第1の乗り手、女騎士コンスタンス⑦
コンスタンスはプライドが高い。
それにより他者と衝突する事も珍しくない程度には、プライドが高い。
何に対するプライドか……それは本人がそうであるように、名高い父がそうであるように、騎士である事。
騎士とはコンスタンスにとって幼少の頃からの憧れであり、重責。
誉高き騎士アドレイの子供であるからには、相応しい人間でなくてはならない。
だがそれは、少なくとも周囲から求められるそれは騎士になる事ではなかった。
なかったのだが、コンスタンスは騎士になる事こそ相応しい人間になる為の方法だと考えた。
それは本人の気質……つまりは跳ねっ返りで、プライドが高く、周囲と対立しがちな面を鑑みて。
気品ある婦女子としての振る舞いは望むべくもなく、両親が求める振る舞いが出来ずとも、安心させられる立身の方法こそ騎士。
それに早めに気付いた事は、幸運などではなくコンスタンスが才媛であったからだろう。
そして偉大な父に習い、倣い……他の騎士と同じように従者、従騎士へ。
それらを経ても、コンスタンスが変わる事はない。
騎士こそが自らが歩むべき唯一の道であると固く信じ、その信じる力は騎士を目指す過程のあらゆる障害を乗り越えさせた。
女が騎士を目指すのか、プライドの高い跳ね返り、鉄拳アドレイの名を汚す娘……どんな困難よりも、それらの言葉の方がコンスタンスを打ちのめしたからだ。
「所詮、その程度……」
コンスタンスは木にもたれ掛かりながら自嘲する。
ひしゃげた兜を足下に転がして、額からは血を流す。
よく晴れた日である筈なのに、この森は鬱蒼として陰鬱。
胸いっぱいに空気を吸い込んでも、草木の清涼さよりも泥臭さの方が鼻につく。
気分が良いとは言えない状況だった。
「騎士ならば、仲間を守るべきだ。ボクは正しい行いをしている。そうだ……」
わざわざ口にするのは、そう思い込みたいからだ。
コンスタンス自身、自覚的にそれを行なっている。
ならばそれらで覆い隠さない本心は?
「はっ、馬鹿だなボクは。騎士道に酔って、英雄願望に抗えなかった」
ポツリとそう溢したのは、近付く足音を聞いたから。
それが味方でない事を、コンスタンスは分かっていた。
手負いの味方を逃し、殿を務めたコンスタンスの周囲には幾つかの死体が敵味方入り混じって転がっている。
それらの仲間入りをする未来も、それすら出来ずに名誉を失う事すら、遠い出来事ではなくなりつつあった。
「おいおい、騎士サマだぜ。ツイてんな」
「しかも手負い、こりゃ楽勝じゃねぇの」
「あ? もしかしてコイツ女か? 女顔の騎士かと思ったけどよ、女じゃねぇか?」
帝国兵……徴兵されただけの男達は、周囲に転がる友軍兵士の死体など目もくれず、互いに顔を見合わせると、コンスタンスへ向けて視線を集中させる。
ギラギラと煮えたぎるような異様な熱は、戦争という積み重なる非日常によって抑圧された生存欲求が、歪んだ形で表出していた。
「ちょっとくらいよ……お楽しみがあっても良いよな?」
「そ、そりゃ……確かに、クソったれの皇帝の為に戦ったなら必要かもしんねぇよな……必要だぜ、これは」
「なぁ騎士サマよぉ、馬だけじゃなくて俺にも乗ってくれや」
「下衆め。貴様ら如き、手負いだろうと容易く屠れる」
そう言うと、コンスタンスは背を預けていた木から離れて数歩前へ。
眉間に皺を寄せた鋭い表情ながら、歩き方としては不恰好な片足を庇う動き。
素人だろうと好機と見做すだろう。
男達はコンスタンスを取り囲むように広がって、質は低いものの十分な殺傷能力を持った武器を構える。
「槍、フレイル、鋤……ふん、棒切れであれ間合いさえ取れば気が大きくなるか」
コンスタンスは殿を務めた。
