開戦準備
前回の続き。権力者折衝篇。
休日が別の並行世界に移動したらしくて、ようやく時間取れました。
上諏訪・諏訪大社上社
会議の場、守矢親子を始め。同じ神官の下社の金刺氏。実動班の千野氏。西の諏訪衆である矢島氏・花岡氏などの諸豪族があつまり角を突き合わせている。
多種多様な意見はかわされるが、方針はまとまらない。
しかし、方針は定まろうが定まるまいが、向こうさんはやって来ているわけで、各々の利権の源たる諏訪の足元に火をつけられるのは、誰もが望むところではない所は一致しているはずである。
しかし、湖を挟んだ北側の下社。北信濃からの軍勢は間違いなくそちらにぶつかるため、管理者である金刺氏は出来る限り多くの戦力を巻き込もうと必死である。
だが、西の矢島と花岡は、バックの高遠頼継の陣立てが整い次第とか、武田の指示がありしだい従うとか、言っている事を二転三転させて、のらりくらりかわして、会議の場を足早に後にした。
辞書に乗っけたいほど完全な日和見です。本当に以下略。
いや、下手したら、小笠原側の尻馬に乗って美味しい所をかっさらおうとするかも知れない。
更に、どんな判断だろうと、会議にゆだねると偵察と警戒、己が役目を果たす為に実直そうな千野の若き将も場を離れた。
最後に武田の援軍を引き出せない守矢を散々一頻り罵った後、金刺氏も本宮を後にした。
足並み乱れた遅かりし会議も、結局のところ、貧乏籤の押し付け合いでしかないわけで。
残った籤は責任者が回収するわけだ。
どんな組織も内ゲバがあり、強固な一枚の集団になるのは理想だが、結局、夢想に近いとも言える。
難しい顔で、守矢親子は責任と書かれた籤の置きどころを探していた。
対岸の火事とばかりに協力する気もない奴らが代表者でさえ、半分もいるわけだからその更に下を考えると当然だろう。
「諸氏なんてこんなものでしょう。結局のところ」
まあ、てのひら返しなんて周囲の豪族や国人衆の立場からいえばもっともだ。傾いた母屋に残るいわれは無い。
勝ち馬に乗らないで意地や義理に固執するものが永くなるほど、この時代は甘くない。
その時折の都合の良い方に付いていく。処世術は何よりも大切だ。嗅覚の弱いものから死んで行くのは――適者生存――自然界の掟である。
ただし、かといって義理や人情をないがしろにする者は、問題外である。
約束を守れぬものは、信はおけないし、浮薄者に命を預ける事の出来きる奴は変態だ。
なにごともほどほど。中庸かつ中道こそ肝要。
詰まる所、ここらのバランス感覚がリーダーシップと呼ばれるものだろう。
下手だと、今の政治家みたいになる。
その時々で都合の良い方を選ぶのは正しい。保身は日本の伝統芸能であるからに。
ただ、外にも内にも正当性や名分をしっかり示した上で行動していくことが大切なのだ。
そうしなければ民や臣下の支持を得る事は出来ない。
自分に対していいわけ出来る程度であればよい。
誰もが己が生き残るための庇を選ぶのだ。少しでも大きい。よりよい場所を取るために。
「今の会談そのものは時間の無駄と分かり切っていた事ですよ。だれだって自分の身が可愛いものです。自分以上の何かや誰かの為に命をかける人間は希少ですよ」
会議とは分かり切った結論を長時間かけて確認する場である。
収穫は、小笠原の標的に真っ先になる金刺は勿論、若くて青い千野の協力は無条件で得られそうな事と。
寧ろ、個人的にはプラスではないかと思うのだが。
「はじめから、貴女方の影響力は同輩に行使するものではなく、信徒たる民に向けてしかるべきものでしょう」
信じる者は救われる。卵を落とせばすぐ割れる。
だからこそ、恥ずかしいパフォーマーを演じさせて頂いたわけで。決してこれまでの理不尽にイライラしてたストレス解消ジャナイヨ。
「いったい、貴女は何者でしょうか」
語り屋であり、騙り屋でもあり、集り屋ですねー。と言えるはずもなく、相槌代わりの笑顔をスタンプしておく。
そんな巫女もどきの白拍子の様子にため息をつく旧き神の女神官。
えー、笑顔のごり押しに日々、遣り込められている身としてはちょっとした罪悪感もでてきてしまう。
適当な返事くらい返しておくかなっと。
「真田には私くらいの者など掃いて捨てるほど居りますよ」
