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第3章 28幕 疾走

「きっさまあああああああああああああ!!!!」

 

 それは明確な殺意と敵意を持った叫び。


 ここまで来る間に一度も見た事が無い顔をしており、その表情は鬼気迫るものだった。

 そんなクレンを見た一行は驚きを隠せないでいた。


「おいおい……嬢ちゃん一体どうしちまったんだ」

 グランツに跳びかかるクレンを見ながらフォーゴは剣へ手をかける。


「わかりませんが……おそらくは……あの人間かと」

 同じくイデアも魔法の詠唱を始める。


「ふん、小娘が。いきなりどうしたというのだ」

 グランツは特に驚いた様子もなく体を少し動かすとそこをクレンの剣が通り抜ける。

 攻撃をかわされたクレンは、切っ先が地面に届くよりも早く、よけたグランツへと剣筋を変えていた。


「放せ!」

 

 がむしゃら、これが今のクレンを表現するにぴったりだろう。

 剣を右に左に、下から上から、滅茶苦茶に振り回しているだけの粗末な剣筋、斬撃はことごとくかわされていたがクレンはお構いなしだった。


「レミをぉぉっ! 放せえぇぇぇぇぇ!!」


 そう、グランツに引きずられ、手の内にいるのはクレンが探し求めていた人物。

 クレンの目の前で時空の歪みに取り込まれ、皆の記憶から消えてしまった人物。


 いくつもの危険を潜り抜け、生きていると信じここまで来た、やっと見つけた、やはり生きていた。

 それゆえにクレンはがむしゃらだった。


 手を伸ばせばすぐそこにレミがいるのだ、このままグランツの手の内にあればレミは死ぬ。

 直感的に理解していた。

 それゆえにクレンはがむしゃらだった。

 目には大粒の涙が浮かび止めどなく零れ落ちていた。


「ふん、うっとうしいわ!」

 だが無情にもクレンの刃はグランツに届くことは無かった。


「ぐはっ!」

 グランツの放った蹴りをもろに鳩尾みぞおちに食らい吹っ飛ばされるクレン。


 その手からショートソードが離れ、乾いた音を立てて床を転がっていった。

 クレンが地面へ叩きつけられるその瞬間、フォーゴが優しく受け止めた。


「あの子がレミちゃんだな? カイルも叫んでやがる、うるせぇこった。嬢ちゃん何一人で暴走してんだよ、大体お前じゃ殺されに行くようなもんだぞ」

 フォーゴがクレンをたしなめる。


「でも……でもぉお! やっと! やっと見付けたんだよっ……だから、だからぁ! うっ……うわぁぁぁん!」


 号泣だった、今までこらえていたものが全て流れ出すかのようにクレンは赤子のように泣きじゃくっていた。


「バカ野郎!!」

 フォーゴが叫んだ、叱りつけるように強く。


 ひっと小さな声を上げ一度クレンは泣き止み、抱きとめているフォーゴの顔を見る。


 その顔は……泣いていた。


「クレンが死んじゃったら誰がレミを助けるんだ! 三人一緒に帰るんだよ! ヒーロー物でもそうだろう!? 主人公は死んじゃいけないんだ、仲間と共に悪を倒すんだろう!」

 それはカイルだった、気を利かせてフォーゴが変わったのだろう。


 カイルもフォーゴの中ですべて見ているのだ。

 心配で仕方なかったのだろう、ポタポタとクレンの頬にカイルの涙が落ちていた。


「ごめん、カイル……レミを助けたかったのはボクだけじゃなかったんだね」

「私もいましてよ?」

 カイルの頭上からイデアが顔を覗かせる。

「自分もいるですよー」

 ひゅっとアウラがクレンの頬に降り立つ。


「ゲホッゲホッ……んしょ……そうだよね。ボクだけ突っ走っても誰も助けられないよね……ほんとにごめんなさい……」

「わかれば良いのです、グランツを止める事、それすなわちレミさんの救出に他なりませんわ」

「行こう、悪を倒しに。そして三人で帰ろう。大丈夫、こんなヒーロー物の典型的な展開なんだ、きっとあいつは滅びる定めなのさっ」


 立ち上がるクレンにはもう涙は浮かんでいなかった。


「一度言ってみたかったセリフがあるんだけど……言ってもいいかな?」

「何だ? いっけーとかは止めてくれよ? 緊張感がぶちこわしだからな」

 いつの間にかカイルはフォーゴへと変わっていた。


 自分が出ていては足手まといだという判断だろう。

 そしてクレンは階段を上るグランツと、その手に繋がれているレミを見据えてただ一言。


「皇国の興廃はこの一戦にあり! 各々イーグニスの栄光を胸に全力で目標を駆逐せよ!」


「「「了解っ!!」」」


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