまりこの人には相談してはいけないのだろう。

少し悩んだが、まぁ聞くぐらいだったら大丈夫だと思った。


「残念ながら知らないわねぇ……。

何なら私の魔術で探してあげましょうかぁ?」

「うっ……。」


ドロシィは鼻歌交じりでニコニコしながら話している。

ドロシィの運命属性の魔術は、人の運命天運さえも変えてしまうという。

そんな未知の魔術をイラに使わせて大丈夫なのか。

これでも旅の仲間だ、万が一のことがないようにはしたい。


「あらぁ、大丈夫よぉ。変ないたずらはしないつもりぃ。約束するわぁ。」

「ほ、本当に……?」


悩んでいるとドロシィが満面の笑みで言ってきた。

そんなことしないわよと言いたそうな顔でこちらを見つめている。

しかし、ただでは協力してくれないのだろうな。


「……何が目的だ?」

「……話が早いわねぇ。」


自分の言葉を聞いてか、ニヤリと口角を上げた。

そして、悪魔的な笑顔を見せ、自分にこう言い放つ。


「ここの乗客にぃ、あの聖職者がいたでしょぉ?

あいつをぉ……“殺してきて”?」

「っっ!?」


最後に冷徹な笑みを浮かべる。

追われていて鬱陶しいから殺せと、しかも、満面の笑みで。

やはりこの人は危険な人物であるのは間違いなさそうだ。

とっさにドロシィから距離を取り、身構えてしまった。


「……アハハハハハ!!じょうだんよぉ!じょうだん!アハハハハハ!!」


ケタケタケタとお腹を抱えて大きな声で笑っている。

どうやら、からかわれていたらしい。


「でも、ちょっと冗談を言っただけであんな顔をするなんてぇ。

意外にうぶなのかしらぁ。」

「あなたのは冗談かどうか本当にわからないんですよ……。」

「あらぁ、どういう意味ぃ……?」


自分が言ったことに対してよくわかっていないのか、考え込んでいる。

猟奇的な雰囲気を醸し出しているドロシィからは、

正直本気でしてこいと言われても納得するしてしまうだろう。

それほどまでに彼女からの雰囲気、口調、表情は妖美なのだ。


「まぁ、本当はぁ、今とある人に追いかけられているのよぉ。

そこでぇ、その人に言伝をお願いできないかしらぁってぇ。」

「言伝?」


追われているってどういうことなんだろう。

それに逃がしてくれ、ではなく、言伝を頼むと言ってきた。

まぁ、この人のことだし、何かあるに違いない。


「そうよぉ。こう伝えてくれるかしらぁ。

“急用を思い出したからぁ、戻るわねぇ”って。」

「これだけ……?」

「後はぁ……そう言って消えちゃいましたぁって付け加えると100点ねぇ。」


ドロシィは人差し指を顎に当てて考えている。

一つ一つの仕草がいちいち妖美で並の男なら簡単に魅了されてしまうだろう。

しかし、そんな簡単なことを伝えるだけでイラの居場所がわかるなら、

手伝うに越したことはない。


「わかり、ました……ちなみに誰に伝えれば良いんですか?」

「そんなの決まってるじゃなぁい。“クルルちゃん”よぉ。」


何を当たり前のことを聞いているの、と言う顔をしている。

前言撤回、伝える内容は簡単でも伝える相手が激難だった。

しかし、あの【緋】とドロシィが繋がりがあったとは驚きだ。


「……確認しておくが、クルルってあの【緋】ですよね?」

「あの子、そうとも呼ばれていたかしらねぇ。」


追われているとは言っていたので、敵同士で間違いなさそうだが、

ドロシィ的には敵対視はしていないようだし、どういう関係なんだ。

そもそも、あの【緋】に近寄って話しかけても大丈夫なものなのだろうか。


「まぁ……わかりました。会ったら伝えておきます……。」

「あらぁ、心配しなくても大丈夫よぉ。場所はわかっているからぁ。」


言いたいことはわかってるよなと言わんばかりに、

ニコニコしながらこちらを見つめてくる。

つまり、今から会いにいってすぐに伝えてこい、

とおっしゃっているのですね、わかります。


「……。」

「少し待っててねぇ……。」


そういうと、何もない空間からカードの束を取り出し、空中に並び始めた。

そして、並べ終えると静かに唱え始めた。


「汝の魂、いずこへ向かう。迷える子羊に照らす光を……。」


そういうと一枚のカードが光始め、ドロシィの顔の前まで移動する。

そのカードを手に取ると、残りのすべてのカードは消えてしまった。


