誰がために
ありゃー二次創作あかんなってしまったみたいで。パロディもどんどん制限はいるのでしょうか。
「待って下さい!」
二十町(『戦国online』は太閤検地ベース)ほども走っただろうか。
村の出口あたりで蓬がようやく我に返る。
「だ、駄目です。もどりませんと」
俺は無視して、手を引っ張りつづけようとした。
梃子でも動きませんとでもいうように、根を生やしたみたいに踏ん張る。
こうなると、俺が嫁に腕力で勝てるわけがない。日夜、野山相手に戦っている人とは、生き物としてのスペックが違う。
「二人でもう一度、加勢致しましょう」
「あのさ、涙目でプルプル震えてた奴が何を迷い言を」
となれば、口で勝つしかないわけで。
「己の、しゅ、修練の足りなさに、猛省しておりましゅ」
真っ赤になって噛んだ。あれだけカッコいい登場の仕方をしたのに、コノザマですからね。
「蓬なら分かっているだろ。戦場に立つ覚悟が決まっていない奴と、立つだけの力がない奴が雁首そろえてなにができる」
戦場に立つ上で役者不足は彼女本人が一番分かっている。士気が折れた味方というものは敵よりなお悪い。
「ええ、少しもないかもしれません、それでも行かなくてはいけないんです」
こうして強すぎる口調の時は、蓬はカンはカンでも直観というよりは直感的なもので理屈や根拠はない。それでいて驚くほど、精度が高いので一定の信頼は置いている。
デスゲーム後の俺を否定しなかったのも、彼女独特の感性からの脊椎反射みたいのものだったしな。
でも、そんな蓬を俺が知っているように、蓬も俺を知っている。
過程や根拠をすっとばした結論なんてものを、こういった場面では理屈屋の俺は受け入れない事を、なんとなく覚えているのだろう。
言葉を発する側から、しゅんとしていく様子で分かる。
うーん、どうにも一回り年下の口達者な幼児を言いくるめている様な、罪悪感で心が満ち満ちていく。
「だから、我儘言うな」
おかげで、説得のつもりが、トーンダウンして感想というかただの、文句になってしまった。
その言葉に、一人前にムッとしたらしい。ぷくーと、頬を膨らます。
「どうせ我儘ですよ。だから、絶対譲りません」
「頑固者」
「はい、そうですがなにか」
見事に居直られた。ため息をつく。
「そういう所が可愛くない」
「そうですね。ただ、そういうところ以外は、私の大好きな人は可愛いと褒めてくれますので、一つくらいあってもいいと思います」
反撃で、グサリといかれた。
言った奴責任もって出てこいとセルフ突っ込み。
「あのな、足手まといと言っていただろ。あの場にいる事を貴志が望んでいない」
あいつの左右の足を二人揃って引っ張るだけだ。
「それは違います。居て欲しいに決まっているじゃないですか。人は苦しい時、辛い時に一人きりでいられる生き物ではないです」
じっと、俺の目の奥まで見据える。まるで、世界で一人だったころの誰かを知っていたように。
「嘉様このままで良いと思っているのですか」
いい訳がない。でも、今の俺は蓬を守るためにという言い訳だけで動かかなければいけない。心臓には鉄の棘が刺さったままで。
一人だったの俺の手を引いてくれた初めての友達。一人ぼっちがびっくりするほど苦手な奴。一人にして背を向けた不実。
「それは絶対ちがいますよね。だって、嘉様は流人様を、あ、愛してらっしゃるんでしょう」
思わずヘッドスライディングをしてしまった。ずささささ。
当事者その二も同じリアクションをするのは間違いない。
「ちがーーう!どこをどうしたらそんなになったった」
愛ってなに、どういう字でどういう意味?。栄養価はいったいいくつくらい?
知らない間に大いなる誤解が生まれていた。
「乙女のひらめきですけど」
「はい、ここで残念なおしらせがあります。蓬さんの乙女回路は重大な故障が見受けられます」
でっかい修理が必要です。
あと、思わず乗ってしまったが、この子から素面ではとても言えないような単語が次々出てくるんですが。ロマンティック→とまらないタイプか。
今後にすごい嫌な不安を覚えるのはなぜだろう。
「え、違いましたか?」
「違います」
危惧の通り想像力が人より豊かで、それが斜め上に突き進むタイプやで。
そもそも、物心ついてからずっと一緒だったから、もはや自分の分身というか延長線上の一部という感覚であってそういう対象には決してなりえない。俺はナルシストではないからな。
「あのなぁ、例え戻ったとして今の俺になにができる」
「守ってあげて下さい」
「でも、今の俺はこうして誰かの手を引くことが精いっぱいなんだ」
力がないなりの処世術。いまはこれが精一杯。だから、殺されたって離してやるものか。
「なら、手を引いてあげて下さい」
こうして、君の手を引いているのに?俺が手を引かない事を君は望むのか?君の手を離せと言うのか?