味方を逃す為、そして……プライドの高さが、助けられる事を良しとしなかった為。
既に手負いの身であり、逃げるにあたり重荷になる事は明らかだった。
もはや己のプライド、騎士として恥じない振る舞い、それらによる自縄自縛の有様。
その末路が血走った目をした敵に囲まれる現在。
コンスタンスは左手に手斧を構え、吠える。
「来いッ! 貴様ら下郎共とは格が違うと、その身に教え込んでやる!」
「頭から血ぃ流してキャンキャン吠えやがる! その口どうやって塞いでやろうか!」
我先にと最初に飛び込んで来た男は、腰だめに槍を構えてコンスタンスを狙う。
リーチの差と精神的、物理的な勢いに任せた突進。
結局のところ、これが1番強いのだ。
「意図の無い攻撃など!」
「うお──っと?」
迫る槍を手斧で逸らし、開いた空手で槍を引き寄せる。
そうすればコンスタンス目の前には、つんのめった男の無防備な首が。
「まずは貴様からだ」
手斧の刃を防具も着けない剥き出しの首に引っ掛けて、グイと持ち上げるように切り裂いた。
吹き出す血が刃を濡らし、鈍る前に振るって払う。
飛び散った血は男達へ降り注ぎ、少しばかりの恐慌を引き起こした。
「な!? コイツ強いぞ!」
「そりゃ騎士なんだから強いだろ!」
「おい、いつの間にアイツ死んだんだ……? 気付いたら、首ブシュッて……へへ、俺やっぱやめようかな」
「なんだ? ようやく実力差に気付いたのか? 呆れ果てた連中だな」
「バカにしやがってクソアマが……こんなのはなぁ! 囲んで殴ればいいんだよ!」
今度は一度に複数人。
長物を構えた敵の接近に、コンスタンスは流石に気を引き締める。
負傷した脚では素早い動きは出来ず、回避などしては立て直す隙は致命的なものになるだろう。
だからこそ、待つ。
姿勢を低く、手斧をどうとでも動かせるように正面に構えて、隙を逃さないよう視線を鋭く、普段よりも眉間に皺を寄せる。
そうして打ち合うこと……何合か。
コンスタンスは巧みに致命打を交わし続け、攻撃は鎧に阻まれる。
時折カウンターを狙いはするも、そもそもの間合いの差と先程見せた手を警戒されて、それも叶わず。
「おらッ! 痛えだろ!」
「萎えっから顔には傷付けんなよ!」
「降参すれば優しくしてやるから……よっと!」
「──ッ!」
焼けるような痛み。
コンスタンスが一層強く顔を顰めたのは、脚に突き刺さった槍のせい。
ここまでは上手い具合に、あるいはただ運良く鎧に阻まれていたものが太腿に深々と。
なまじ可動性と防御の両方を目指したせいで、装甲と装甲の隙間に噛んで抜けない。
引き戻せずに焦る敵兵と、コンスタンスは目が合った。
「愚図めッ! 一手遅い!」
「なんだぁ!?」
コンスタンスは斧を振るって槍を断ち切る。
刺さっていては動けないが、そのままにしていては引き倒される。
判断の速さは暴力を生業とするコンスタンスと、徴募戦力との明確な違い。
槍ひとつでも重大な資産の彼等とでは思い切りの良さが違う。
だが相手は集団。コンスタンスにその一手を取らせた事自体が次の有利へ繋がる。
刺さった槍に振り下ろした手斧は、即座に次の行動には移せない。
その間に振り下ろされたフレイルを、コンスタンスは避ける事は出来なかった。
「大人しく……しろって!」
「受けるしか──っ!?」
選んだのは右腕を犠牲にした防御。
フレイル、その殺傷能力が最大化される先端部の頭部打撃を避ける為、負傷を覚悟し右前腕で最大の一撃を受けた。
当然鳴るのは金属音。
バン、と金属板がひしゃげる音が森に響き、そして密やかにコンスタンスの前腕が折れる。
だがしかし、衝撃に膝を突きつつもコンスタンスは止まらない。
「ぐぅっ……まだだッ!」
コンスタンスは不屈の人である。
故に傷を傷とも思わず、折れた右腕でフレイルを掴んだ。