名にし負わば、戦国チート一族。当然、臣下らも万夫不当とかくあるべきや。
窮鼠の状況を、ただ戦の巧さによりひっくり返さんとする強さと強かさ。詰んだ盤面でもそれごとひっくり返す事が出来る政略と戦術は戦国最強だろう。なお戦略眼の確かさは不明。
まぁ、結局のところ、覚悟が定まらない俺如きが影を踏めるものでもない連中だ。
「失礼ですが真田殿の現状から、ただの使い番に多少なりと弁の立つ者を割く余裕はないと思いますが」
嫌味を言われた。でも、それは真田の痛いところであり、つまるところ俺にとっては他人事である。
まぁ、真面目系弄って遊んでいても仕方ないので利害のすり合わせ入るとしますか。
「然りですね」
真田幸綱。幸隆とも。
後に信玄の懐刀と呼ばれる武将であるが。現状は、外様の転向者の一人でしかない。
真田は元々東信濃の古い血筋の海野氏の配下であった。
しかし、1541年、武田、村上、諏訪の連合軍に滅ぼされる。ちなみにこの後、晴信が父・信虎を追放して、この三家の協調路線が崩壊するのは周知の通り。
伊達さんとこもなかなか凄いが、武田は飽きもせず五世代にわたって親子間でいがみ合っているから、乱世の業は深いものだ。
して、真田の父祖の地は現在の長野県上田市。その縁を使い、同じ東信濃の佐久郡諸公の切り崩しを担当していたのだが、上田原の敗戦から村上義清の逆侵攻を招いてしまった。
新たに武田に戦力を取り込むどころか、元々あった武田の地盤もほぼ失いつつある。
幸綱自身の失態ではないが、家中の居心地が快適とは思えないだろう。針のムシロよりややましくらいではないかと思う。元は敵の配下だっただけに現状は宜しくは無い。
先程の諸豪族の転向の話をしたが。
裏切りの御利用は計画的に。
タイミングを逃せば意味がなく、土壇場でやっても心証は良くない。大きな行く末を決めるそれは一種芸術と言っても差し支えのないほど難しいものである。
弱小勢力故に、真田はそこの所の割り切りとおもいっきりが良い事に定評のある一族なのだ。その神髄は次代の表裏比興の者に集約されるが、ここでは別の話。
「おっしゃる通り。我が主、真田幸綱は神算鬼謀の輩にて。しかうして、現在は土地も手勢も金も持たず苦しい立場です。だせるのは此処」とんとんとこめかみを二度叩く。「そこで此度、貴方がたに知恵を貸す事によって、貸しを作りたい」
とうわけで、全部真田の所為入りまーす。
「わ、私達に貸し…ですか」
訝しげにこちらを見る。まぁ、一つの貸しで真田はケツの毛まで毟っていきそうな相手ですからね。自分で言う事ではないが。
「ええ、この戦の後、手を借りたいのです」
「私達に、佐久や小県の調略を手伝えと」
現状真田のお仕事。諏訪や守矢の名前を借りるだけで大きく進むだろう。
信州中央に根を張る。神の末裔。長い歴史はそれだけで尊ばれるもので信用やら正当性の影響力は信州に留まらず全国に信徒を持つ。
新興勢力や武田のような隣国の慮外者にとってはこの上なく腹が立つ紋所だろう。
しかし、目の前で、千早の袖から指をちょこんとだし、左右に振る。
「いえ、もっと単純です。村上を滅ぼす助けですよ」
にこーっ。
周囲。守矢の下官たちがざわめく。失笑や嘲弄でだ。
「あの村上をだと!」
「鬼神も裸足で逃げるという無双の豪の者だぞ」
「武田自体が相手にならなかったではないか」
「だからです。御館様が惨めに負けた村上を、我ら真田と諏訪が滅ぼすのですよ」
守矢親は飛びあがらんばかりにギョッとなる。
眉をひそめる若い禰宜大夫。親は兎も角、下の世代は武田たる自負をもってるわけですね。
可笑しそうに、口元に袖を当てて笑う。試されたと思ったのか、親子ともこちからら、一瞬目を逸らした。
「確かに村上は馬鹿みたいに強いです。勇将の下に弱卒無し。一兵に至るまでその精強さを突き詰めたもの。だからこそ、同等である信濃武者の武があれば、勝てる。貴方がたに真田父祖の地を奪還する手助けを願いたい」
利点があります、人差し指を立てる。
「さすれば、新参の我らであっても武田の中で発言力はゆるぎなくなる。将来諏訪姫の産む子供を武田の主に据えることだってできるかも知れないですよ」
ぱちりと、お巫山戯めかしたウィンクをしてみる。
