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遭遇

「ぶっすー」

 蓬さんが御機嫌斜めだ。


 理由は簡単。

 翌日、早朝。

 現在地が諏訪の町を北に抜けた山の中だからである。


 旧エ○ァでたとえるなら第四話。逃げ出した後である。雨は降ってはいないけどな。


 弱きを助け強きを挫かんと、使命感で燃えていた俺の嫁さん。

 弱き者に力を振るう者など、犬畜生にも劣るとか何とかパパ上さまがのたまっていらしたらしく。

 俺も義の炎とやらで立ち上がり、勧善懲悪するものと彼女の中ではスケジュール立てされていたらしい。

 

 どこの誰だ、その熱血系は。

 素っ裸で北風に立ち向かうような蛮勇など振り回した事は一度もないぞ。


 というわけで、物凄く納得行ってない蓬さんなのでした。今日のワンコ風に言ってみた。

 前話の桃色空気なんてもはや欠片も残っていない。こんなに悲しいことはない。


 兎に角、俺は悪くないんだ。証明の為に、ここまでの流れを纏めておこう。


 そもそもが、東海道で疫病が発生し、大嶽山を回って中山道を通らなければならなかったことが原因だ。


 貴志の家臣団も使えない上に、更に野麦峠ルート経由は、北飛騨方面が蓬さんの村を治める三木氏の勢力範囲外なので。時間的なロスがあり、戦があるのが分かっている地域を駆抜けなければならなくなってしまった。


 途中で軍勢と遭遇とか、どう控え目に言ってもいいことはないからな。

 ところが偶然、武田側の現場責任者に遭遇した上に恩も売れたので、情報収集が可能になった。

 成果は上々。諏訪側の動向は全て分かったし、意外にも、峠を挟んで陣を立てている小笠原勢の位置や軍の規模もかなり詳細な情報が手に入った。大分、安全確保出来ました。


 早くて丸一日でお互いに接敵という所だろう。


 それにしても、想像以上の釣果になったのは、長野は忍者の名産地なので、細作が優秀なのももちろんあるのだが。

 小笠原勢に属す小豪族や地侍はどちらにもいい顔しているグレーな人達が多いのだろう。


 諏訪地方は武田と小笠原おがさわら村上むらかみの紛争地域の最前線である。諏訪そのものは兎も角、周辺の村などは、両勢力に年貢や公事を治め、略奪や戦場の対象にされる事を防ぐ、半手はんてと呼ばれるものを行っていたのだろう。

 俺も領主時代に力不足から、年貢が半分以下しか入ってこなくて死ぬかと思ったことがある。俸禄払えなかったら部下に即下剋上ですぱっといかれるからな。


 生き残るには強かであれ。戦国の少ない守るべき原則の一つだ。

 つまり、逆もまたしかり諏訪側の動向も小笠原側に筒抜けな訳で。敵味方の線引きの巧く行ってない状況ほど怖いいものはないからな。背中から撃たれるは御免だ。


 まぁ、味方と分かった上で、軍展開するのに前にいるとか邪魔じゃんとか、背中から薙ぎ払った人気大名・伊達だてのまーくんとかいるけどな。

 人質になった実父もろとも敵を殲滅したり、関ヶ原の時には味方の領地に乱入したりとか、やりたい放題でいっそ清々しい『独眼龍どくがんりゅう』である。DQN眼龍でしたっけ。本当にこんなのが人気武将でいいのかと思わなくもない。


 閑話休題。小笠原勢の諏訪への乱入は春先にもあり、この度で二回目。

 本格的なぶつかり合いを避け、武威を示す事で、諏訪の降伏とはいかないまでも、人心を武田から離す事が狙いなのは依然述べたとおり。


 諏訪側の話合いに臨席した時、矢島やじま花岡はなおかなどの西諏訪の豪族からは、諏訪氏や守矢氏に対する敬意は感じられたが、元々侵略者である武田には好意的な気持ちは毛ほどもなかった。

