こんのホモ野郎?!
「なんかさ。友達集めゲームで」
「うん」
携帯ゲーム機を握りしめて同性婚が無いのが納得いかないとぼやく彼に俺は大笑い。
「だってお前と結婚できないんだぞ。開発会社に抗議文を送ってやる」
どうでもいいけど鼻白むって言うのになんで怒ってるんだろうな。
「違う。怒っているときは使わない。本来の使い方は気おくれしたり興ざめしたりするときに使うのさ」
怒ったりしたり顔に成ったりお前の顔ってころころ変わって可愛いよな。まぁ成人男子に言うことではないが。
「で。抗議文送ったバカがいるってか」
「らしいね」
ラジオのニュースがタイムリー過ぎて俺たちは苦笑い。その間に彼が焼いた目玉焼きはイイ感じの半熟の香りを放ち、俺が作ったお弁当のアボガド入りベーグルサンドの具になる予定。
ふわりふわりと珈琲の湯気が立ち、インターネットラジオがクラシックを流す。
翻して。いや、パンを逆からかぶりついたからではない。
翻してラジオのニュースを話題にする。
納得がいかない心情は激しく理解できるが。
「だな。俺も納得できない」
「でも仕方ないというか、企業は謝罪する必要ないと思うぞ」
だなぁと告げる彼はカーテンを鬱陶しげに開ける。
今日も曇り空だが別段悪いことではない。川は泥まみれになるが水は豊かになる。
俺たちはシーツを洗濯してところどころ疼く痣に軽く傷薬を塗り、首をこきこき鳴らして立ち上がる。
あくまでこれは俺の意見だが。
「人を好きになることは悪いことではないさ」
「だね」
「でも、将来異性を愛して繁殖する人間が大多数を占めていないと俺らの年金はどーなるんだ」
「あはは」
子供のうちは異性を愛する世界だけを知っているほうが世界は明快だ。
「子供には知らなくていい事はいくらだってあるし、それは大人になって判断することだろ。ゲームは子供のものなんだから」
「違いない」
「まさに『黙れこのホモ』」
俺の自嘲めいた冗談に笑い出す彼。
「ひっでぇ?」
「ホモは大人にならないといけないんだよ! 子供の遊びにちょっかい出すな!」
「興奮しすぎ! ほら。もう唾飛んでるし」
お互いのネクタイを結び合い、俺たちはそれぞれの職場に向かう。
「行ってきます」
「ああ。お前も気をつけてな」
「俺が彼女作るかってか?」
「おう。俺も心配してもらえるかなぁ」
人を愛することは自由だ。
その責任を取るのは大人だから出来る。
俺たちは俺たちを愛し合い、今朝も別々の職場に向かう。
雲間からさした光を満員電車の窓から見上げ、俺は今日仕上げるべき事案を脳内にリストアップしていた。




