【第四話】そして彼らは、事件に巻き込まれていく。
_____________________________________
「残念だが、今馬車は出てねぇんだ。」
「なっ!?それはほんとーか!」
イラがピョンとカウンターに体を乗せ、躍り出た。
ウマガウマガと言いながら絶望的な顔を浮かべている。
そんなに馬に乗りたかったのだろうか。
「なんだか聞いた話によると【ファミリアス】の連中と猟兵旅団の連中が、
馬車の経路上で抗争して、一部道が通れない状況になっているらしいんだ。」
また新たにファミリアスという言葉が出てきた。
話の流れからすると、猟兵旅団と敵対しているグループだろう。
もしかしたら、あの廃坑の子もファミリアスの一員なのかもしれない。
「ファミリアス?」
「あぁ、兄ちゃんたちはよそから来たのか。ファミリアスってのは、
ここら一帯に縄張りを張って遺跡を探索をしている連中さ。
メンバーには色々なやつらがいるって聞いたな。」
遺跡探索の集まりってことは廃坑にいたのも説明がつく。
しかし、どうしてそのファミリアスと猟兵旅団が争っているのだろうか。
ここから先、よそ者の自分たちが首を突っ込んでいいものか。
イラの方をちらりと見てみると、こちらに気が付いたのかふふんと微笑んだ。
「……猟兵旅団はどうしてファミリアスと抗争しているんですか?」
「兄ちゃん、なんでそんなに知りたがるか知らねぇが、
あんまりやつらに首を突っ込まないほうが身のためだぜ。」
宿屋の主人がこちらに顔を近づけ耳打ちしてきた。
「大きい声では言えねぇが、やつらは獣人を狩りまわる集団だ。
獣人を狩るためならいかなる手段も問わない極悪非道な連中で、
ファミリアスに所属していた獣人も何人かやられちまったらしい。
まぁ、そこからファミリアスとの抗争勃発よ。」
もう誰も止められねぇとため息をつきながら、顔を離していく。
話を聞く限りでは、ファミリアスとの抗争は長年続いているらしい。
それで、その抗争によって周辺に多大な被害が出ているのだという。
だから、馬車でいくのはその抗争に巻き込まれる心配があるため、
今は運航を中止しているとのことだ。
「まぁ、グランマルスに行くんなら今は船で行くのが一番いいな。」
「船でも行けるんですか?」
インフィリア大陸の中央に位置しているのに船で行けるのだろうか。
「んにゃ、グランマルスには直行でいかないな。
一旦、船で【夜の街エール】に行ってそこから南下するか、
【聖職街ブリジットハーツ】に行って、そこから北上するかのどっちかだ。」
北から攻めるか南から攻めるかの違いか。
距離的にはどちらも変わりなく、ここから陸路で行くよりも遠くなるようだ。
「どちらも船の出航は明後日だ。まぁ、乗船締め切りは明日までだから早めに
船着き場に行って船長に話しておくんだな。」
「ぬっ!ふねでいくのか!」
船と聞き、絶望的な感情から立ち直ったらすぐに、目を輝かせている。
「主人、ありがとうございます。」
「まぁ、部屋でじっくり決めな。二階に用意してある。」
主人からカギを預かるとそのままイラと二階の部屋に入った。
部屋に入るとすぐにベットの上に倒れ込む。
イラからスピーッという寝息が聞こえてきた。
「寝るのはやいな。」
余程疲れていたのだろうか。
俺も今後のことを考えながらベットに横になり、静かに目を閉じた。
_____________________________________
「おっはよー!おきろー!!」
寝起きで頭がボーっとしているが、
イラが元気よく布団をはがしてきたことだけはわかった。
起き上がり外を見てみると、外がかなり明るい。
丸一日分寝ていたようだ。
「よし、まずはどちらに行くか、だ。」
主人の話によるとエールはギャンブル等で栄えた自由を尊重している繁華街らしく、
昼になると廃れた街のようになるそうだ。そして、子供はお店に入れないらしい。
