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第3章 29幕 奪還

 クレンの掛け声に答え弾けるように皆一斉に地を駆ける!


「はぁぁぁぁぁっ!」

 気合を込めた絶叫と共にフォーゴがグランツへ疾駆する。


もうすでに肉体強化をしていたのだろう、バチバチと火花を散らしながら一気にグランツとの間合いを詰める。

 一瞬で間合いを詰められ驚愕した表情をうかべるグランツ。


「つぇりゃあああ!」

 上段に振り上げた剣を力任せに振り降ろす、しかしその刃はグランツを掠(かす)め手元を虚しく斬るだけだった。


「ふん、どこを狙っているのだ虫けらめ」

 気合いの一閃を外したフォーゴをグランツは嘲笑っていた。


「馬鹿じゃねぇのか旦那、ちゃんと斬れたぜ?」

 ニヤリと笑いながらフォーゴは切り離された鎖をグランツに見せる。


「おら! 受け取れ嬢ちゃん!!」

 鎖と共に奪い返したレミを階段の下へ投げ捨てる。

 するとそこに体から火花を散らしたクレンが空中でレミをキャッチしたのだ。

 ふわりと地面に降り立ったクレンはグランツと距離を取る為後ろへ大きく跳んだ。


 着地点と思われる場所にはイデアが魔法の詠唱を始めていた。


「ありがと! フォーゴ! ごめんねおっさん! レミは返してもらうから!」

 そう、狙ったのはグランツではなく鎖で繋がれた囚われの姫君。

 打ち合わせをした訳ではない、皆の目的は一緒だったのだ。


 完全に不意を突かれたグランツはしばし硬直していた。


「よぅ、まっ先に自分が狙われるって思うのはちぃーとばかし、自信過剰なんじゃねぇか? おっ・さ・ん」

 グランツの意識をこちらに向ける為、挑発するフォーゴ。


 口調は軽いがその額には冷汗が浮かんでいた。

 フォーゴは強い、だが目の前にいる男は元騎士団長、その実力は推して知るべし。


 そして何より一度殺された相手、油断も隙も作れなかった。


「ふん、そのようだな。完全に油断していた、だが……次からはそうは行かんぞ!!」

 口調を荒げながら怒りを露にするグランツ。

 

 その言葉と共に全身から闇が噴き出した!

 溢れ出る魔力の衝撃に思わず後ずさりをするフォーゴ。


 フォーゴの目の前で闇はグランツの体を包み激しい光の明滅の後、その両手に収縮していった。

「ふぅ……これでどうだろう。殺されたくなっただろう?」

 

「なっ、何だよそれ……、てめぇ何をした! 答えろグランツ・シュトラール!」

 そこにいたのはグランツであり、グランツでは無かった。


 額には禍々しい二本の大きな角がそそり立ち、異様に長い腕、手には二振りの漆黒の大剣、肌は闇のように黒く、血で染めたように赤い瞳の中に金色に輝く目、そして背中には一対の闇の様に真っ黒に染まった巨大な龍の翼が生えていた。





「イデア!」

 レミを抱えたクレンがイデアの元へと降り立つ。

 素早くレミを横にして意識を確かめる、彼女はだいぶ衰弱しており、その頬はこけ目元にはひどいクマが作られ呼吸も浅かった。

 イデアはあらかじめ唱えていた治癒の呪文を発動する!


「レミ! レミしっかり! ボクがわかる!? 目を開けて!」

 レミの体が光に包まれる、それはクレンに施した時の光よりも数倍明るかった。

 出力を最大まで上げているのだろう、イデアの顔に笑みはなく歯を食いしばっていた。

 ひゅうひゅうと今にも途切れそうな呼吸を聞きながら意識を保つため絶えずクレンは声をかけていた、その甲斐あってかレミの顔色に生気が戻り、呼吸も元通りになっていった。


「ん……あれ……なんでクレンの顔があるだわさ……? もう会えない事……解ってるんだから……余計な幻覚いらないだわさ」


 レミの目に涙が浮かぶ。


「違うよ! ボクはここにいるよ? 幻覚なんかじゃない……助けに来たよっ……」

 薄く目を開けていたレミだったがクレンの言葉に目が見開かれる。


「クレン……? クレンだわ……本物だわさ!」

「会いたかったよレミいいいい!!」

「私も会いたかっただわさあああああ!!」


 レミとクレンは再会出来た喜びを抱き合って噛みしめていた、涙と鼻水とよだれで顔中ぐちゃぐちゃだったがそんな事はどうでもよかった。


「レミさん、クレン、感動の再会はちょっと一時停止ですわ」

 イデアの声が二人を現実に引き戻した。

「ひぇええ! お、おばけだわさ!」

 レミの驚愕した声が響いたがイデアはそれに構わず続ける。


「クレン、行きますよ。グランツは恐らく闇の眷属と契約し、人外の力と魔力を身につけております、フォーゴ一人では勝ち目は無いでしょう」


 イデアは台座の前で対峙している二人を見据えながら言った。

 

 クレンが視線を台座のある方向へ向けると、魔物と化したグランツと距離をとりつつ隙を窺っているフォーゴの姿が目に入った。


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