054 【心理】恐怖、【人物】探偵
「私、刑事ものとか探偵ものって苦手だわ」
「どうしてまた?」
妻の突然の告白に、夫は首を傾げた。二人が見ているテレビの中では、背筋をぴんと伸ばした中年警察官が、穏やかな口調で犯人を問い詰めている。
「例えばこの人とかさ」
「ああ、巣偽下羽京さん?」
「人が殺されたりしているのに、こんなに平然としていられるなんて、ちょっと怖いなって思って。ほら、昔の探偵小説の……あー、誰だったっけあれ」
「シャオロン・クーホムのことか? 香港の」
「そうそう、確かそれ。昔、あなたに読まされた時も感じたんだけど……なんていうか、達観しすぎているように見えて……」
「人間味が感じられない、と」
「そう」
なるほどねぇ、と夫は頷いてから、画面を見るよう促した。つい先ほどまで刑事の口元に浮かんでいた微笑みが、消えた。人殺しは仕方なかった、そう言い放った男に向ける視線が、一気に鋭くなった。
「一見冷淡に見えても、心の内には熱いハートを秘めているってこともあるのさ。羽京さんは特に、その傾向が強いんじゃないかな。感情を無闇に爆発させるんじゃなく、それを原動力にして事件に立ち向かう、みたいに」
「……そっか。そういうのもあるのね」
「本当に血の通ってない人なら、誰かが死んでも知らんぷりだろうしなぁ」
話の間にも、ドラマは進んでいく。スタッフロールが終わり、次回予告に移った。メインテーマが流れる中、目を大きく見開いた主人公の顔が大写しとなった。次週のキーワードは、恐怖、らしい。狼狽する登場人物達の様子が、続けざまに映し出された。
「お、本当だ。あの人にも、本気で恐ろしいものがあるのね」
「そりゃ、あるだろうね。……それにしても何なんだろうな。あの羽京さんでも、ウキョ~ッてなるようなのって」




