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金雀枝

思うように時間が取れない、すみません。三連休の間に何とかします。

原稿用紙換算で量が大変な事になってましたので、10枚程度に分割。


予定通りにならないもどかしさ。計画性ってコンビニで売ってないだろうか。ダース単位で欲しい。



 部屋に案内されると、蓬さんの一礼で迎えられる。


「お疲れになったでしょう」


 なにやら、傍らに複数の桶と、何枚かの布地が重ねられている。


「寝てなかったの?」


「…はい」


 痕から思えば、その表情は歯切れの悪い笑顔とうべきものだった。


「?」


 しかし、察しの悪い俺には小指の先程の違和感に留まった。

 自己弁護するならば、それが気にならなかったのはもっと大きな疑問点があったからだ。


「あれ、『赤いの』は?」


 十畳程の部屋の中には、俺と蓬だけ。い草の青い匂いのする畳の部屋。なにげに、デスゲーム開始後に目にするのは初である。

 そこでぐったりしているはずの『赤いの』の姿が部屋のどこにも見えない。


「お三方はお隣の部屋だそうです」


 襖ではなく木の板壁で仕切られた背後を、エレベーターガールみたいな手付きで指し示す。


 『青いの』は提出した草案の問題点洗い出しとすり合わせ。ついでに、話し合いに為す所、漬物石並みの有用性を誇る上司にも監督役で後を任せてきた。

 一応、例え内容は分からなくても、大事な所をしっかり押さえる事が出来るのはあいつの特長だしな。

 この部屋割とゆーか気の使い方するのも含めて。


「貴志の差配か。余計な気をまわしやがって、ちっ」


 おそらくみんな一緒が良いと主張しただろう蓬さんに同調する振りをしつつ。そなたに感謝を。おまえこそ、俺の心の相棒だ。というのが混じりっけの無い本心である。

 気の所為か青空笑顔の幼なじみの八重歯が光るのが見えた。

 代わりと言ってはなんだが今回みたいな面倒事を押し付けることしかできない俺を許してくれ。


 とはいえど、折角の機会ではあるが旅慣れない身の強攻軍の所為で、何をしようという余裕はないんだよなぁ。へろへろのぼろぼろです。


 あんなこといいな、できたらいいな。あんなゆめこんなゆめいっぱいあるけど。

 みんなみんなみんな今日はもう叶えられないでござる。

 まぁ、皆で動くようになって、さすがにくっ付いて寝るだけの勇気とゆーか度胸とゆーか、衆人環境で 世界系桃色時空を形成しようという蛮勇はなかったので。

 それでも、肺の奥まで体温を感じて眠りに落ちていけるだけでも、部屋中を跳ねまわりたいほど嬉しくてたまらない。

 ただ、そんなことしたら、この後二三言葉を交わす体力もなくなるので自重しよう。


 なんだか、眠りの事を考えたらからか、腰から力が抜けてしまいたたらを踏む。

 未だ慣れない女性の体は疲れると違和が大きくなり、途端にこちらの意志を裏切り出す。


 少なくない苛立ちがある。


 こうなると、身にまとうものさえ重く煩わしくなってしまう不自由だ。

 山歩きをする為の旅装は、涼やかな巫女装束を基調とするものの、普段露出している手や足の部分をきつく締めた重装備だ。


 ひとつ肩で呼吸をする。

 花押を描きステータスから装備欄を開く、そこから指をスライドさせストレージに脚絆を投げ入れた。

 足元がふわと薄く発光し、両ももの脚絆が消える。

 拘束から解放さたふくらはぎに、静かな安堵が零れた。

 一つ気分が軽くなった。この瞬間までは。


「ああああああっ!」


 蓬がこの世の終わりみたいな悲鳴を上げる。

 顔に絶望が張り付いている。


 その声に、全身の毛が逆立った。


「え、ええ、ええっ!」


 何が起こったのか分からず。プチパニックに陥る俺。


 蓬は三段重ねのアイスを食べようとした瞬間に、上二つを落としてしまった子供の様子を全身で表現しているようだ。


「わ、わたしが、わたしが脱がして差し上げる筈でしたのにぃ」


 畳に、うなだれたように両手をつく。

 初めてだな、リアルに人がOTZになっているのを見たのは。いや仮想世界だけどな。


「そ、そんな、悪辣を、非道を行う方とは思いませんでした…」


 何もかもよく分からないが、幻滅された!