掴んで、力一杯引き寄せた。
「うぉ──へ、ェ?」
杖代わり、縄代わりにコンスタンスは立ち上がり、フレイル持ちを手繰り寄せて頭に手斧を叩き込む。
痛みも恐怖も感じさせない、生物ならば当然あるそれらを意志の力で抑え込んだ戦闘行動。
痛みに関してはその場を乗り切っただけで、残火のように苛む痛みにコンスタンスは歯を食いしばって唸ってはいるが。
「ぐッううゥゥ……ッ!」
「なんだコイツ……頭おかしいのか?」
「黙らせりゃ頭おかしくても同じだろ!? 殴り続けろ!」
殺到する暴力をコンスタンスは決死で捌き、防ぎ、凌ぎ……受ける。
叩きのめされても諦めず、食いしばって反撃の隙を伺う。
(これが……騎士の戦いだろうか)
コンスタンスは騎士を名誉によって定義している。
故に、それが戦争によって得られるか、はたまた決闘で得られるか、トーナメントでも構わずにそこに名誉があるかを重視する。
暴力、それ自体は騎士であれ平民であれ犯罪者であれ持ち得るもの。そこに特別な価値は無くむしろ悪徳とする。
ならば自らが振るうそれを、コンスタンスはどう割り切るか?
それこそが名誉。
騎士道とは人が持つあらゆる暴力を律するもの。
獣のように、生きる為に振るわれる暴力は粗野であり、快楽の為に振るわれるなどもってのほか。
名誉だ。
名誉こそが人を律し、騎士を特別な存在へと引き上げる。
だが、この戦いにはそれらがない。
騎士ならば、あるいは貴族ならば捕えれば身代金が得られるからと、敗北には死ではなく捕虜という形も存在する。
その際も名誉が守られるよう、ある程度は配慮されるものではあるが。
今はそうではなかった。
目の前の敵はコンスタンスを女と侮り、挙げ句の果てには獣欲の捌け口にしようとしている。
「……誉なき戦いだな。こんなものは、ただの暴力だ」
諦念。
状況にも、己にも。
思わず漏れ出た言葉にコンスタンスの身体は急速に重く、泥中に腰まで使ったように動けなくなる。
(私には分不相応な願いだった、憧れても仕方ないものだった。騎士道はこぼれ落ちて、今この手には暴力しかない)
コンスタンスの視界に垂れ下がる髪は、元の亜麻色を塗り潰すように赤がまとわりつく。
手斧にも、鎧にも、足元も、あちこちに粘着質で黒々とした赤が。
全て、暴力の証。
コンスタンスの誉なき戦いの証だった。
「赤は嫌いなんだ……」
動きを止めたコンスタンスを訝しみ、包囲を狭める男達。
武器を構えて距離を取りつつも、無事に戦利品にあり着こうと異様な熱を昂らせながらにじり寄る。
「この鎧、売ったら幾らになんだ?」
「知らねえよ。1年は遊んで暮らせんじゃねぇの?」
「マジか、女譲るから鎧欲しいかもしんね」
「おい! 1番当てたの俺なんだから最初は俺だからな!」
気が早く戦利品の分配について話し合っていると……不意に森の奥から蹄の音が聞こえた。
地面を打つ音が連続し、徐々に近付く。
方角は王国側、男達は慌てふためいた。
「馬!? やべぇぞこの女の仲間なんじゃ……」
「いや、馬は一頭だ! この音は一頭だけだ! この人数だぞ、そいつも畳んじまえばもっと得だ!」
武器を構え警戒する対象を項垂れるコンスタンスではなく、蹄の音が聞こえる森の向こうへ。
力強く地面を打つ音、4つをひと纏まりとして猛烈な勢いで移動する。
徐々に近付く死の気配に耐えられなくなった男の1人が、堪らずコンスタンスに駆け寄った。
首に腕を回そうと手を伸ばし……
「く、くそ! この女人質にすりゃあ!」
「──コンスタンス様!」
赤が差す。
コンスタンスへと伸ばしていた男の視界は全て赤。
最初は短く密集した赤毛。
次の瞬間には血。
側頭部を突き抜ける槍がコンスタンスへの接触を阻む。
