番外編・貴志雛姫のやすむにも似たなにか
変化球回。
今回の語り部は、ボクこと貴志雛姫になるんだぞ。
あれから、三日。
ゲームなので、傷の治りも早く泥のように眠った後は、ボクも前にもまして調子が良い。
むしろ、ヨシの方が体の節々が痛むらしく、寝返りを打つにも四苦八苦していたりする。
反応が面白いのでつっついて遊んでいたら、やりすぎて、蓬ちゃんに怒られた。ごめんなさい。
それはそうと、先刻そのヨシに相談事を受けた。
「蓬と何を話せばいいかわからない」
「はぁ?」
一瞬何を言われたが良く分からなかった。あんなに毎日こっちがいたたまれなくなるほどきゃっきゃうふふと仲良くしているのに。
よくよく聞いてみると四六時中一緒にいるわけで。なんか緊張するとかなんとか。
蓬ちゃんに楽しんでほしいとか自分がよく見られたいという見栄が合わさったような感じかな?
サービス精神なんてもってたのかと驚く。
自分以外の人間を薪ざっぽうみたいに見ていた人間も変わるものだなぁとおもう。
「おー、これが思春期かぁ」
なんてかんがい深げに言ったら即チョップだったぞ。
沸点の低さはまるで成長していないじゃないか。
それでも、ギザギザハートの嘉人君はもうどこにもいないんだなぁとはおもう。
「そもそも、女の子となんてどう話せばいいかわからない」
彼なりにすっごく真剣にボクに相談しているのは分かる。幼なじみだから。
でもどうして、この男は、ボクに対してこうも失礼なのだろうか。グーで殴っても許されるレベルな気がする。デリカなんとかが足りてない。なんだっけデリカテッセン?
それでも、三年連続で凶作にでもあったような農民みたいにしょんぼりしている様子をみているとそれもできなかった。
「そのままでいいんじゃないかな」
とボクは告げた。どんなことでも彼女は喜ぶだろうと思うから。
そしたら、なんと本当に申し訳なさそうに謝られた。
「生まれてこの方異性と付き合った事もない奴に相談しても無駄か、ごめんな」
さすがに温厚なボクも、前言撤回。怒りの鉄拳ギャルぱんちを発動させる。
「どーん!」
ぽわぽわしたエフェクトが発生。
口調とは裏腹の気の抜けた打撃音が響く。さすがにけが人には無茶出来ないしね。
でも、調子に乗ってビシビシ連打してたら、蓬ちゃんにまた怒られたごめんなさい。
あ、そうだ。
よく誤解されるから、一応言っておくと、ボクはヨシに恋心は持って無い。
そもそもボクには恋とか愛とかよくわかんないと言った方がいいかな。
どうやったら人を好きになるのか?それは小さな事が積み重なって手が届くのか。あるいはいつか突然落ちるものなのか。
それを考える機能は人の心のどの辺にあるのか?上の方か下の方か、そんなの全く見当もつかないぞ。
誰かを好きになるって、ちょっとばかりボクには難しい事だ。
どうして、みんな男子と女子がいると、そういう事ばかり考えるのは不思議だ。これだけ世界に人がいるなら、関係性が一つしかないなんて誰が決めたんだ。
例えば、ボクとヨシは家族みたいなもので友達で姉弟で相棒で。どれかというと、どれでもなくて、どれでもある。
ずっと隣にいるのが当たり前だから、一緒にいる。これまでも、これからも。
そんな大切な異性がいたら駄目なのだろうか?
