殴られるよりも痛い事があるということ
接続話。次が長くなって一向に終わらないので。こっちのみあげます。
「あははーっ。というわけで、いこうか」
満面の笑顔を不細工に張り付けて。
ぎくしゃくと、何事もなかったかのように行軍を再開しようとする貴志。
「おい、どちらに行こうとしているそこのヒナキチ君。こっちこっち」
馬影が消えた方向とも、ことなるこっち。とどのつまり、今しがた通ってきた道無き道を指差さす。
「やだなぁ、ヨシ。そっち、今来た方向だぞ」
「そうだな。それがどうした」
それにしても実に汎用性の高い、宇宙最強の台詞である。
「どうしたって言われても、明らかにどうもこうもしてるじゃないか!なんでだよ!」
会話中、いきなりキレ出す若者とか無いわー。
「そっちこそ、みなまでいわなきやわからんか」
「あーもう。いや、わかるよ。わかるけどさ!」
「ならば、よし。人の伴侶を嗤いやがったんだ。精々、それ相応の饗応をしてさしあげないとな」
「完全無欠に悪役のセリフだぞ、それ」
いつになく火花散る言いあいに、当事者ながら、おろおろと介入するきっかけと見いだせない俺の嫁。
「あ、あの、べつにわたし気にしてませんから」
「ほら、蓬ちゃんもこう言ってるし、危ないからやめようよ」
「でもな、ここで勝つと今後でかいぞ」
名のある勢力同士の史実の戦なので、褒賞も大きいはずだ。スタートで出遅れている分の負債をある程度は返済できるだろう。
「成果というのは、リスクを犯す事でしか手に入らないと、お前の好きなボスニアの老賢人も言っていただろ」
説得しやすいように、相手の得意なフィールドのたとえを持ち出した。
「あのね、キミの甘言にはボクはのるわけないよ。何年一緒にいるんだよ。それに、あの人はリスクを犯すのはボールを相手のエリア近くに運んだときに犯すもので、自陣で犯すのは間違っている。とも言っているよ」
自ら進んで、崖に向かう必要はないという事だ。
しかし、当意即妙で、返ってくるとは、サッカー関係だけはそれなりに頭回るな。
「そもそも、あの女の人ソロでも間違いなくボクより強いよ。どうするんだよ」
このゲーム、大名は基本一騎当千だからな。文化系や草食系の人でも無双してくるびっくり仕様。
しかも、小笠原長時は史実でも単騎駆けの逸話が残っているので推して知るべし。
「そりゃ、お前が、すごくがんばれ」
ダメならがんばる。すごくがんばるがお前の銘じゃないか。
「おい、こら」
がるるると唸りをあげる。
本当に噛まれそうだから、あまり煽るのはやめておこう。こいつの犬歯マジ痛いからな。
「半分は冗談だ。ただ、やりようはいくらでもあるだろ」
小笠原は騎射の大家。
大雑把に分類すれば機動力のある遠距離型だ。分かりにくく例えるなら、某名作SLGのトンボとりの人。
近接型というよりはむしろ密接型といってよい流人こと貴志雛姫とは、相性が良くない。
こいつの遠距離攻撃は岩とか鉄塊を蹴り込む事なので、立ち止まっての打ち合いなら強いが、足のある相手を狙い打つために戦場で駆けまわるには少々物が重すぎる。
逆に言えば、むこうを貴志の舞台に引っ張り込めばいい。
零距離。つまり、取っ組み合いになったら、こいつが負ける所はまず想像できない。
今回は色々な面で、飛騨の状況とは大分違うしな。
「うーん、あるけどさ」
MMOは、数字やスキルや職業の有用性。本人のポテンシャルの影響もわりかし高い。
全国の中高生を並べて体力テストをやったら、間違いなく両手の指には収まるであろうコイツ。
イベントの出席率は半分を切るのに、出たら出たで戦果上位に結構食い込んでしまう。
