ざ・ガールズトーク
研修は入城式と同じ広間が用いられた。
普段は何も置かれてないピカピカのホールの床には、研修者の人数に応じた机が並べられている。特に席の指定はないらしく、ミシェルはディーナと共に、入り口から程近い前の方の席を陣取った。
「まだ人も疎らですね」
いつもミシェルが執務室に向かう時間と同じ時刻だが、ホールにいる人間はまだ少ない。ディーナもソワソワと落ち着かない表情のまま、後方を顧みた。
「まぁ、大体の研修生は私と同じ、通いだからね。そんなに余裕持って出てこないのよ、きっと」
「なるほど……」
城に一室を与えられているミシェルとは異なり、ディーナは実家から城へと通勤している。元々ディーナが王都に住んでいたという理由もあるが、基本的には城で働く皆は、外から通っているのだ。
「侍女採用の子たちは仕事柄、殆どが城に住むらしいけど、まだ来ていないみたいね」
少しずつ人の増えていく研修会場の中、女性は未だミシェルとディーナの二人だけだ。二人とも、無駄に目立つし落ち着かない。幾人かが二人に声を掛けようとしていたが、ディーナが鋭い視線を浴びせると、あえなく退散していた。
「アリソンさんは試験、どうだったのでしょう?」
トネールを撫でながらミシェルが尋ねると、ディーナも首を傾げた。
昨日の入城式でもミシェルはアリソンの姿を探したが、何分人も多く、見つけ出すことができなかったのだ。
「ねぇ、あそこが良いんじゃない?」
その時、後方からそんな声が聞こえてきた。これまでホールに響いていた低い声とは異なり、高く柔らかい声だ。振り向くと、そこには10数人程度の若い女性が集まっていた。
「ミシェル、きっとあの子たちが今年の侍女採用者よ」
ディーナがそっと耳打ちをする。どの娘も見目麗しく、覇気のありそうな顔ぶれだ。
「ここ、座っても大丈夫?」
二人の間後ろの席を指しながら、侍女たちの先頭に立っていた少女がそう尋ねた。茶の縦ロールが特徴的な、気の強そうな娘さんだ。
「えぇ、どうぞ」
ディーナが答えると、少女はニコリと笑った。
「ありがとう。女性の採用者は少ないから、固まっていた方が良いかと思って」
そう言って少女が侍女たちに目配せする。すると侍女採用者たちは華やかな笑みを浮かべながら、ぞろぞろとミシェル達の方へと集まって来た。
「私はアリス。今年の侍女採用者の中で首席なの」
「……どうも」
スッと差し出された手を、ディーナはおずおずと握り返した。
「あなた達は?侍女ではないみたいだけど」
値踏みするよう表情でアリスが尋ねる。
(やっぱり、お城で働く程の女性となると、気の強い方が多くなりがちなのでしょうか)
魔女採用試験で出会った魔女たちやアリソンを思い返しながら、ミシェルは苦笑いを浮かべた。
「私はディーナ。政務官として数か月前から働いているの。それで、こっちは王室専属魔女のミシェル。同じく数か月前からここで働いているわ」
「ミシェルです。よろしくお願いします」
ディーナの紹介に合わせて、ミシェルはペコリと頭を下げた。
「数か月前から?新規採用者向けの研修って聞いていたけど」
「わっ、私たちは中途採用だったので、研修らしい研修を受けていなくて、それで」
怪訝な表情を浮かべるアリスに、ミシェルは説明した。丁度アリスの向こう側から、クリスが入室するところが見えた。笑顔で手を振るクリスに、ミシェルもそっと手を振り返す。
「ふ~~ん……。ねぇ、もしかしてあれ、彼氏?」
「えっ?あれって、クリスのことですか?」
ミシェルの視線の先を観察しながら、アリスが尋ねる。ミシェルはディーナと顔を見合わせながら苦笑いを深めた。
「いえ、あれは私の幼馴染でして。同じく中途採用だったのでここへ」
「そうなの?……でも、勿体なくない?なんで幼馴染のままにしとくの?私ならさっさとゲットしてしまうのに」
「…………え?」
アリスはそう言ってクリスへと熱視線を送る。ルカと一緒にいると忘れがちだが、クリスだって大層な美男子だ。栗色の美しい髪の毛に、最近よりクッキリとした目鼻立ち、領地にいた頃よりも洗練された身のこなしに侍女たちの視線は釘付けになっている。
「いえ、私はそんな」
「でも、そうよねぇ。まずは王子!王子にアタックしないと!他の男は後よ、後!」
「…………はぁ」
ミシェルは呆気にとられていた。アリスをはじめ、侍女たちは皆目を輝かせながらウットリと手を合わせている。
(そういえば、採用試験の時にディーナが話してはいましたが)
やはり、侍女たちはルカ目当てに試験を受けているらしい。ディーナとトネールは侍女たちには見えないよう、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
「だって、うまくすれば王太子妃になれるかもしれないのよ?ルカ様にはご兄弟はおられないし、他にご親族もいない。このままじゃ王族が途絶えちゃうもの。子孫繁栄を第一に、きっと幾人もお妃を娶られるはずだわ!そのうちの末席にでも入れて貰えたら万々歳よ!贅沢三昧、優雅な暮らしが約束されるなんて最高じゃない」
「…………その前に、城から追い出されるほうが先かもしれませんよ、ミス・バートン」
ミシェルの背後で冷ややかな声が響いた。少し年配の、女性のものだ。振り返ると、プラチナブロンドを綺麗に結い上げた厳格そうな表情の女性がそこに立っていた。ルカの部屋や執務室で、幾度か顔を合わせた女性だ。
「マッ、マダム・サリバン!」
アリスは青ざめながら、顔を引きつらせた。他の侍女たちも同様の反応だ。
「さっさと席に着きなさい。研修はもう、始まっているのよ」
サリバンはそう言ってニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。一瞬でホールにはピリピリとした緊張感が漂い、侍女たちや、他の研修生たちが一斉に席へと移動していく。
(助かった……やっと解放されました)
得も言われぬ疲労感を抱えながら、ミシェルはそっとため息を吐くのだった。