 武田は強い。負けて従っただけ。その庇が生きる為の守りになるから膝をついているわけで、それが役に立たないとなれば離れるのは当然でもある。


 どちらの上も下も思惑が錯綜しているから、動きが遅いのだろう。

 それが分かれば、通り過ぎるだけの身としては十分だ。


 ついでにといってはなんだが、戦は人も動けば金も動く、消費構造の化物だ。

 上手くいけば、火事場泥棒的に収入を得るのが望ましかったのだが。


 先程こそこそとこんな会話をした。

「それで、首尾は?」

 『青いの』はやれやれなのですと首を振る。


「ダメなのです。あの女、自分以外は小指の先も信用してねーです」

 守矢娘はこちらの策は使えども、実地の指揮と財布のひもを握ってはなさなかったと。

 交渉が易いわけです。線引きが上手いタイプでした。親父が組み易すぎたので侮ったのが凡ミスだったな。


 戦の話に戻ろう。


 人や金を消費しつくして、生産する物は利益でなく悲劇である。

 ただ、得をする者損をする者がわかれやすいという事だ。

 本来なら、触らぬ神に的なもので、回避するものだが、此処は現実ではいない。

 一応、ベースがゲームである以上。俺も貴志も百戦錬磨とは言わないまでも、ベテランであるので、それなりにやろうとおもえば勝算はある。

 しかしながら、これは俺の戦・・・ではない以上、リスクは計算し、出来るだけ避けるべきである。

 積極的にかかわって利を貪るには、今の俺たちの戦力では子供の火遊びよりも危ない。

 この度の目的も、元手を得るためだ。


 考えて見ると、その事を蓬には、意図的に伝えていなかったわけで、おかんむりである。

 正確には、他の三人とはなんとなくは暗黙で共有していたわけだ。


 まぁ、最後のあれは置いておいて、四話もかかって良い話をしてしまった手前。

 そのような隠し事をしていたとか言ったら、俺の評価が1927年のウォール街のように暴落するので全速力で保身に走った。


 ちょっと想像よりやばそうだ、危険が危ないとかなんとか、それを適当に理由づけをして、参加するかしないしないか、いつものように多数決を取った。


 そして、蓬的には、いつもの山賊退治ように蘇芳と貴志のふたりが味方してくれるものだと思ったが。


 結果四対一。撤退でファイナルアンサー。

 決まり手は数の暴力。グッバイ諏訪で可決されました。

 Good-byeの語源である『神の御加護がありますように』と、一宿一飯の敬意を払って町の命運は祈ってはおくとしよう。


 言うまでないと思うが、もちろん、根回し済みである。

 そもそも、なんやかんや決を取るようにしていたのは、対蓬さんシフトでいざという時に有無を言わせないような場を形成するためだ。

 

 このパーティの発言力というか命令系統は以下の二つの図式が成り立っている。


 俺>(保護責任者の壁)>>>>>>貴志

 

 貴志>(主従の壁)>カリン>>(超えられない食物連鎖の壁)>>>>>>蘇芳


 なので、この二つの式から成り立つのは、俺のトップダウンで意見を通す事が出来るということ。

 しかも、貴志にはアイコンタクトで瞬間的にこちらの意を伝えられるので瞬間的に動く事も出来る。  ただし、奴は百パーセント伝わった上で理解できてないという事が、しばしあるので過信は禁物だけど。

 

 実際には、その上にもう一つ『蓬>(絶対王政)>>>>>>>俺』があるのだが、本人分かっていない。君臨すれど感知せずとかなんとか。

 直接競り合うと負けるので、そのためのワンクッション置いた対策である。

 まぁ、この構造を分かっていたとしても、こういう場面で使う事は良しとしないだろうし。ただし、対俺個人なら割といつも蹂躙され泣き寝入るのはご愛嬌。


 基調とする人間性が真っ直ぐかつ、経験不足なので、事前に搦め手の布石を打っているなんて思いつかないだろう。

 この仕込みは本来の目的は違う使い方になってしまったな。


 善良な人間は、えてして面倒事を背負いこむ。それを途中で投げ出しがちな人を偽善者と言い、背負いこんでしまうのを損な人という。嫁は後者である。


 領分以上の事なので、そうなると大抵の人は上手くいかない。

 周りから見てもああこれは失敗だと分かることが殆どである。


 だが、この人の場合、根性補正とポテンシャルで何とかしてしまうので、周りも気にせず更に際限なしに押し付けて、それを丸ごと抱え込んでしまう事がある。

 そして、嫌な顔一つせず、しんどさもおくびにも出さないので、限界超えるとそれはもう大変な事になる。

 道理を通らない事を無理といい。無理をすれば何事も歪みが生まれる例の最たる物を見る事が出来るだろう。

 ただ、そのちいさなてのひらに掬われて、救われた余計なモノ筆頭がこの俺な訳で、ソンな生き方を止めろとは間違っても言えない。


 だから、それを、抵抗なく手伝わせて頂くための布石だったんだけどな。逆に彼女のストレスになってしまった。


 彼女の善性を黙って支えるのは俺の甲斐性の見せどころな訳だが、今回は反対側に乗っているのが皆の命なので、よっぽどの理由がない限りは計るまでもなく。代わりに彼女を謀ったというわけだ。