その場の誰もが何が起きたのか……何が乱入したのかを即座に理解出来なかった。
「……ローリー?」
「はい、自分です。助けに来ましたよ」
唖然、呆然。情けなく口すら開けてコンスタンスは驚いた。
助けが来たとて、これだけは無いと思っていた相手。
視界から熱を感じるような赤毛の馬体は逞しく、そこから伸びる少女はコンスタンスがくれてやった鎧に兜に槍を構える。
鮮やかな赤……それが目の前に居て、手を差し伸べている。
コンスタンスは半ば無意識に空いた右手を差し出して、ぐいと力強く引き上げられた。
慣れた動作で鞍に収まり、振り返るローリーの笑顔を見てようやく正気に戻る。
「何故ここに居る!?」
「だから助けに来たって言ったのでありますが!」
と、口論になりかけた頃に男達も現実を受け入れる。
ローリーと鞍上のコンスタンスを取り囲んで武器を構え直した。
「なんだこのバケモン……人か? 馬か?」
「知るかよ! 死体でも持って帰れば金貰えるかも知れねえ!」
「囲んで殴れ! どうせ騎士も手負いだ!」
「ああもう、やめて欲しいのでありますが!」
全方位道を塞がれ、無理に突破するには幾らか危険を飲み込まなくてはならない状況。
ローリーは飛び込んだ後の事は考えていなかったのか、冷や汗を流して顔を強張らせる。
「貴様、どうせ策はないんだろう」
「助けられておいて文句言いますか!?」
「別に文句じゃない。適度に間引いて退路を拓くぞ、右側を頼む……チッ、折れた右腕が痛む。これは文句だが」
コンスタンスは折れた右腕をダラリと下げて、左手に手斧を構えて周囲を睨む。
1対多が2対多に変わっただけの変化。
あとは視点が少し高くなった程度。
それだけである筈なのに、憎まれ口を叩く余裕すら生まれていた。
「掛かれ! このバケモンもガキだ! 全員でやれば!」
「ローリー、今度は怖気付くなよ?」
「分かってますよ! やってやるであります!」
襲い来る全方位同時の攻撃。
コンスタンス単独の時は違う、的が大きくなった事による一度に相手にする人数の増加。
通常ならば圧倒的不利。
だが、この場には騎士が居る。
騎士と馬……それもただの馬ではない。ケンタウロスが居る。
コンスタンスはリーチで劣る手斧を用いて、ローリーの馬体へ殺到する攻撃を弾く。
時折拍車を使って合図を出せば、ローリーは有利な位置へ身体を動かす。
「ローリー貴様、何故助けに来た! 単独という事は命令を無視して来たのだろう!」
「何回聞くのでありますか!? 助けられたならそれで良いでしょうに!」
「気に食わん! 答えられぬ理由でもあるのか!? 来なければボクは死んで貴様はせいせいしただろう! それに命令無視をするような、そのじゃじゃ馬気質は騎士には向かんぞ!」
憎まれ口の叩き合いをしながらもローリーが槍を突き出せば、少女の見た目からは想像出来ない膂力の高さにまともに喰らった兵は身体に穴を開ける羽目に。
「なんだこのバケモン強えぞ!?」
「後ろには手も届かねぇだろうが!」
「馬鹿! 馬だぞ後ろは──!」
背後から、武器を構えて飛び込む兵がひとり。
確かにローリーの手の届く範囲には限りがある。
鞍を着けるには他人の手を借りなければならないのだから、当然後方からの攻撃には手が届かない。
だがケンタウロス、人馬……馬なのだ。
「やめてって──」
馬に近付くにあたり、最も気を付けるべきは後ろ蹴り。
蹄鉄を履いた脚はもはや戦鎚、戦場を力強く駆ける脚力でそれを打ち出すとなれば結果は火を見るよりも明らか。
つまり、馬の背後に立ってはいけなかったのだ。
「──言っているのであります!」
近寄った兵が蹄が迫ると反応するよりも速く、顔面に打ち込まれた蹴りが盛大な破壊をぶち撒ける。
見た目に分かりやすい、圧倒的な膂力の高さ。