「随分分かりやすい詭弁ですね。正室との間に御長男も御生まれですし、あの賢明な晴信様が下手に家中に罅を入れる愚を犯すとはとは思えません」
聞こえのいい言葉は、毒である事を知っている相手だな。ただし、知っていて乗る遊び心は期待できないと。委員長タイプとはどうも相性が良くない。
「まぁ、可能性の話のひとつですね」
そうおもうやんか、史実なんよー。さぁ、何のモノマネだったかなっと。
諏訪御寮人の息・諏訪四郎勝頼。武田の通字の『信』をもたない君主。
奇貨であり、そしてまた、奇禍でもあった。織田に敗れ武田の死に水を取りし者となるために。
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、嘘くさい真実も確かに存在するのが世の常でだ。
ただ、その正解を知っている事が、時として上手く回らない原因になってしまう事だってある。
このゲームで痛い目にあった事も、利用して大きな利益を挙げた事もある。
現状の最強の矛である歴史認識も、細心の注意で上手く扱っていかなくてはいけない。
いつ足元をすくわれるかも知れない事を、忘れないようにしないと。
「貴女は嫌な人間ですね」
はてさて、人間と言う概念区分はこの時代にあっただろうか。反論するよりも、一笑するよりも先に、そんな事を考える俺は詰まる所そう言う人間なのだろう。
「はい、よく言われますね」
うんうん、と声に出して頷いている幼なじみ子は後で正座な。
期待していた反応をえられず。奥歯にものの挟まった様な顔をしている守矢娘だが。
「ですが、清廉な麗句を並べるより、利益を欲しがるものは信用できます」
信用であって、信頼でない所がみそかな。
それにしても、実に神官らしくない物言いだ。
そこで、こちらの顔に出たものを読み取ったのか。
「神職だからですよ」
そんな言葉が送られてきた。
能面みたいに動かない表情が初めて笑う。苦笑ではあるが。
察するまでもなく、若いうちに偉い立場にあればそれなりの苦労があるのだろう。
縁故の色濃い人事ならなおさら。世襲制であれども、いや、それであるがゆえに替えの効かない能力こそ求められるのかもしれない。
自分の家のカビ臭い、頑なさを思い出した。
「相分かりました。父上も宜しいですか」
「あ、ああ。我々だけでは手が余る。ぜ、是非もない」
あ、影薄いから存在忘れてた。娘の一抱えもある緑の髪の毛が畳でとぐろ巻いているのはインパクトありすぎ。
「では、現状を整理しましょう」
えーと。
先程の会議から、小笠原勢は四月にも、御柱祭の前祭に乱入して中止に追い込んだという情報を得た。今回の本祭に合わせての出兵も、またその延長線上だろう。
要はかく乱だ。
武田の信用は無くなる。ゲームの数値的に諏訪の神の恩寵も下がる。強力な守護のない城や町を取る事は、攻撃面が実際の歴史よりも補正されているゲームなら赤子の手をひねるよりもたやすい。
守護の無い紙や木の城なんて火の方術であっという間に消し炭だからな。マイムマイムを踊る暇もないほどに。
この後、早くて収穫期の後には武田との決戦が待っているわけで、小笠原側は出来る限り被害なく諏訪が欲しいのだろう。
「相手は最小の被害で最大の利益が欲しいのです。相手は諏訪の次を見ています」
「夏と言う時期は、大戦をやった武田の泣き所であり、逆に言うと相手も長期の動員が可能な陣立てではない」
「そこで此度の勝利条件は、彼らに割にあわないと教えるだけでいいのです」
諏訪は甘くないと。
「ど、どのようにでしょう」
「最善手は極めて短期間に痛撃を与えお帰り願う事ですね」
「中心の小笠原や仁科はともかく楽して勝てる戦で恩恵に預かろうとする諸豪族の士気は大いに下がるでしょう」
士気の無い軍は烏合の衆であるからに。
「また、それらを奮い立たせられるほど、もしくは無理強い出来るほど、纏まった権力を確立できていない」
この時期、武田も含め、中央集権化にできている戦国大名はいないから。
「貴女は、まるで内情を知っているかのように語りますね」
まぁ、正解を知っているテストだからな。創作の歴史ものにおける神の視点を持つスーパー軍師ポジション(ごく短い期間限定)。どうしたって胡散臭くなる。
「いえ、傍証から出来た簡単な推論ですよ」
「要は?」