なんていうか、異性の兄弟姉妹のいる人ならわかってもらえると思うのだが。
そういう対象じゃなくても優しくされれば嬉しいし、大事にされれば機嫌が良くなるだろう。
たまに(本当にごく稀)、女の子として意識されると、嬉しくはあるが背中が言いようもなくむずがゆくもなる。
そう、結局のところ、今さら互いの異性を考えることは、ボクらにとってはたまらなく恥ずかしいのだ。
恥じらいを知らない頃のボク達はあまりに無邪気だったから。
健康的な意味で好奇心旺盛な年頃だったし、お互いの体の違いに興味しんしんで、風呂場なんかで触り合ってない所はないだろう。
もしも男女の仲になったとしたら、あのころを思い出して、五分でのたうち回って悶絶死する自信がある。フインキを作るどころではない。
だから、今も女の子としてのボクを見せるのはたまらなく抵抗があるし、ヨシのそんな所は見たくないし。
まあ、今となっては男の子らしさなんて見たくても見れないけどね。
なので、いつもは今みたいなぞんざいな扱いでまぁよい。
むしろ、あまりたくさん優しくされるようなら、逆に何かあったか心配になるぞ。
まあ、いつかはボクも誰かと好きだ嫌いだ切った張ったをする日がくるのだろうか。
なんとなくソーゾーしてみることもある。
どんなにシュミレーションしてみても、まだ見ぬ誰かにピントは合わなくて。
代わりに、いつも目の前にいる奴でやってみる。けど、うん、まったくピンとこない。
だから、友達に好きな人が出来たらなにをするのかなんて話をきいたっけ。
何故か真剣な顔でボクの額に手を当てた後。このような話をしてくれた。
一緒にいたり、ご飯作ったり、遊んだり、アイスを交換したり、テスト前は図書館で勉強したりするの。と、あれやこれやそんなカンジ。
内容よりも話してくれたみんながそっくり同じ表情をしてたのを覚えている。
うーん。それって楽しいのかって聞いたら、雛は名前通り子供ね。情緒未発達なんだわ。絵本でも読む?と口々に言われた。
なんだか、恋よりも友情について考え直した方が良いのかなとおもったぞ。
でも、みんなが当たり前にしているものでも、分からないものは分からない。
だって、そんなのはずっと二人でやってきたことだ。
一緒にいるのも、ご飯作るのも、遊ぶのも、アイスを交換するのも好きじゃないとできないのか。そんなことはないぞ。
ボクはテスト前なんて、一緒に図書館どころかヨシに二十四時間体制で軟禁されるぞ。声を大きくして言おう。それは、まったく楽しくないよ。
そう話したら、あんたたち二人は、お互いに甘えすぎ。とよくわからない事を最後に言われた。
いつか、誰かが間に入ってきたら分かるんじゃないかな、と。
甘いも何もあいつほどボクに厳しい人類いないと思うぞ。砂漠の気候の方がまだ穏やかだ。
うがー、ちんぷんかんぷん全然わっかないオホーツク。
結局、お互いを好きになった結果どうするんだ?
一緒に老衰するのか?結婚して子供を産むのか?
友達はそんなに遠くの事まで難しく考えなくてもよいと言う。
でも、好きってそういう事じゃないのかな、ずっと一緒にいたいと思う事じゃないかな、違うの?
