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蝙蝠の世界へようこそ・後(2)


露出狂少女は渋々と言った表情でどこからともなく黒いドレスを取り出し、ぶら下がったままの姿勢で器用に服を着始めた。

鉄棒をの上をクルリと一回転し

フワリと地面に舞い降りて

そのままスタスタと座り込みじーっと顔を覗き込んできた。

綺麗な女の子にじっと見詰められるのは悪い気はしないがそれよりも早く助けてくれないかな?このままだと頚の骨が変な風に曲がってしまう。



「……さかさま好き?」


 ……どうやら彼女はオレがこの変な恰好を好き好んでやっていると勘違いしているらしい


「……いや、ちょっと助けてくれ」


手足をヒョコヒョコと動かして身動きがとれないことアピールすると、ようやくオレが岩の間に嵌まって動けないでいる事を察してくれたようだ。この謎の露出狂少女の手を借りてどうにか抜け出す事に成功した。………すっぽ抜けた結果、一回転して頭を激しく打ち付けて悶絶したのは無かったことにしておく。


ようやく自由の身になったオレは数回の深呼吸の後、自分自身に落ち着け落ち着けと言い聞かせどうにか平常心を取り戻したところで彼女に質問をぶつけて見ることにした。


「……で、君は何なんだよ?つか此処は何処なのさ!!??」


……落ち着いたつもりだったが、どうやらそうでもなかったらしい。 実際にオレの口から出た言葉は思っていたのに反して相手に怒鳴りつけるような、とにかく余裕のカケラもない乱暴な言葉だった。しかし、そんないいようの無い不安に苛まれるオレに彼女はゆっくりとした口調で、言い聞かせるように言葉を紡いだ。


「わたしのなまえは……ファイ」


そして、ひとくぎり間を空けて



「ここは異世界」



彼女はハッキリとそう告げた。


どうやら此処はオレらの世界と全く異なる理の上に成り立つ異世界であるらしい

この世界では、様々な動物が闊歩し

上位種という獣から人への変身能力を持つ種族が統率し支配しているのだそうだ


元から在住する人間というものは存在せず、稀に人間界から落ちて来る落人という人が数人居るばかりらしい。

本来なら最近は数年に一人ぐらいしか来なかったはずの落人が、晴れ時々落人と言われるほど過去に例を見ない頻度でやって来るそうで、なかなかの人数が増えてきているとのこと。


因みにここ最近の頻発期に今まで落ちてきた落人は殆どが女性であり男性で落ちてきたのは彼女が知るところオレが初めてらしい。


凄いね!!オレ、快挙じゃん!!………全ッ然嬉しくないけどな!!


つか、なんという中二設定、どこのゲームの世界だよ!!ここは獣人だらけの異世界です、なんてあまりに非現実的で馬鹿らしい宣告に思わず頭を抱え込んだ。

普通ならそんな馬鹿げた話あるかと一笑に付す所だろう。

しかし、オレは先程彼女がまさに蝙蝠から人になるその瞬間をこの目で確認ばかりである。彼女の話を否定するなら彼女の存在自体どう説明をつけろと?


「ハハ、そうだ……オレは夢を見てるんだ」


ファイと名乗った少女は何を思ったのか………突然腕にガブリと噛み付いてきた。


「いだだだっ!!」


ぎちぎちと歯が皮膚に食い込み

痛みのあまり悲鳴を上げると

ファイは素早く下がり口を拭った。

想像以上の力でしっかりと噛まれた腕に紅く、くっきりと歯形が残りジンジンと痛んだ。


「……夢じゃない」


「………みたいね」


どうやら少々現実逃避気味だったオレにこれがハッキリと現実であると認識させてくれたみたいだが……もう少し別の方法はなかったのか?


(はぁ………嘆いていても仕方ないか)


そんな突拍子もない宣告を受けてはいはいそうですかと納得できるわけでは無いが

いつまでもこんな場所に佇んでウジウジしていても状況が良くなる訳でもない。

もっと落ち着ける所で、詳しく話を聞く方が遥かに生産的だ。

もしかすると元の世界に帰る方法も聞けるかもしれない。


「……名前」


そういえばあまりにも衝撃的な出来事の連続で頭が一杯で

こっちの名前を名乗るのをすっかり忘れていた。


「あぁ、オレの名前は沖野良平……宜しくな」


そう名前を名乗ると


「……りょーへー、りょーへ……」


ファイはなにやらオレの名前を繰り返したかと思うと、気持ち顔を少し赤らめて


「……よろしく」


そう言って、はにかんだ笑いをうかべた。



その後、なんやかんやでファイの住み処に案内してもらう事になった。


長く複雑に入り組んだ洞窟の中を歩く事数十分、道中で無駄に多い休憩時間を経て、洞窟を抜けると…………


山のようにそびえ立つ巨大な城の麓に出た。


思わず唖然として見上げるオレ


でかい、でかい、


デカすぎてこの位置だと全体が見渡せない、この城がファイの住み処だという。

洞窟の中の住居とか、小さな小屋や家を想像していたけど。

もしかしてファイって結構良いところのお嬢さんなのだろか?


