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幕間・虎道場

キリのいいところまで書こうとすると、だれるので、細かく更新してくスタイル

 困りました。ヨシ様といつの間にかはぐれてしまったと思ったら。なにやら大変なことに。探しにいこうにも皆さんの壁ができていまして、今はとてもじゃないですが無理そうです。

 といいますか、ここで抜けてしまったら、絶対に大変なことになってしまいます。

 昔のお酒のもめごとやいざこざで大変になった席を思い出しす。俺の酒が飲めないのかみたいな話はどうやっても大変なことにしかなりません。

 そういえば、そういったもめ事を思い出してみますと、なんかうちのお父さんが全てかかわっていたような…深く思い出すのはやめておいた方が良さそうですね。


 目の前の女の子に視線をもどします。

 長尾虎千代さま。

 偉いさむらいの方だということですが、わたしのような村娘にも普通に接していただいています。今も手ずから甕より柄杓でお酒を掬っています。


「あ、ありがとうございます」


 受け取り中身をじっと見てみますと。

 濁り酒。

 昔、伊勢の神田で作ったものを頂く機会がありましたが、とても甘露でした。今までの物より一層、濃厚な酒精の香りが夏の夜に混ざります。

 はしたない事ですが、期待に少し喉の奥が鳴りました。うー、恥ずかしいです。

 それをごまかすように。いそいそと、杯を傾けます。


「はぅ、おいしいです」


 朝露に濡れた森を散歩するような軽やかな気分になりました。水がうち(飛騨の村)よりも柔らかいのでしょう。

 ひと息で杯を干さなくてはいけないのが勿体ないです。鹿のお肉に柚子の調味をかけて食べると、さぞ楽しいかなと思います。

 名残惜しいと思いつつも、杯を返し、代わりに甕の上の柄杓を取り、中身をくみ上げ虎千代様に返杯をし申し上げようとしたところ。


 目の前の方の手のひらによって止められました。


「まぁ、待つのじゃ。既に月も傾きかけておる。このまま、ちまちまと進めるのも良くないじゃろう」

 

 そういうと虎千代さまは背後から何やら取りだします。

 それは一抱えもある朱塗りの杯。先ほどの杯も大きかったですが、これは月も浮かべられそうなほど大きなそれは、手を広げても端と端を持てそうにもありません。

 そんな、大きな杯がわたしたちの間に置かれます。


「さぁ、其方。此度の戦の締めに入ろうぞ」


 虎千代さまは、立ち上がると、両手が使えないためか体いっぱいを使って、大きな甕を傾け、並々と杯を満たします。

 わたしは用をなさなくなった柄杓を持ったまま、所在無げにそれを見ていました。

あまりにもなみなみと注がれたため、堪え切れなかった一雫が、杯の淵を滑り、床を濡らしました。


 ふっふっふと楽しそうに笑います。

 悪だくみしている時のヨシさまを思い出してし、なんだか、楽しい心持になりますが、すぐに隣にいらっしゃらないのを思い出し悲しくなりました。もう、どちらにいらっしゃるのでしょうか。


「…おお、自分で注いでおいてなんじゃが、流石に迫力があるのう」


 若干頬を引きつらせながら、それでも躊躇わず、片手で杯を慎重にお持ち上になりました。

 そして器ごと呑んでしまうかのように、勢いよく垂直に傾けました。大杯が出てきてから、どよどよと騒めいていた周囲の方の声が歓声に変わります。

 白く細い喉を鳴らしながら、虎千代様はあれよあれよという間に、杯の中身を乾かします。


「…げほげほ、どうじゃ」


 杯を床板におくと。袖で、口元を拭い、大きく肩で息をされました。

 

「さぁ、其方の番じゃぞ。まぁ、無理せずとも好いぞ」


「すげえぞ、この娘っ子!」「これは決まりだろ、そっちの嬢ちゃん無理すんなよ!」「誰か、賭けてた奴いるのか」「いや、まだわからんぞ…そっちの水色の子、こっそり柄杓の中身を空けてやがった」


 周囲の視線が私に集まります。

 ううっ、見られていました。恥ずかしいです…だって、しょうがないじゃないですか、凄くすごーくおいしかったんですもん、誰だって同じことやってしまうはずです。

 よし、こうなったら、はやく、終わらせて逃げましょう。でも、その前に。

 

「虎千代さま、袖で拭いたら、めっ、ですよ」


 口元を布で拭いて差し上げ、また別の布を濡らしてきてもらい、袖のシミを縁からトントン叩きながらシミ抜きしました。


「とりあえずのはこれで。後ほど、洗いますのでお貸しくださいね」


 そうして、甕を持ち上げ、同じように杯を満たします。なぜかざわざわしているがなんでしょう。


「それでは、頂きますね」


 やっぱりこれ凄くおいしいです。幸せです。


「お主、何事もなく、ふ、普通に飲んだのう」


「はい?いえ、普通ではなく美味しかったですよ。うちのお父さんにも飲ませてあげたいです」


「そ、そうかのう」


 きっと、すごく喜ぶはずです。あと、ヨシさまはお飲みになるところ見たことありません。飲まない人でいらっしゃるのかもしれません。


「では、わ、私の番じゃな」


 そうして、三度、が満たされます。


「いやさ、その前に厠じゃ」


 そういって、人垣を分け出て行ってしまいました。ひょっとして、わたし、一人残されてしまうのでしょうか。どちらを向いても知らない人達ばかりですので、ひどく心細いです…ううっ、ヨシさま、どちらに。