どうしてだろう。少なくないショックを受けた。
だが、強い瞳でこう告げる。
「嘉様の手は二本あります。もう片方の手は空いています。優しく引っ張ってあげて下さい」
心意気の話だとは思うが、なんだろうこの砂糖菓子みたいな発想の嫁は。
「わたしも頑張ります。半人前のわたし達でも、二人なら一人前です。何だってできます」
それはあまりにも異常。時というシロップで薄められていない原液のままの恐怖に対して、なぜ蓬は強くあれるのか。
「なんでそこまで拘るんだ。震えるほど怖かったんだろ」
「此処で引いたら、嘉様はきっと自分を許せませんから」
誰かのために。俺のためにと、当たり前に言う彼女。
始まりの感情を思い出す。それは俺の人生にはなかったもの。冷笑し、蔑みすらしたもの。
「あなたの心も守るのも、私の役割です」
尊いものだと、気付かせてくれた誰だったか。穢れなき魂の光に憧れ。彼女の隣で、ぎこちなくそれを真似てみたくなったのはいつだったか。
「それが夫婦ですから」
ありがとうといつか伝えたい。一緒に歩いくことを選んでくれた君に。
それにしても、いつでも愛でていたいくらい愛らしいのに、男前だな。うちの嫁さん。
「卑怯だぞ、男という生き物は度し難いんだ。どうやっても、好きな子のおねだりには逆らえるわけがないからな」
それがたとえどんな無茶であろうとも。大切な物のために意地を張ってこそ男の子だろう。
両手を挙げる。動物的に言うとお腹を見せるアレだ。
だから、その時、嫁が『男?』となって『ああ、そういえばそんな設定ありましたね』という表情変化をしたのは気にならなかった。もう一度言おう気にならなかった。
さっき女の子だって、男の子守りたいって言ってたのに、ヒドス。
「では、急ぎますので、これ、重いので持って下さい」
垂直に立たせた武器を俺に差し出す。
女性の荷物を持つ義務すら忘れていた。男の尊厳は、日々擦り減っているが、甲斐性だけは失いたくはないものである。
言われるままに、トンデモ武装・物干しざおっぽい何かを受け取る。
「うわっ、重っ!」
こんなの、振り回していたのか、俺の嫁。洗濯物干している時に、落っことしたら、足砕けるぞ。
両手で抱きかかえるように支えようとするが、耐え切れずよろける。
蓬が、そんな俺を支えるために腰に手を添える。ううっ、決まりが悪いにも程がある。
「わ、悪い――って、あれ?」
なぜかついでとばかりに両足も抱えられて、ひょいと持ち上げられた。
「よ、蓬さんなんばしよっとんね」
動揺して言葉遣いがおかしくなってしまった。
これは、噂に聞く所の、巷間に流布する例のアレ。
ひょっとしなくとも伝説のお姫様だっこという奴では。
「嘉様」
眉を寄せ、真剣な表情。普段はタレ目がちな癒し系の瞳が、涼しげな稜線を描く。
やだ、ドキドキする。
なんか、息がかかるほどの距離でそんな目で見つめられたら、思わず目を伏せるしかないじゃないです蓬さん。
「は、はい。なんでしょう」
少し声が裏返る。
ちらりと横目でみると柔らかそうな唇が目に入る、思う存分指でぷにぷにしたいなぁ、とか不埒な事を考える脳回路しか起動しない。
「さあ、流人様の所まで、急ぎますよ!」
だから、拒否するタイミングを逸してしまった。
「え?」
この態勢で?お姫様だっこで?なにそれ、どんなイジメ?
奴に見られたら間違いなく墓の下まで、持ちネタにされるだろう。
走り出したら、止まらないのは俺の嫁。精神的にも、物理的にも一直線ゆるぎなく。
「ひっ、やめてーーっ!」
知らない少女の可憐な悲鳴がした。俺の物でないと信じたい。懇願は当然スルーされる。
この日、俺の黒歴史が生まれました。
彼女の我儘となるか、強さとなるか、紙一重。もう少しは印象良くしたいな。