逆にブリジットハーツはとある神を信仰している教団が統治しており、
規律など厳しいところもあるが、犯罪等も少ないらしい。
「んー、わたしはもちろん、エールだなっ!」
「子供は店に入れないぞ。」
「ちがわい!なんかこう、あまりブリジットハーツにはいきたくないんだ。
せつめーがむずかしーが……。」
イラはばつが悪そうな顔をしている。
正直、イラの直感は当たってしまうのでここは大人しく従うとしよう。
「よし、なら次の目的地はエールだな。早速船着き場に行くか。」
「えっ……いいのか?」
「行きたくないところにわざわざ行く必要もないだろう。」
イラは驚きの顔を見せた後、安堵したのかホッとしている。
イラを尻目に簡単に身支度を済ませ、船着き場に向かった。
_____________________________________
「何とか船も予約できたな。」
「ふーね!ふーね!」
余程、船に乗れるのがうれしいのか、はしゃぎにはしゃいでいる。
無事に船の予約を済ませた後は、昼食を簡単に取り、アクアヴェイル内を観光した。
さすが港町なだけあって、海産物が有名のようだ。
「ん?」
武器屋や道具屋を散策していると、何やら掲示板に奇妙な張り紙を発見した。
「“おいでよ!不思議の村、住民募集中!”……なんだこれ?」
「ふしぎのむら?へんなむらだなー」
どうやら、この大陸はいろいろな村があるようだ。
旅をしていたらいずれ行くことになるかもしれないな。
「とりあえず、一通り見て回ったから、そろそろ宿屋にもど―――。」
ドーン!!
宿屋に戻ろうとした矢先、
町の郊外から爆弾が破裂したような大きな爆音が聞こえた。
自分たちがやってきた方角、廃坑からだろうか。
「な、なんだぁ!?」
「廃坑の方からだな、行ってみるかイラ。」
「ら、らじゃまる!」
廃坑の方へ駆け足で向かった。
_____________________________________
――廃坑入り口。
「確かこのあたりなんだが……。」
「ま、まてハク。そっちはやばい、きがする……。」
イラが怯えているのか、手足が震えている。
このパターンは大体何かヤバいやつがいる時だ。
しかし、やはり爆音の原因もこの先のやつだろう。
イラと顔を見合わせながら、物陰からのぞいてみる。
「!?」
「な――フグッ!?」
前回の反省を生かし、即座にイラの口を塞ぐ。
ンーンー!とジタバタ暴れているイラに静かにポーズを見せ、大人しくさせる。
しかし、イラが驚くのも無理はない。
この前の廃坑にいた子があの狩人に捕まっていたのだから。
「ハッハッハ、ようやく捕まえたぞ、クソガキ!!」
「離して、離してよぉ……うわーーーーん!!」
あの子は床に突っ伏し、狩人に踏まれていて、身動きができないようだ。
何かに押しつぶされているようにも見える。
「あれはヤバいな。おい、どうするイラ――。」
「そこのおっさん!そのきたねぇあしをどけろぉ!」
「 」
口を押えて拘束していたはずのちびっ子がいつの間にか、
あの狩人の前に躍り出ていた。
唖然としすぎて言葉も出ない。
「あ?なんだこのガキ。ファミリアスのやつらか?」
「ちがわい!ただのたびびとだ!」
狩人の男はイラにジロリと殺気が籠った睨みを効かせた。
しかし、イラも負けじと反抗し、逃げようとしない。
「消えな、ファミリアス以外に興味はねぇ。最後の忠告だ。」
「イラ!?やめろ!」
「ふざけんな!そのあしをどかせ!ホーリーレ――。」
イラの直感が移ったのだろうか、ゾッとするような嫌な気配を感じてしまった。
その気配を感じ取った直後に体がイラを庇う。
「ぐはっ!!」
とっさにイラを庇えたはいいものの、
あの子と同じように地面に磔にされてしまった。
何かかなり大きい重たいものにのしかかられたようだ。
「ハクっ!!」
「馬鹿……!逃げ、ろ……!」
「チッ、もう一人居やがったか。まぁいい、次は外さねぇ。」