 対応としては当然ベストではないとは思う、もっと納得してもらえるまで話し合うのがよいが、場所や時間の確保に難があった。

 事前の策なので、次善ぐらいの評価にはなるではないかな。


「ヨシ、こっち」

 考え事をしていた所。貴志に左腕を引かれた。

「ねぇ、いい加減出てきたら」

 剣呑な声で辺りに向かい、そんな風に声を張り上げる


「へっへへ、気付かれちまってたか。でもよ、おそいぜぇ」

 獣の様な濁声が、道の先の大木の裏から聞こえた。

 にまにまと笑いながらいかにもガラの悪い四十がらみの男が出てきた。

「ごきげんよう!山賊でぇす!」

 その言葉に、次々と姿を現す。

 なんかヒャッハーした集団にいつの間にか囲まれていた。


 あらら、またか。

 まぁ、索敵系の要員がいないからな。唯一いる山の人間は鉄火場に慣れていないしな。


「ひい、ふう、みー…随分、沢山だなー」

 のんきに『赤いの』が指さし確認。


「おほぅ。あ、兄貴ぃ!こいつらえれぇ上玉でっせ!」

 手下らしき男が、ぐへへと下品に笑う。


「おうおう。こりゃあ、ついてるな」

 最初の山賊は大ナタを、掌の上に載せ遊ばせながら近づいてくる。威嚇のつもりだろうか。


「お嬢ちゃんたち、悪いがちょっと付き合ってくれよ。運が良ければ、金持ちの家だっていけるぜ」

 うーん、分かりやすい悪役です事。

 でも、ある意味彼らも時代やシステムの被害者なのは確かだ。もともとこういうルーチンで設定されたのか。後発的な理由でこうなってしまった不幸な境遇であったか。それは知らないが。

 それでも、身を窶してしまった事に悔いはないタイプみたいだ。

 楽しそうで何より。俺もうれしい。呵責なく蹂躙できるからな。


「よーし、野郎ども。逃すんじゃねぇぞぉ――――おぅろぉろろろろろぃ」

 号令の途中で、グルンと目が回り。直立の姿勢から、その場に倒れてしまう。


「か、頭ぁ―――おべぇ!」

 駆けよろうとした手下もひっくり返る。眼球をなにか長いものが貫き。先程の男の死体の上に折り重なる。


 顔から長い棒状のものが生えていた。

 よく見ると先端に羽根がついている。矢だ。


 刺さった角度から、飛んできた方向に振り返る。


 ヒヒーン


 早朝の森に響くいななき。

 一騎の武者がそこにいた。

 猛々しい黒駒。息は大きく乱れ、蹄鉄を足元の石に何度も叩きつけている。


 馬上の主は、若木の様な姫武将。


 身分の高さをみてとれる飾り太刀は実用性を鑑みて荒縄が巻かれている。

 緋色の姫鎧に、すみれ色の前髪がいかにも鮮やかだ。

 しかし、馬が上下するたびに僅かに見え隠れする視線には怒りがたゆたっていた。

 人を殺せる視線とこういう物を言うのであろう猛禽の瞳。

 それだけでも強烈なのに。


 何よりも目を引く。強弓。

 馬上で使うよう、やや小ぶりであるが、使いこまれた黒漆くろうるしの輝きに繊細な黄金細工で装飾された業物。

 鑑定スキルを使うまでもなくわかる特別な気品。美術品の佇まいである以上に、圧倒的なまでの実用的な威力を感じさせるそれ。


 ホームページでスクリ-ンショットを見た事がある。

 各地の大名家には、家を象徴する宝重が設定されている。それのひとつ。


一張弓いっちょうきゅう


 ゲーム勝者に与えられるといわれている神代級のものを除いたゲーム内最強の弓。

 名の由来は天下に一張の意から。

 小笠原弓馬術伝承者。一門の中で、最も実力のある高弟に唯一下賜される一世につきひとつだけ門外不出の一張り。


 この時代。その持ち主はここが信濃である限り大凡見当がつく。


「何者だ!てえめぇえええ!」

 少し離れた所の山賊が声をあげる。


「舌を動かすな下郎。耳が汚れる」

 涼やかな声で、苛立たしげにそういい放つ。

 彼女の肘から先が僅かに上がった様な気がした。最上の胡弓を奏でたような音が辺りに響く。

 それに呼応するかのように、先程の声をあげた男が倒れた。


 また、同じ動作をおこなう。白鳥が羽を広げる様な優雅な動き。

 目におさめようと注視する。


 神速で矢を番え、弓を引き、そして離す。

 この三動作を、一呼吸にも満たないまで行っているのだ。

 刺さった後に、遅れて風切り音が聞こえるほどに。


 そうして、弓弦が鮮やかな音色を奏でるたびに、次々と取り囲む山賊たちが断末魔の悲鳴をあげつづけた。


 その腕前こそ、戦国最強の弓手に相違なし。


 武田と敵対する甲斐源氏・小笠原家頭領。


 小笠原湖雪斎長時おがさわらこせつさいながとき


 ――――その姫武将バージョンである。


 完全に江戸期の滝沢馬琴から続く、日本的エンターテイメント『女体化』の毒牙に掛ってしまわれていますな。


ようやく、三十六部と繋がりました。三か月かかっただと。


見返しても、その間のプロットが五行ぐらいしかないのに、時空が歪んだとしか思えない。

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