 衛生兵っ!衛生兵はどこだ!俺の好感度がとても重篤、至急増援を!至急増援を!


「ご、ごめん。俺が悪かった、許して下さい」


 とりあえず土下座外交を展開。

 女の子が理不尽な事を言っている時はとりあえず謝れって、貴志の家のばっちゃが言ってた。

 例えどんな無茶でも、話を聞き譲歩する姿勢が肝要とかなんとか。


「なにがあれだったのか正直分かんなかったけど、とりあえず蓬さんの意に沿うようにやりなおすから、何でも言ってくれ」


「なん…でも?」

 

「そうなんでも、なんでもするから」


「…え、あ…えーと、ホントですか」


「うんホントヨー、ホントにホントヨー」


 怪しい中国人調に安請け合いする。


 何とも言えない無言の間が何呼吸分も続く。


「そ、それでしたら……」


 耳が徐々に秋深まってくように。ぽーっと頭から湯気が出る程、真っ赤になる。


「…いえ、やっぱり、いいです。ヨシさまにご迷惑がかかるとおもいますし」


 口元にぐーを当てて、もじもじする。

 そのまま、畳と目と目で語りだしてしまった。

 き、気になるんですけど。

 これが罠なのは分かっている。超ド級のトラバサミなのはわかってはいる。ここでスルーしとくのが正しい判断なのは、間違いないけど。間違いないんだけど超気になる。


そこでようやく座り、目線の合わせる。


「いいよ。遠慮なんかされたら俺寂しいよ」


 右の手を取り、両の手で包み込む。

 蓬さんがゆっくりと顔をあげる。

 

「本当でしょうか」


 笑顔でうなずく。


「本気と書いてマジダヨー」


 歴史上この台詞でマジだった人がいた事はない。


 反対の掌をぐーぱーぐーぱー落ち着きなくしている。まだしばらくためらっていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「わ、わたくし