そんな風にじっと暫く眺めていると城の方から何か茶色い物体が飛んで来るのが見えた。


『ねーちゃん!!』


声を上げてコチラに近付く蝙蝠。

その蝙蝠はハタハタと突っ込んできたかと思うとパァッと光り

一人の青年が現れた


美青年

美少年が成長したらこうなるよという例を絵に書いて表したような、まさに美青年だった。

整った顔立ちに少し癖のかかった赤毛

ルビーのように紅い瞳、

背は超身長という訳ではないが

それでもオレよりも数cm程目線が高い

年齢はオレよりも少し年上っぽく見えるが……外人(?)は見た目よりも老けて見えるらしいからよう分からん、イケメンは滅べば良いのに…………ああ本音が……


「まったく……なんの前置きも無く勝手に出掛けないでくれよなぁ……」


「ごめん」


どうやらファイと親しい間柄の人物らしい。おそらく兄弟なのだろう……全然顔は似てないけどね。


(しかし、ねーちゃんって……)


見た目に似合わずガキっぽい言葉遣いに

それに二人を見較べてみると明らかにファイの方が年下に見えるのだが……

やっぱ見た目に反して結構若いのか?


「ん、誰だ?ソイツ」


ようやくコチラの存在に気づいた美青年はなんだか物凄くウザったそうな顔を隠そうともせずにコチラに向けてきた。

するとファイがオレの紹介を……


「りょーへー、今日からいっしょにすむ」


(っと、え?)

いつの間にか勝手に話が進んでいた。

まだそんなこと決めてないと言おうと口を開こうとして。


「はぁ!!!???」


コッチが声を上げる前に向こうの方から抗議の声を上げてくれた。


「なんで、こんな得体の知れない奴をうちで預からなきゃならないんだ!!」


どうやら、


「りょーへーは落人」


「は?落人?どうみてもコイツ男だろ!」


「落人がみんな女とは限らない」


へ?そうなの?とまぬけた顔。どうやら落人は女だけだと思い込んでいたっぽい。


「……だとしても、こんな奴、そこら辺に放っておけばいいだろうが!!」


男にかける情けなんて一切無いと

いっそ清々しい程その背中が語っていた。


すると、ファイの眉間に深く皺を寄せて


「ここのルール………忘れた?」


怒気を含んだ声で弟(?)を諌めた。少々オイタが過ぎたようだ。ファイの怒り顔は元の暗い雰囲気とあいまってかなり恐ろしく。さっきまで、口達者だった弟君は途端、口を閉ざし黙り込んでしまった。


沈黙すること数分、凹んでいた彼は

突如顔を上げキッとコチラを睨みつけて


「お、俺は認めた訳じゃ無いからな!!!」


獣化して城の中に飛び立ってしまった。

いや、別に認めて貰わなくても良いんだけどなぁ…………ああ、腹が痛い




何にせよ暫くはここに住むしかない、

城の中を歩くついでに案内してくれる事になった。

食堂や、図書館(室)、お手伝いさんの部屋等を順に説明してくれるファイ。

城には他にも蝙蝠の獣人が多く居たが幸いな事にここの住人はあまり蝙蝠の姿に変身しないみたいだ。


これならなんとかやっていけるかも……と感じながら案内が続き


「そこはちいさきものたちのへや、今は中で寝てる」


廊下の突き当たりの一際大きな扉に指を指してファイが言った。

“ちいさきもの”とはいったい何なのなろうか?

興味で扉を開き、中を覗いてみると

部屋の中には一面のこうもr……

オレは素早く扉を閉めた


「いつもは城の中をとびまわってる」


へーそうなんだ


「…………帰って良い?」


「……何処へ?」


「ここから近い別の集落は無いのか?、


「……ここから近い所でも歩いて最低でも2週間は掛かる……」


何の準備も無く歩いて行ける距離ではないね、いやそもそも…………八方塞がり、選択肢が無いことは判っている……でも


「こんな所に居たら元の世界に戻るまでオレの腹がもたない!!」


蝙蝠と遭遇する頻度が少ないないのなら

まだ少しの間は堪えられると思ったが、

あんなに大量の蝙蝠が城中に飛び回られたらたまったもんじゃない!!!

すると、今の発言に何か問題があったのか、キョトンとした顔で彼女はこう告げた。


「……もどれないよ?」


「は?」


あれ、言ってなかったっけ?なんて表情を浮かべて後を続ける


「今まで元の世界に戻れた落人は一人も居ない」


「落人のめんどうは、ほごした獣人族がする、そしてに落人に仕事を渡す」


仕事って?


「落人のさいしょのしごとはだいたいは、ちいさきもののせわ」


【ちいさきもの】その言葉を聞き、先程見た蝙蝠がいっぱいの部屋を思い出した。つまり、あの部屋に居た蝙蝠どもの世話をこれから俺がしなけらばならないと?あの、コウモリたちを?元の世界に帰れないことを嘆く暇もなく、これから与えられる仕事の内容を聞き、顔が青くなり冷や汗が止まらなくなった。そんな俺の様子に気づく様子もなく笑顔で振り返った彼女はこう告げた。


「がんばろう、しょーへー」


ニッコリと微笑み手を差し出す彼女の姿が……まるで悪魔の手先に見えた。かくしてオレの新天地での新たな生活が始まったのである。








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