ボクは別に、一緒に老衰したりするのは構わないし。ヨシの子供だったら産んでもいいと思う。
あー、でも、その途中のあれやそれは死ぬほど恥ずかしいだろうからちょっと嫌かな。
でもそれは、ムイミナカテーというやつで、ボクは女の子である前にアスリートだ。
競技生活が終わるまで、そんなのできない。立ち止まれない。だから、子供が産めたとしても十五年~二十年先の話で、それは十五のボクにすると永遠にも等しい。
そして、その時間をヨシに強いてしまうのは駄目。絶対に駄目。
家族を、当たり前の家庭を早く持つべきだから。お互いがお互いをいつくしめる、間違ってない正しい家族があいつには必要なんだ。
それは、ボクの一番の願いである。
だから別の誰かが、ヨシを好きでいてくれるのは、友達が言うのとは逆にボクは嬉しいと思うはずだ。
別の誰か。
そう例えば。
ぐるぐる回って発熱しだした頭を止めて、ぼけーっと、目の前の景色を見る。
短くそろえられた水色の髪は、この季節いかにも涼しげ。
丸みを帯びたパーツで構成された横顔は誰もが親しみを覚えてしまう。
口元はふんわりという単語が似合う笑みで優しく弧を描いている。
細身ですらりとした肉付きは、彼女の真っ直ぐな人間性を表しているようで好ましい。
蓬ちゃん。女の子らしい女の子。こうあれたらボクの人生ちがったろうなとおもうほどのきらきら星みたいな子。
彼女とすごしていくうちに、ヨシの心の険は取れていった。ささくれたものはゆっくり穏やかになっていった。
ボクらは一緒にいたし、お互いを精一杯支えたつもりだが、根本からなにかが変わると言う事はなかった。
だから、ボクは彼女を尊敬している。
今は、昨日よりそこそこ日差しの緩い縁側で、さらさらと豊かな黒髪に櫛を当てている。
氷細工を思わせる玲瓏のヒトカタ。夏の日差しに融けそうなほど肌は白い。長い睫毛。薄墨の眉。熟した林檎のように艶やかに色づいた唇。まるで気品が形を得たような華奢な首筋。
ひとつひとつがどこをとっても繊細な造形をしている。
でも、目つきだけは悪いかな、でも今はくすぐったそうに伏せられているので、これで完全となるわけだ。
縁側に腰かけて、風呂場に連れ込まれた猫のように、大人しくされるがままになっている。
ほら、こんなにも自然だから、別に、肩肘張ることなんてないのに。
一人では古びた家にはとても似つかわしくない深窓の姫君ではあるが、二人でいるだけで、ごく当たり前に鄙びた風景に調和している。
ボクはそのふたりの空気のそばであおむけに寝っころがりながら、さっきからつらつらとあれこれ取りとめのない事を考えていた。
さらさら
腰まで届く天鵞絨みたいな光沢のある長い髪を梳る。
壊れ物を扱うように、丁寧に丁寧に。それでいて鮮やかな手先。
見ているだけでこころ楽しい。
さらさら
絵画の一枚みたいで、そのまま、美術館にでも置いておけばと思う。
頬を真っ赤にして、穏やかな顔しちゃって、まぁ可愛い。
時折崩れそうになる、背筋を伸ばすのに四苦八苦しているのもなんともおかしい。
見えないはずの幸せ光線を体中から出しているのが分かる。
あとそれと家の別の一角、すれ違っただけで殺されるんじゃないかと思うような眼をしている人がいるのは気にしない。奥歯ガタガタ言わせながら、家が軋みそうなほどの貧乏ゆすり。殺気を体中から出している。凄い温度差だ。けんのん、けんのん。
夏なのにあっちだけシベリアのブリザードが出張中みたいだから、なるべく見ないようにしようと思う。
それはともかくとして、こういうのが『好き』という関係なんだなぁと思う。
実際に、ボクよりも近くに他の女の子がいるわけだが、羨ましいなぁとおもうのは、どちらかというとヨシに対してであって、髪をとかしてもらっている方のポジションに入りたいと思う。
手を挙げて、つぎやってーと蓬ちゃんにお願いしてみることにした。
デスゲームに巻き込まれた事はヨシには言えないが、本当は奥歯が砕けるほどの悔しさはある。けれど、このふたりをそんななか助けられない状態でいる事に比べるとわりとどうでもよい。
本日も晴天なり。世は全てこともなし。
順番迷いましたが、ヨシがまだへばっているので、時系列的にこっちが先で。
戦後処理は次回です。
ずっとやりたかった貴志雛姫視点回。雛姫が出てきた時、正直いらなかったと感想を頂き、あいやーとなったことがあります。
一番の理由はワトソンポジションの必要性だったんですが、なぜそれが雛姫というキャラだったのかというは、ちょこちょこ伝わっていたら嬉しいです。
雛姫視点のガールズトーク編も近いうちに出来たらと思います。今回は最初という事で文体変化はほどほどにしましたが、どうなるやらです。