その台詞、芥川龍之介かよ。一応、散々無駄な会議に付き合わされたから、急くのも当然かな。
もうなんだかんだ夕方だしな。
スパッと終わらせて、こちらもゆっくりしたい。
「行軍があまりに遅い」
圧力をかける意味もあると思うが、夏のこの時期には非効率だろう。
「まとまりがないんでしょう。ちょうどこの諏訪の様にね」
しれっと、問題発言。
「分かりました。それでは、具体的な方策に関して――――」
「ちょっと待って」
幼なじみが飽き飽きした表情でストップをかける。
議論系には役に立たないように見えるが、過程をすっ飛ばして正解や最善にたどり着くのがこいつなので。本人の好き嫌いは無視して置いておくと割と役に立つ。
「どうした、気になる所でもあったか」
ただ、話の最中に割り込むのは比較的珍しい。
「ねぇ、蓬ちゃんが」
俺の後ろを振り返ると、ぼーっとしたように、いつもの活気がない。
無理もない、慣れない長旅で、いつも俺達のフォローを影日向にやっていてくれてたからな。疲労は人一倍だ。
「眠い?」
声をひそめ、耳元で尋ねる。
肩が僅かに撥ねる。睫毛の奥の目がこっちを見返す。時化の後の海の様に、どこか鈍い。
「いえ」
「無理しない。部屋貰っているから先に休んでて」
「……はい」
まだ何か言いたそうだったが、背中を押した。
案内をつけてもらって、別棟に案内してもらう。全力で偵察を終えた赤い子がもう高いびきをかいているはずである。
「もう」
ぽふんと貴志に肩を叩かれた。不満だという意思表示。なにが?意味が分からん。
「では、宜しいですか」
「ええ、お待たせしました」
「仔細を詰めると致しましょう」
「まず手持ちの戦力ですね」
「兵力は、千野の騎馬にて三百です」
木曽馬の産地の近くだけあるな。
武田のイメージもゲーム的に加味されていて、そんな有様。
故意か。事故か。初期配置とはいえ兵科ひとつとか舐めてるな。
山国でどう戦争するんだよ。モンゴル人でも困るわ。
「では、それをどう生かすかですね」
最大の強みである野戦でもなく。防御戦しかも、籠城に近いとなると。どーすっかな。
今度は袖を引っ張られた。
「ねえ、ヨシ。カリンに発言させてもいい」
頬をトラフグの如く膨らませている。私、凄く不満ですと大文字で書かれてういる顔に、貴志は長い指先の掌を上に向け差し出す。
これはやばい、ガス抜きしないと暴発する兆候だ。
「はい、カリン君どうぞ」
「はいはいはい!」
大概ややこしくなる上に物騒な議論と結論になりがちなので、方針に関しては発言禁止にしてた青の子は、我が意を得たとばかりに、前のめりに手を挙げる。
すげぇ、嬉しそう。ひいきのチームでも優勝したのだろうか。
「西欧の羅馬という国は土木で勝利せりと申しますです。折角の地の利を更に整え迎え撃つ事が、一番の近道なのです。防と攻と限定の三重の防護を提案しますです」
周りの地形を、詳細にした紙を広げながら、得意げに話だす、青いの。
服装同様西洋かぶれである。技術や物品はもとより戦術まで読み込んでいるのは、間違いなく珍しい部類だ。
あと、得意げに広げたそれは出番もなく、ばたんきゅーしている赤いのが頑張ったおかげだからな。このふたり一方的に利益を搾取する関係性である。どこかで見たことがある様な気がしなくもない。
墨で引かれた工事場所の数を見るだけで、守矢娘は眉をひそめる。
「しかし、時間があまりにも足りないのでは」
「ふふふ。そこなのです。相手もそう思っているはずなのです、それを逆手に取り――――」
とりあえず、任せとけば問題ないな。蓬さんの様子も気になるし。
早い所、結論にたどり着いて、諏訪の方に後は頑張ってもらうとしましょう。
今度はなるべく早く。次はお待ちかねているかどうか分かりませんが、エ…もといサービス回です。
いつの間にやら、始めて半年ぐらいたってたみたいで、いつもありがとうございます。
設定のメモやプロット見返すとへーそう言う考えかとなるくらい自分でも忘れてますね。仕掛けは忘れませんが。どうでもいい書いてない事は闇の彼方に。なぜ、主人公をネカマにしたかがどうしても思い出せない。
そして、プロットの消化できてなさに慄く。
余裕があれば、しばらくぶりに全編ブラッシュアップしたいだけどそれどころではないです。