「あらぁ、ここはぁ……ここから少し離れているわねぇ。

もっと“下の階の物置部屋”かしらぁ。ここにいるわねぇ。」

「下の階の物置部屋……?」

「まぁ、ともかくぅ、早く伝えてきてくれないかしらぁ。」


急かされるように、この部屋を後にした。

_____________________________________


――物置部屋


ドロシィといた部屋から数十分歩いたところに物置部屋と思わせる扉を発見した。

というより、ここまでの道中、乗組員の人に聞いたのだが。

それよりもさすがは物置部屋といったところか。

こじんまりとした場所に佇んでいる。


「本当にこんなところにいるのか……?」


静かに扉を開け、中を窺うと、微かに熱を帯びた空気が漂っている。

しかし、肝心の姿は見えない。


「隠れるような場所はないし、一体どこに……。」


部屋は真っ暗で、色々な物が置いてあるが、隠れるような広さはない。

物も掃除用具のような小道具しか置いておらず、

これといって影になるようなものはない。

このままでは埒が明かないので、呼んでみることにした。


「おーい、クルル!いるんなら出てきてくれ!」

「……。」


部屋全体に広がるような声を出したが、反応はない。

そもそも、本当にここにいるのだろうか。


「ドロシィに嵌められたのか……?」


仕方なく、ドロシィのいる部屋に戻るために部屋を出ようとした時、

いきなり、熱波が襲い掛かってきた。


「おい、待て。確かドロシィと言ったな。詳しく話を聞かせろ。」


言葉と同時にクルルが真後ろに現れ、首元にあの特大剣を当てられている。

緋のクルル――。

イラと同じぐらいの年頃でありながらも強さでは他の追従を許さない、

炎を纏った少女だ。

その気迫と雰囲気から緊張感と恐怖感でまったく動けない。


「なんとか言ったらどうだ。……まさかあのくそ女の仲間か?」


ドロシィの仲間と思い込んだ瞬間、益々強い殺気を放ってくる。

それに比例して、熱量も増え、首元がじわじわと焼けていく。

さすがに何か言わないとこのままではベーコンになってしまう。


「……ま、待て。俺はドロシィの仲間じゃない。

あいつの言伝をお前に頼まれただけだ。本当だ……。」

「言伝だと……?」


ドロシィの仲間じゃないとわかったのか、剣を首から離してくれた。

しかし、未だに殺気は解いてはくれない。


「あぁ、“急用を思い出したからぁ、戻るわねぇ”って言って、

それから消えてしまったんだ。」

「戻る?……まさか、【セブンスミスト】か!?あのクソ女!!」


セブンスミストという単語を口走り、怒りを露わにしている。

周りの熱気がそろそろ耐えられる限界に到達しそうだ。

クルルをどうにかしなければ、自分だけではなく船が燃えかねない。


「……い、一体、何があったんだ?」

「あぁ!?あのクソ女、【コルル】に何かしたらただじゃおかねぇ!!」

「コルル……?」


コルルとは人の名前なのだろうか、よっぽど大切なものらしい。

とにかく意識をこちらに向け、怒りを抑えなければ。


「と、とにかく、早く追いかけたほうがいいんじゃないか……?」

「……チッ、確かにアンタと話している場合じゃねぇ。」


冷静になり怒りがおさまったのか、殺気を解いて特大剣を消した。

熱気も少しずつ弱まってきている。


「ふんっ、まぁ伝えてくれたことには感謝する。

アンタもせいぜいあのクソ女には気をつけなよ。」


そういうと、クルルはボッと炎に包まれ、またどこかへ消えていった。

おそらく、ドロシィを追ってセブンスミストと言うところへいったのだろう。

それにしても、ドロシィと言う名前を聞いただけであの殺気、

一体ドロシィと何があったのか。それにコルルと言う名前についても気になる。

結果はどうであれ、なんとかミッションは無事に果たした。

後はドロシィがいる部屋に戻ることにしよう。

_____________________________________


――休憩所


なんとかクルルとの一騒動を終え、部屋に戻ってきた。

しかし、部屋にはドロシィの姿が見当たらない。


「どこへ行ったんだ……?」


いくら探しても気配すら感じられない。

しかし、ドロシィが座っていた椅子に何か紙が置いてあった。


“あなたのお姫様は第二貨物室でかわいい顔で寝ているわぁ”

