儚くも失われしもの
いつの間にやら、お気に入り100件超えたみたいで、大感謝です。
俺に分かるのは、腹が据わった時のこいつには何を言っても無駄な事。
こいつの歴史を紐解いてみると、骨折しても、試合に出続けたとか、点滴受けながら受験を突破したとか。無茶な武勇伝には事欠かない。
どんな困難も、石のような意思の元、ねじ伏せてきた。寧ろ喜んで艱難辛苦にぶつかっていくように思えた。
きっと、ドMなのだろう。
大概その無茶に巻き込まれ、被害をこうむる、もしくは後片づけをするのが俺なのが納得いかない。
とまぁ、いまは発生理由不明のこの嵐をどう乗り切るかなんだが。戦力差を分析してみる。
貴志ことルートの身に付けた金属製の手甲と脚絆は攻防一体の防具である。
無銘の品だが、PCの鍛冶職人に作ってもらったワンオフの特注品である。
足元は足袋というよりは牛皮の分厚いシューズでどっしりと根を張ったみたいに構えている。
真紅の着流しの着物、金で装飾された『紅梅』は並みの鎧よりも高い貫通防御力を持っている。合戦の最多戦果の賞品である。十等級で表されるレア度の上から四つ目。古遺物級。
白兵戦用の衣系ではこれ以上の物は殆ど聞かない、紛れもない逸品である。
というか他の装飾品のどれ一つとっても、俺の防具より性能が高いんだよな。
貴志のメインプレイスタイルはサッカーなので基本的な戦闘系技能は一枠のみである。
スキル『甲冑組手術』
『拳法』『組打ち』の上位スキルである。
特徴は武器がなくても戦闘力があまり落ちない事、継戦能力が高い事。相手の動きを制限する技が多数ある事。
反面リーチや一撃の威力には欠けるが、それでも今の俺にはお釣りがくる。
一番の真骨頂は相手の防具を利用した戦法なのだが、はじめから紙装甲の俺には関係ないことだ。
というか、弱点が分かっても突けるほどの能力など初めからない。数字は嘘をつかないのである。
どうもって負けが決まっている。
事前準備の時間があればいくらでもやりようもあるのだが、この場でどんな手を打ってもむなしく蹂躙されるだけでしかない。
そんなことこいつにも分かっているだけだ。
じゃあ、なんのために、と考えるに至り思案を打ち切る。
「はっ!」
気合い一閃。貴志が攻撃を開始したからだ。
ご丁寧にもさっきと同じコースに右拳がとんでくる。
仕切り直しってわけだ。
なんとなく、こいつの性格から、そうするのではと思っていたので俺は、手の甲で勢いを受け流し、貴志の右側に入れ替わる様に体を入れた。
そのまま体ごと腰のあたりにぶつかって、相手の勢いを利用しひっくり返そうとする。
貴志の勢いは止まらず、成功したかのように思えたのだが。不安定な態勢のまま体の軸を作り直しやがったようで、身を縮める様に更に進行方向に横向きの力を加え体を半回転。
反対の左腕で痛烈な肘打ちを繰り出してきた。
金属部分からはずれた所だったので、多少の威力は落ちたが、良く焼いた煉瓦で殴られたような衝撃が俺の肩を襲う。
「……ぐっ」
本分は学生で部活動スキーで、あとひとつ肩書きを持つこいつのゲームの時間は限られる。
当然、ゲームのトッププレーヤーにはステータスで何歩も譲る。
しかしながら、VRMMOの特性として数字は嘘をつかないが、工夫次第でカバーする事は出来るのだ。
こいつの場合その差異をひっくり返すのは肉体的なポテンシャル。
能力以上にこいつそのものが強いのである。
運動神経が並みではないのだ。
卓越した反射神経、優れたバランス感覚。
速筋も遅筋もバランスよくあり、誰よりも早く長く走れるそれはともすれば同じくらいの黄金の価値に匹敵するだろう。
そして、脳裏に描いたイメージ通りに体を動かす事が出来る人間はどれほどいるだろうか。