 そうして、肩身が狭く、縮こまっていたところに助け舟が出されました。


「やっほー、蓬ちゃん」


 空いた隙間よりこちらに気付いた方が私の傍までやっきました。


流人ルートさま!」


 銀の髪を優しく束ねた、すらりとした長身の方の登場に、胸をなでおろしました。


「うわっ、これまたすごいね」


 朱塗りの大杯を見てそんな感想をおっしゃいました。


「はい、凄いおいしいですよ。お飲みになりますか?」


「うーん、ボクお酒って飲んだことないからな、いや、あったかな、よく覚えてないぞ」


「では、この機会にぜひに。あの、ヨシさまはどちらにいらっしゃるかご存じではないでしょうか?」


「んー、しらないけど、たぶん、この境内で一番静かなところで休んでいるんじゃないかな。蓬ちゃんが昼からあまり構ってくれなくていじけてたぞ」


 打てば響くといった具合に、質問の答えが返ってきました。ヨシさまのこと本当に何でもご存じで、それがなんだかうらやましいです。


「あ、みつけたらこれ食べさせといて」


 着物、袖の中から、李に杏子にイチジクが山と渡されます。


「ほっとくと、何も食べないからね。無理やりにでも押し込まないと」


「本当に、好き嫌いも多いですし、困ります」


 はぁ、と二人そろってため息をつきます。間違っても、これ以上お痩せになられてはダメです。そう思いながら渡されたものを三尺手拭いを取り出し包みます。


「でも、蓬ちゃんのおかげで昔よりは随分ましになったけどね。あ、蓬ちゃんもどうぞ、なんか食べてないみたいだし」


「ありがとうございます」


 本当に素敵で、お優しい方です。臣下の方にこれほどまでに慕われている方はたぶんすごいことなのでしょう。実はかなりお胸も大きいですし。鎧や着物でごまかそうと思ってもわたしにはわかります。


「戻ったのじゃ」


 そのあと嘉様についていろいろお話しするうちに虎千代さまが戻られました。


「で、では、行くのじゃっ」


 今度は先程よりゆっくり、それでも最後まで飲み干されました。


「げふっ、ごほっ、ど、どうじゃ、飲み終わったのじゃっ…やったぁ…のじゃ」


「あ、じゃあ、わたしの番ですね」


 そして、もらった大杯を満たし飲む。


「おいしい」


「よ、蓬ちゃん。だ、大丈夫なの?」


「え、何がですか?あ、流人さまも飲まれるのですよね。まだ、十分ございますのでご安心ください」


「いや、違うぞ、そうじゃないぞ」


 変な流人様。そのまま、また、杯を満たした所で、わたしは気づく。


「あ、すみません。うっかりしていました、続けて飲んではだめですね、どうぞ、虎千代さま」


 美味しかったので、つい。わざとじゃありません。照れ隠しに嘉様のまねをして頬をかいてごまかします。


「え、あ、う…いや、ちょっと厠へいかせてもらう…のじゃっ」


 少し、不安な足取りでまた同じように車座から、出て、少したってから戻られました。


「よし、い…くのじゃ」


「いやー、もうやめた方がいいと思うぞ」


「女には、やらねばならん時があるのじゃ」


「それがあったとしても多分、今じゃないと思うぞ」


「……の、飲みきったのじゃ、すまぬちょっと厠へ」


 そうして、虎千代さま、また、車座の外に出て行かれました。しかしながら、今度はなかなか戻ってらっしゃいません。


「流石に遅いぞ。ちょっとボクみてくるよ。誰か案内してもらっていいかな」


 おれがおれが、と何人もお手を上げています。美人さんですからね、わかります。


「流人さま、すみません。お願いします」


 その間に、甕の中身を見てみます。あ、よかったまだ半分以上あります。まだだ、楽しめそうです。


 そうこうしているうちに、流人さまがお戻りになられました。なにやら、大きなものをふたつ担いでいます。よくよく見るとそれは。


「虎千代さま…と長実さま?」


「うん、むこうで仲良くひっくり返ってたぞ。厠にいく振りをして交互にのんでたみたいだぞ」


「其方。ゆ、揺らすでない。これは武略じゃ…かてばよかろうなのじゃ…うぷ」


「いや、白目剥きながら格好つけても、どう見ても負けてるぞ」


「なんてセコイことを」「おい、賭けどうなるんだ」「どうもこうもそっちの子の勝ちだろ」「だれか、賭けた奴いるのか」「いるわけないだろ」「となるとどうなるんだ」「胴元なしだからな、きまってるその娘っ子の総取りだろ」


 そうして、大きな歓声と拍手がわたしに送られた。


「では、勝者から何か一言」


「え、あ、あのじゃあ、残り飲ませていただいて宜しいでしょうか。できれば折角なのでおつまみも頂きたいです」


 なぜか、皆さん、水を打ったように静まり返ってしまいました。


「え?」


 何か変なこと言いましたでしょうか、わたし。

 だって、まだお酒しか頂いてないですから、皆さん社のあちらこちらでお美味しそうなお料理が出てました。わたしもご相伴にあずかりたいです。


若干、酔ってますかと

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