数週間から数カ月単位で綿密に準備している奴らからすれば、季節外れの気まぐれな台風の様なはた迷惑な存在だ。
流級対策本部が設置され、対こいつシフトが敷かれた事も何度かあったが、様々なフォローは前提としてあるが、殆ど鎧袖一触で蹴散らしてしまったりもする。
「でもね。その状況を作るには、乱戦に持ち込むのが一番だけど。どうかんがえても戦力が足りないぞ。数千の軍勢から攻撃対象決め打ちなんて馬鹿げた無茶だ」
結局、敵の大将がソロで出張ってくるはずもなく、周りの屈強な取り巻きも相手にしなくてはいけない。それが問題だ。
縛った髪に手櫛を入れながら台詞を続ける。
「それが分からない君じゃないだろ。あのとき殴ってまで釘刺した意味がないじゃないか」
思い出しただけで、体がぶるっと震える。無茶をするとこうなるぞと痛いほど分からされた。
「意味はある。嫌な役をやらせた事は無駄にしねーよ。ただ今度ばかりは、殴られるよりも痛い事だ。絶対に引くわけにはいかない、それだけだ」
「うー、どの口で蓬ちゃんを頑固者呼ばわりするのかこの人は。あのね、どうしてもの時は、ボクはキミの安全しか優先しないよ。もちろん、キミの良心も含めての事」
蓬の方に一度視線を向ける。そして、自分の配下に振り返る。
赤青は揃って一度頷く。
貴志もそれを見て、会釈をする。そこまでやって俺に視線を戻した。
「このふたりに文字どおり死ぬ気でやってもらうから。そうなったら、ボクは死ぬまでキミの枕元で恨み事言うかんな」
「ああ、肝に銘じる」
捨て石にされたぐらいでどうこうなる柔いやつらじゃないだろ。特にこの二人は南極に素っ裸で放り出したってエンジョイバカンスしてくるようなタマだ。
すでに面倒事大歓迎と顔にマジックで書かれている。
おー、わくわくするなー、絶体絶命とか燃える。
特別手当がっぽり頂くです、庭に柚子の木が欲しかった所のなのです。とかきゃっきゃいっとるし。
「それでも、気が乗らないよ。絶対危ないぞ」
「そういうなよ、しっかりお礼はするから」
「あのね、この前のだって、優しくしてくれるっていったのに、ご褒美くれるくれる詐欺だったじゃないか、働き損だぞ」
「しかたないだろ、こっち来るのに時間なかったんだから。お前からの貸しニつに増やしてでいいから」
あの後、指先すら動かすの大変だったんだからな。苦情は武田さん宛でヨロシク。
「わかったよ。たまにはボクもちゃんとかまってもらわないとヤダし。あと、筋道作るのは誰かさんの担当だからね」
「ああ」
「もう、本当に危ないと判断したら、キミを殺してでも逃げるからな」
さっきからの意趣返しだろうが、それは本末転倒と人は言うな。まあ、意識ごと吹っ飛ばされるのは覚悟しとけという事だな。
「ああ、任せる」
「うー、手元にあれもないこれもないで、どうするんだよ、もう。騎馬300で数千をどうやってひっくり返すのさ。キミは奇策でなんとかするタイプとは真逆でしょ」
「好きじゃないだけで、出来ない訳じゃない。あと数については多分平気じゃないか」
「なんでさ?」
「まぁ、そこはおいおい」
「わかっているけど、やるからには必勝なんだぞ。もうもう、言っていて既に不安になってくるよ」
さっきから、もうもうと牛にでもなってしまったのだろうか。
だとすればあれもこれもの諫言は反芻作用だろうか。まだまだ続くに違いない。いいかげん、ここらで、たち切ろう。
「まぁ、任せろ。勝算が自前で用意できなければ、ある所から拝借すれば良い」
振るべきダイスは足元に転がっていた。
幸運か悪運かはさておいてな。
振りと落ちは組みこみたいのですが、全てにとはいかないですね。次に向けての助走回でした。