イラが心配そうにこちらを見ているが、今はそうしている場合じゃない。
とにかく早く逃げてほしいが、
腰を抜かしたのだろうか、床に座り込んでしまった。
かなり絶望的なこの状況、これが力の差というやつだろうか。
まるであの狩人の男にかなう気がしない。
「さて、邪魔が入ったがとっとと片付けてしまうか。」
イラが戦意喪失していることをいいことに、
興味をあの子に向け、何かを唱え始めた。
「さぁて、終わりだ。死ね。ゾル・グラビ――チッ!」
狩人の男が魔術を唱えそうになった瞬間、一本のナイフが男の顔を掠めた。
「外したカ……。無事だったカ、エイファ。」
「ファーリィ!来てくれたんだね!」
ナイフが飛んできた方向を見ると、メイド姿の褐色肌の女性が立っていた。
エイファと呼ばれたあの獣人の子と話しているということは、
あのファーリィと呼ばれたメイド服の女性もファミリアスの人だろうか。
「【パペット】か、また厄介なやつが現れたものだ……。」
「……ここは大人しく引いてくれないカ。」
二人が対立し合い緊迫した状況の中、息を呑むことさえも許されない。
どちらもいつでも攻撃ができる態勢になっている。
「……ふんっ、さすがにお前とやり合うのは馬鹿のすることだ。
今回は大人しく引いてやる。」
そういうとエイファから足をどかし、魔術が解けたのか、体が軽くなった。
すぐさま、エイファはファーリィの後ろに隠れる。
「それにそこの白髪コンビ、てめぇらの顔は覚えた。
次あったときは……覚悟しとけよ。」
狩人の男はこちらに睨みを効かせ、廃坑の中に入っていった。
もうあの男には会いたくないと心から願う。
「心配したゾ、エイファ。みんなが待ってル。」
「ご、ごめんね。で、でも、どうしても――。」
あの狩人の男が消え、二人で話している。
自分もイラの方へすぐに駆け付ける。
「おい、イラ。大丈夫か。」
「な、なんとか……。こ、こしがぁ……。」
小さい癖に無茶をするからそうなる。
しかし、イラが出ていなかったら、間に合わなかっただろう。
その点ではかなり活躍したと言ってもいい。
「それデ、この人たちは一体誰ダ。」
ファーリィがこちらに指を差し、エイファに問いかけた。
指を差された瞬間、ビクッとして少し警戒するイラを背中の後ろにやった。
「ま、待って!こ、この人たちは誰かわからない……けど!
さっき助けてくれたのは、間違いないよ!」
ビクビクしながらファーリィの後ろに隠れ話しているエイファ。
人見知りなのだろうか。
誤解やらされたくないので、自分からもきちんと説明することにした――。
_____________________________________
「そういうことカ。それは助けてくれて礼を言おウ。」
「ぼ、僕、ごめんなさい!助けていただいたのに!」
とにかく、簡単にだが、自分たちの正体や旅の理由などを話し、
その道中で遭遇したことなど簡単に説明した。
誤解も特になく、きちんと説明を聞いてくれて、素直に謝罪しているエイファ達。
そこでまだお互いのことも知らないので、改めて自己紹介をすることにした。
自分たちの自己紹介を先に済ませ、次はエイファ達のを聞く。
「じゃア、次は私だナ。私は【ファーリィ=エルドール】。
巷では、パペットなどと呼ばれているガ、私はこの呼び名は好きではなイ。
ファミリアスの一員ダ。気軽にファーリィと呼んでくレ。」
メイド服の女性はファーリィだそうだ。
パペットは二つ名みたいなものだろうか。
容姿に目をやると、褐色肌でクリーム色の目と髪をしており、
身長はイラより全然高い、165㎝程度だろう。
メイド服に何百本ものナイフが備え付けられており、言葉には訛りがある。
「つ、次は僕だね。僕は【エイファ=シー】。
種族は獣人とヒューマンのハーフだから、ヒューマンの血が濃いんだ。
だ、だから、見た目はヒューマンで獣耳と尻尾が生えてるだけだよ!