「第二貨物室……?」


これはドロシィが書いたもので、おそらくイラのことだろう。

第二貨物室で寝ているっていったいどういう状況なのか。

現状ドロシィに振り回されている感が否めないが、

それしか手掛かりがないのも事実。

大人しく第二貨物室に向かうことにした。

_____________________________________


休憩所を出て、しばらく廊下を歩いていると反対側から男性が走ってきた。

見覚えのある服装と顔をしている。


「シンバサ……?」


しかし、走ってこちらに向かってくる彼だが、何やら様子がおかしい。

まるで、何かを追っているような、血相を変えてこちらに向かってくる。


「貴様ぁ!やってくれおったな!」

「えっ!?」


いきなりの展開にわけがわからず、思考停止してしまった。

シンバサが怒りを露わにしてこちらに向かってきていることだけはわかる。


「許さんぞ!!くらえ、【クラッシュガスト】!!」

「えっ、ちょ、どうしたんですか!?」


有無を言わさずに魔術を唱え、こちらに向けてバンバン放ってくる。

魔術の威力的に冗談ではないようだ。


「くっ!!」


話をしてくれそうもないので、とにかくシンバサから逃げた。

しかし、ここは船で海の上、逃げられるところなど限られてくる。

何とかシンバサを落ち着かせ、話を聞かなければ解決にはならない。


「一体どうしたら……グハッ!!」


シンバサの魔法が足を貫く。

向こうも足は聖職者らしかぬ速さをしており、早々に追いつかれてしまった。

足から血がにじみ出て、激痛が走る。

倒れ込んでしまい、シンバサに見下ろされている状態だ。


「これで終わりじゃ!!せめてもの情けじゃ、何か言い残すことはないか!」


手のひらをこちらに向け、いつでも殺せるとでも言いたげだ。

足をやられては逃げようにもなく、助けの綱も寝ているので、

説得して時間を稼ぐほかない。


「ど、どうして俺を狙うん、ですか……。」

「はっ!何をしらばくれおって!

貴様がワシの大事な聖書を盗んだからじゃろ!!」

「聖書……?いったい何のことです……!」

「貴様がワシの寝室に入ったのを魔術で感知したわ!

それに貴様のポーチに入っておるその本が何よりの証拠じゃ!!」


あのノックをしたら開いた部屋はシンバサの部屋だったのか。

しかし、自分は入って確認しただけで、盗むようなことはしていない。

さらに、この本は自分が初めて目を覚ました時から持っていたもので、

シンバサのものではないことは確かだ。


「待って、ください!!くっ、俺は確かに入りましたが、

何も盗んで、いません!!それにこの本は俺のものです!!」

「何をとぼけおって!!貴様以外にワシの部屋に入った者はおらぬわ!!」

「それなら、本を見て確か、めてくださいよ……!!」

「貴様を殺してから確かめるわ!!」


もはや聞く耳をもってくれない。

この状況を打開する案としての説得はもはや無意味。

万策尽き、静かに目を閉じて死を覚悟する。


「ふん!潔さだけは達者じゃな!!心意気はよし、楽に殺してくれようぞ!」


こんなにあっけなく、自分の人生が終わってしまうのか。

シンバサが呪文を唱え始め、集中しているのをただ待つしかない。

詠唱の時間から、かなり大きな魔術を放つのだろう。


「終わりじゃ!!エンドオブデ――。」

「おっと、騒々しいから何事かと思い来てみたら、

何やら物騒なことになってるね。」


パシッとシンバサの腕を何者かが背後から掴み、魔術を止めた。

この人は確か、あの魔モノの襲撃の時に上から船を守っていた青年だ。


「ぐぅ!離さんか!それとも貴様も共犯者かぁ!!」

「まぁまぁ、落ち着こうよおっさん。もしその人が無実だったとして、

無実の人を殺めたほうがおっさんもきついでしょう?」

「……ふんっ、確かに若造の言う通りじゃ。」


ようやく冷静になったのか、手と殺気を収める。

本当に間一髪な状態で、命を救われた。

とにかく、この青年にお礼を言わなければ。


「あ、ありがとうございます……。」

「まぁ、まだ君が無実だと決まったわけじゃないからなぁ。

……有罪だった場合は僕もこのおっさんに加勢するよ。」


ニッコリと優男のような笑顔を見せるが、言動がものすごく怖い。

とにかく、無実と証明できるあの本をシンバサに渡す。


「なんじゃ、この本は……最初の数ページだけで、

残りは真っ白ではないか……確かにこれはワシのではない。」

「これで無実は証明されたというわけだね。」

「ふむ……しかし、誰が一体ワシの聖書を……?」


無事に誤解が解け、なんとか九死に一生を得たが、足の痛みは取れない。

しかし、あそこまで血相を変えて襲ってきたのだから余程大事な本なのだろう。


「まぁ、でもおっさんのような聖職者の感知魔術を掻い潜って、

部屋に入れるような人物は限られてくるだろうね。」

「一体だれが……!?まさかあの女か!!」

「ん?」


今なにか、微かに違和感を感じた。

しかし、足の痛さからそんな考える余裕もなく、応急処置だけを済ませる。

壁に体を預けながらも、ゆっくりと立ち上がる。


「じゃが、ハク!貴様はまだ疑いが晴れておらん!!

あの女が持っていなかった場合、貴様も隅々まで探させてもらうぞ!!」

「ふふふ、それじゃ、探しに行きましょうか。」


二人して足並みを揃え、デッキの方へ歩いていく。

おそらくドロシィを探しに行ったのだろうが、彼女は無実だと思う。

彼女は確かにいたずら好きであるが、

わざわざ盗みなど小さいことをする人ではないからだ。

とにかく、せっかく立てたのだから、

足を引きずらせながら、第二貨物室へ向かった。

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