身体の大きさ、力の強さ。
それら暴力の基準を満たした存在に、今更ながら動揺が広がった。
「ぐっ……ローリー、あまり暴れるな」
「仕方ないでしょう! ……うわぁ! コンスタンス様、脚!」
「今更気付いたのか? 遅鈍な……」
「えっ大丈夫なのでありますかそれ!?」
「骨には当たっていない。とはいえ落ちないよう脚で挟むしかないんだ。あまり揺らすな」
「無茶言わないで欲しいのでありますが!」
「貴様、ボクが落ちたら何のために来たのか分からんぞ。だから揺らすな」
にじり寄る敵を遠ざけようと、ローリーは槍を振り回す。
元の力が人間離れしているのだ、長大な武器でも風切り音を立てながらあちらへ、こちらへ。
「ひ、ひぃ……」
「こいつ、本物のバケモンだ!」
「ヒトっぽい部分も馬くらい力強えぞ!?」
巻き込まれた兵は側頭部を強かに打ち付けては昏倒か、あるいは死に向かう。
そんな力強い旋風に、コンスタンスは拍車を使いながら抗議の叫び。
「ローリー貴様、槍を振り回すんじゃない! ボクにも当たりそうなんだよ危なっかしい!」
「だって数が多いから!」
「だからと言って槍を振り回す馬鹿が居るか!? 折れるぞ!」
と、言った直後に破断音。
人ひとりを吹き飛ばした直後の事だった。
成人男性を吹き飛ばすその膂力、太い槍を折ってしまうその膂力。
恐るべきものではあるが、だからこそ武器を失った今こそ勝機と考えた蛮勇の持ち主がローリーへ槍を突き出し……掴まれた。
「嘘だろ──!?」
「わっ! コンスタンス様見ました!? 槍掴めちゃいましたよ!?」
「見せびらかす前に振り回すでも良いから何かしろ!」
「振り回すなって言ったり、振り回せって言ったり訳分からないのでありますが!」
「うお、おっおっ……!?」
ローリーは掴み取った槍を抱えて、左右でもなく上方へ持ち上げる。
釣りでもするように振り上げて、男ひとりが宙を舞う。
「それで! まだ何故ボクを助けたのか言っていないが!?」
「自分でもよく分からないのであります! でもコンスタンス様を見捨ててせいせいする事は絶対ない!」
奪った槍を代わりに振るい、ローリーは戦闘再開。
ここまで暴れればもう、ローリーを侮る者は居ない。
むしろ実力以上に恐れられて、前進の歩みが緩やかに逃走へと変わる程。
そんな変化を、コンスタンスは見逃さない。
拍車を掛けて、鞍を掴んで叫ぶ。
「今だッ! 駆けろローリー!」
「──はい!」
もはや戦意を失った兵と、それらが構える下を向いた武器など恐れるものではない。
ローリーの馬体があらゆる障害を突き飛ばし、森の景色は急速に後方へと送られる。
「コンスタンス様は、自分に良くしてくれました。そのお礼をまだ言っていない!」
「っ……違う、ボクはお前を見下して安心したいだけなんだよ! お前が言うような人間じゃない!」
「そうでしょうね! コンスタンス様は嫌な事ばっかり言いますし!」
「なんだと!?」
「でもこの鎧と兜をくれました! 槍はごめんなさい!」
ローリーは森を抜け、草原を駆ける。
帰るべき方向へ鼻先を向けて、焦燥ではなく開放に突き動かされ、走る。
「あとは、その……自分がなりたいと思う騎士なら、コンスタンス様を見捨てない。そう思ったから……」
ローリーの恥ずかしげな吐露に、鞍上で揺れるコンスタンスは微かに笑う。
思わず溢れた笑みは、自業自縛に陥った自分と同じ考えだったから。
その考えは同じであるのにこうも結果が違うものかと、おかしさから笑う。
走っている最中のローリーには見られないだろうと、安心して。
「そうだな……それは、きっと正しい」
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