僕も気軽にエイファって呼んでくだちぃい!」
肝心なところで噛んでしまったエイファは見た目は普通の女の子で
そこに獣耳と尻尾が生えてるハーフ獣人だそうだ。
容姿に目をやると、肌は少し白く、髪と目が碧色をしている。
服装は動きやすそうな短パンなどを着ていて、活発そう女の子の格好だ。
身長はファーリィより少し低いくらいか。
「後ナ、良く勘違いされるガ、エイファは男ダ。」
「「はぁ!?」」
イラと一緒に大きな声を上げてしまう。
エイファは顔を赤くして、やっぱりみんな勘違いしてるとブツブツ言っている。
見た目や服装は完全に女の子なのに、男という衝撃な事実。
世の中は広いと再確認してしまった。
_____________________________________
それから、お互いの自己紹介が済んだころに太陽が沈みかかってきた。
自分たちも明日の出航があるので、そろそろ宿屋に帰らなければいけない。
「すまないが、そろそろ宿屋に帰らないと。」
「ン、あァ、そうカ。旅の途中だったナ。」
「ほ、本当に助けてくれてありがとう!」
自己紹介中もファーリィの後ろに隠れていたエイファがお礼を言うときに
ついに前に出て頭を下げた。
この光景を見て自分たちの行いに間違いはなかったと確信した。
イラも何気に満足げな顔をしている。
「それでは、また。会うときに。」
「またな!エイファ!ファーリィ!」
「あァ、またいつカ。」
「こ、今度会ったときはお礼を必ずするから!」
こうして、エイファ達と別れ、宿屋に帰った――。
「……エイファ、やはりあのことは言わないカ。」
「だ、だって、みんなに迷惑かけちゃうから……。」
_____________________________________
――翌朝。
「いょっし!さいこーの、ふねびよりだなっ!」
イラにたたき起こされた後、身支度を済ませ、現在は船着き場。
確かにイラの言う通り、空は快晴でほど良い風が吹いている。
エール行の船とブリジットハーツ行の船が二つあるので、
間違えないようにエール行の列に並んだ。
間もなく出航の時刻になるので、大人しく並ぶ。
「なぁ、わたしたちいがいにも、いろいろなやつがのるみたいだなー。」
エール行の他の乗船客を見てみると、自分たちのほかに色々な人が乗るようだ。
傭兵風な男が一人、ピエロが一人、僧侶のおっさんが一人、若い夫婦が一組、
恰幅のいい小太りなおっさんが一人、イラと同じぐらいな女の子が一人、
若く妖美な女性が一人、優しそうな青年が一人。
なんでか奇妙なメンツの乗り合いに不安が募る。
何もなければいいのだが。
「それより、ふなだいとか、だいじょぶだったのか?」
「あー、実はな――。」
実は船代はかなり格安だった。宿屋で泊まるよりも安いぐらいだ。
船を予約する際に支払うのだが、自分も疑問に思い船長に尋ねてみると、
『船には魔モノが出て襲われやすいからな。
そこで乗り合いの旅人たちに討伐していただいてるんだ。
俺らは戦えるのは戦えるんだが、何分船の操縦やらで忙しくてな。』
と船長が言っていた。
つまりは格安で乗せてやる代わりに魔モノの討伐は任せたぞということらしい。
「ほぇー、なんだかいいな!よーし、イラちゃんがんばるぞー!」
なんだか無性にテンションを上げているイラ。
ブリジットハーツ行の船が出航した後、自分たちも船に乗る。
アクアヴェイルを出発し、いざエールへ――。
_____________________________________




