010 【器物】椅子、【自然】天気(霧)
二人のプロレスラーが言い争いをしていた。互いの顔に唾を飛ばしあっている。今にも掴みかかりかねない勢いだ。
口論はどちらが強いかで始まった。だが戦績がほぼ同じな上に、直接対決でも勝敗数は横ならびだ。結論はなかなか出ず、しかし今更引き下がるわけにもいかない。交わされる言葉も、どんどん幼稚になっていった。
「毒霧攻撃が極上だ! リングでのパフォーマンスもバッチリだし、奇襲性もあるんだぞ!」
「コスパが悪すぎるだろあんなの! パイプ椅子でぶん殴る! これぞ伝統的、かつ観客にも分かりやすい!」
「うるさいぞ二人とも。喧嘩なら余所か便所でやれ」
仲裁に入ったのは、両者と同じ年頃の男だった。敵意満載の目線が向けられる。それを物ともせず、言った。
「決着ならリングでつけろよ、それなら文句はないだろ」
「よっしゃ、次のトーナメントで白黒はっきりさせるぞ!」
「望むところだ!」
試合後。記者会見における、パイプ椅子派の男と記者のやりとりである。
「かの毒霧攻撃を得意とするライバルを、今回の決勝戦で打ち倒した感想をどうぞ」
「俺の椅子格闘術は伊達じゃなかったってことだ。何てったってあの陰険な霧を跳ね返すこともできるんだからな。しかも面倒な下準備はいらない。セコンドに投げ入れてもらえれば、後はこっちの独壇場よ」
「なるほど。……では、勝利したのにタイトルを逃したことについて、一言」
「……凶器攻撃が禁止されていたことに気付かなかったのは、単純に俺達のミスだよ。何度も言わせんな」
その内容を報じた記事のタイトルは、『五里霧中の言い争い! 王者の椅子を逃した真相は!?』だったという。