俺は一人だけ知っている。目の前のこいつだ。
あらゆるアスリートたちが喉から手が出るほど欲しいと思う稀有な才能の塊なのである。
だから、奇襲に失敗した俺は後はもうサンドバックになるだけだった。
貴志はふたりの戦力差からか、得意の足技も使わず左右の拳を使う事にこだわった。リズミカルに連撃を繰り出し、俺の腕や肩やらを打っていく。
だが、両手だの単純な攻撃でも俺は翻弄されて、殴られた所は重く熱を持っていく。
徐々に俺の動きは油を差し忘れた機械のように精度を欠いていった。
じり貧になっていくだけと、やけくそ気味で繰り出した右フックは、先程俺がやろうとした事をそっくり返されるように、受けとめられ、そのまま投げ飛ばされた。
二日連続、通算四度目の空中浮遊である。
俺の胸の上に座り込み、ジッとこちらの眼を見つめる。
両脚は、脇腹をロックするのではなく俺の肩を跨ぐように伸ばされている。
マウントポジションになって、たこ殴りにするつもりはないようだ。
「ボクの勝ちだね」
ひどくつまらなそうにそう言った。
勝手に仕掛けておいて、なんだその態度は、とムッときたので、腫れて鉛のように重くなった腕の最後の力を振り絞って反撃に出る。
『紅梅』を残る力で目一杯で捲りあげた。
「にぎゃああああ!!!」
甲高い悲鳴が響き渡る。
着流しの下。下帯の裏から、白い太ももが見えた。かじると甘い歯ごたえがありそうなそれは『紅梅』の赤と対になるその白さが何とも艶めかしい。
そして、いよいよ、その両足の付け根まで、見えようかという所で、全力で布地は押さえつけられ、緞帳が降りるように隠された。
「ちっ」
反射神経が鋭すぎる。思わず俺は舌打ちをした。
「ななな、なんてことするんだよ!」
今は来ている物よりも真っ赤に染まった顔で、両足と両手で引き絞る様に股間を抑えている。その勢いで、俺の胸が圧迫される。
「スカートめくり」
「もう、ヨシだって知っているだろ!ボクらパンツはいてないんだぞ!」
そうなんです。言及したくなくてスルーしていましたが、デスゲーム始まってからパンツはいてないんです。
パンツなる聖なる存在が降臨為されたは大正ロマン全盛期で、時代考証から考えると限りなくブラックだったんだけど、まさか無くしてくるなんていう暴挙にでるとは思いもよらなかった。
というわけで、俺たちはいまパンツがない事を強いられているんだ。
この事件の裏にはきっと変態がいると推察されるのである。
ちなみに、これはこれでこれもゆゆしき問題なので、今日何かしら代用品を買いに行こうと思ったのだが、デートでパンツを買う勇気がなかった俺を笑ってくれ。
というわけで、サッカー部なのに得意の蹴りを出さないのは、こいつの職業意識ではない。ガチ喧嘩になるとよくボールに見立てられた俺が云うのだから間違いない。
単に繰り出せなかっただけなのである。
「大体、中学入った頃まで、一緒に風呂入ってたじゃねーか、いまさら何を恥ずかしがってるんだ、毛が生えたからか?」
「ち、違うもん、ボクまだ生えてないもん!」
「へ、へーぇ」
ちょっと引いた。
「うわああああっ、今の無し!」
勢いで言ってしまった失言で顔色が真っ赤を通り越して、焼けた鉄みたいになっている。
「なに、お前生えてないんだ(笑)」
あとから、思えばこの一言が余計だった。
「うっ、うううう」
目に大粒の涙をためて、河豚のように頬を膨らませる。
「ヨシをコロして、ボクもシヌ」
涙の奥には赤い光がともっていた。
「待て話せばわか―――にぎゃああああ!!」
さっきの貴志とそっくりな悲鳴が響き渡った。
長くなったので分割、我ながら最低のヒキです。