「へ?」


「先程みたいに、わたくし調で姫言葉風にお話しして下さひっ」


 意を決して言う言葉は相変わらずカミカミしますね、この娘さん。

 一瞬意味が分からなかったが。

 交渉の席で、それらしく見せる為に、普段とは違った言葉遣いをしていたなと、思い出す。


 指先を恥ずかしげに突き合わせて、想いを言葉に変換していく。


「胸の奥がきゅっとなって、喉がふわっとなって、それから耳の裏が熱く…なりました。不思議な気持ちです。ヨシさまはこんな気持ちなんと言えばいいか御存じですか」


 さあ何でしょう、全然見当つかないナー。だって知らないもの、この時代に萌えと言う言葉が無い事なんて。

 自己防衛とは人間の正しい機構である。


「できれば、これからずっとあの口調にしてみませんか―――いえ、したほうがよいとおもいます」


 蓬さん謹製のゴリ押しと力強い筆跡で書かれたギアに入りかけいてる。

 するべきです。しましょう。になる前に、お断り申し上げよう。


「うん、無理」


 ホントやめてね、俺の自我境界線がまたゴリゴリ削れるから。

 舞台の上の演目を日常生活でやれとか、どんな笑えない喜劇だよ。と蓬さんに伝える。

 それで、あげておとされた時人間はこんな顔するのかと一つ学べた。


「あんまりです…何でも聞くって言いましたのに。でしたら、わたしがお願いした時だけやってくれるだけでもいいですから」


 ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック…だと。

 一度達成不可能な要求を突き付けた上で、数段落ちる要求に変更して承諾を得やすくする。

 ちいっ、農家の小娘め。いつの間にそんな小賢しい方法を。

 どこのどいつが余計な入れ知恵したんだ。

 なんか、だんだん揺さぶりが上手くなっている事に不安を覚えてくる初夏の夕暮れ。


「無理なら、宜しいですので」


 眉がやや八の時な弱い笑顔。雨にぬれた子犬(柴)並みのスルー出来ない罪悪感、ここに襲来。

 多分、今後笑顔でごり押しのレベル更に一つあげられるわ。こりゃ、黙殺できねーもん。


「…り、了解。ただ他の人がいない時限定にして下さい」


 何でも聞きますと無条件降伏した手前、ここで粘っても何ら得る物はない。

 いまは話を切り上げておいて、とりあえず今後要求を突き付けられそうなときは、話を逸らして一目散に逃げきろ―――。


「ありがとうございます。では、とりあえず今お願いします」


 にこーっ。


 返す刀でとりあえず攻勢返しキター。なんていうか、切替え早いんだよ、女の子って生き物は。

「――――うっ」


 速攻の早さに心の声の語尾がついもれてしまった。


「うっ?」


 なんぞそれと、いつもの小首をかしげる仕草。要求したものとちがうぞなと。


「う」


 釣られて、輪唱してしまった。


「うーっ♪」


 それに被せる様に口を横に伸ばして、新しい遊びを見つけたように続けようとする。雅やかに翻訳すると、はやく貢物を献上するのじゃ、わらわはまちくたびれておる。となるはず。

 それは置いておいて、なんなんでしょうね、この萌えキャラ。くそ、萌えたら負けじゃねえか。


 コホン


 わざとらしい咳払い一つ。


「どきどき、どきどき」


 どうやら口で興奮を表しているらしい。

 きゅっと両の拳を腿の上に置いて、背筋を心もち整える蓬さん。

 や、やりにくい事この上なし。


「よ、蓬様はわたくしのこのような口調がお気に召したのでしょうか」


「うーっ☆」


 肯定とばかりに握った手を、頭上で解放。万歳でよかったと伝える。

というか、それ気に入っちゃったのか。

 時々、俺の方が年下だっけと思わせるようなしっかり者さんが、年相応に幼く見えてほっこりするじゃねえか、こんちくしょう。


「重ねて申し上げますが、ふたりっきりの時だけですからね」


 ぽん。


 そのまま忙しなく胸の前で小さな柏手一つ。

 少し顎を引いて、手を合わせたまま、下の唇に指先をちょこんと乗せる。

 自然と上目づかいになり、冬の夜空みたいに輝いてる。


「ふわーっ、うわっーぁ!」


 蓬さんが興奮しすぎて壊れた。


「ええと、落ちつかれませんか」


 背中に汗をかいてしまった。


「ボlんbvwpご!」


 台詞が完全に文字化けし、感極まったのか体当たりをかましてきやがりました。


「むぎゅ」


 圧迫された胸から、行き場を求めた空気が声となって漏れた。


「素敵です。感動です。超可愛いです!」


 耳元でそんな事を告げられて、頬をすりすりされた。


「よ、よも、よもも」


 こちらの言葉も文字化けしてしまった。

 ちょっと苦しいし、恥ずかしいし、犠牲に払ったものが取り返しも付かない気がしたが、補って余りある役得である。

 

「うふふ、えへへー」


 嬉しそうな声。餅みたいに頬をこねられていく。


 でも。


 いつしか温かいものが、彼女の目から産まれていた。


 触れ合っていた俺の顔にも、痕を付け流れる、それは涙。


「ふ、ふえ、えっぐ、ふえっ…」


 それは先程の御ふざけの、絶望とは違う。本物の悲しみで。


 この時の俺は彼女を泣かせてしまったのが自分だと、本当に分かっていなかった。


 今も、俺は蓬を泣かせないという約束を守れずにいる。


明日か、明後日に次上げます。

勝ち負けで不透明なやる気の幅。


ジェフがJ1上がれますように。雨の国立いってまいります。

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