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魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
森を出た魔女、王都に生きる
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確信犯の報告遅滞

 筆記試験から2か月後。面接を突破した採用者達の初出勤日がきた。

 筆記試験が若手主導だったのに対し、面接はそれぞれの部署のお偉方が実施したらしい。このためディーナもミシェルも、その後どんな人材が採用されたのか知らされていない。


「楽しみですね、ディーナ!後輩が入ってくるんですものね」


 入城式の会場へと向かいながら、ミシェルがウキウキと声を弾ませる。


「後輩だなんてそんな……私だってまだ政務官としては数か月しか働いてないペーペーなのに。何かを教えろって言われても、ちょっと」


 本気でそう思っているのだろうか。ディーナの表情はあまり芳しくない。

 ミシェルは首を横に振りながら真っすぐ前を見据えた。


「そんなこと有りませんよ。私には政務官の実務がどのようなものなのか分かりませんが、ディーナがどれほどこの国を想っているか知っています。心や想いの部分は、経験等の年数だけじゃどうしようもありません。ですから、きっとディーナは大丈夫です」

「ん……ありがとう」


 ディーナは未だ不安そうな表情ではあるものの、笑みを浮かべた。


「まぁ、私たちと違ってさ、定期採用者たちには一定期間の研修があるんだって!一か月ぐらいって話だったかな。国のために働くものとしての基礎知識や心構え、その他諸々を学ぶ……って、話なんだけど」

「そっ、そうなのですね……!」


 ミシェルは採用後すぐ、クリスやディーナとともに職務に当たり始めた。そういった基礎教育というものは特になく、ディーナによる社会教育を受けることが研修といえば研修だったのだが。


「まぁ、国のナンバー2が直々に国とはなんぞや、ってのを定期的に話に来ていたから、寧ろ贅沢かもしれないけど」

「ハハっ、確かにそうですね」


 ディーナの言う国のナンバー2とは、当然ルカのことだ。ミシェルが仕事を始めてすぐのころは、今ほど多忙じゃなかったこともあり、しょっちゅう執務室を訪れては国政等について、あれこれ話をしていた。


「さすがに、ルカ様や王様直々に研修なんてしないだろうから、私たちはラッキーなのかもしれないけど。本当はさ……私も研修受けたかったなぁーーなんて」

「ならば、ディーナ殿も研修を受けますか?」

「えっ!?」


 唐突に響いたテノールボイスに二人は振り返る。けれどミシェルには、振り返る前に誰の声なのか分かっていた。


「クリス!」

「ミシェル、元気そうで何より」


 二人の後ろにいたのはクリスだった。今日はアランもルカも別行動らしく、珍しく彼一人だ。


「クリス様、どういうことです?私も研修を、とは」


 ディーナは少しばかり興奮しているようだった。クリスへと詰め寄りながら、頬を紅潮させている。


「ふふっ。実はですね、今回私も定期採用者たちと混ざって、研修を受けさせてもらうのですよ」

「そうなのですか!?」

「えぇ。ルカ様にはあれこれ小言を言われましたが、これを逃せばもう機会はありませんからね。無理を通させていただきました」


 クリスはそう言って胸を張る。ミシェルは思わず笑い声を漏らした。


(あぁ……。クリスきっと、相当頑張ったのでしょうねぇ)


 なんだかんだ言いながら、ルカはクリスを信頼し、重用している。一時とはいえ、手元から離そうとはしないはずだ。きっと、本当に無理を通した形なのだろうとミシェルは思った。


「まぁ、ディーナ殿には不要なレベルの研修かもしれませんが、同期もできますし、なにより職種の違う人脈ができるのは大きいかと」

「いっ、行きたい!行きたいです!ですが、良いのでしょうか?急に私が参加しても」


 ディーナは興奮した面持ちでまくし立てた。瞳がキラキラと期待で輝いている。


「構わないでしょう。私がルカ様を説得できたのも昨日のことですし、研修は明日から。研修の担当には私からお話しますよ。ただ、研修期間中の仕事の都合は、ご自身で付けていただかなければなりませんが」

「そんなの平気です!研修が終わってから、仕事します!是非、受けさせていただきたいです!」


 クリスはディーナのセリフを聞くと、ふふっと小さく笑った。


「わかりました。でも、仕事の方は一人で抱え込んではいけませんよ。ある程度は他の人に引き継ぐこと、それが研修の条件です。良いですね?」


 平常時でも多くの仕事を抱えているディーナが、研修後に仕事をするのでは負担で身体的にも精神的にも潰れかねない。関りが少ないものの、クリスはそれを把握しているのだろう。ミシェルとしてもそれだけが気がかりだったので、クリスのセリフに胸を撫でおろした。


「はい。わかりました」


 ディーナはコクリと頷くと、満面の笑みを浮かべた。普段の勝気な表情から一転して、屈託のない笑顔はとても愛らしい。クリスは少し、頬を紅く染めた。


「ねぇ、クリス。研修、私もご一緒してよろしいですか?」


 二人の話が纏まったところで、ミシェルがクリスへと切り出す。クリスはコホンと咳払いすると、ニヤリと口角を上げた。


「そう来ると思っていましたよ。もちろん!ミシェルも一緒に受けましょう」

「良かった!楽しみです!」


 ミシェルはトネールを抱き締めながら、ウキウキと声を弾ませた。


「でもさ、それ、ルカ様に先に報告しておいた方が良いんじゃない?妬くかもよ?だって、騎士とか政務官とか、男がウジャウジャいるわけでしょう?」

「へ?」


 ディーナの言葉にミシェルは首を傾げる。


(妬く、とは?)


 言葉の意味も、その実態も良く分からないままミシェルは首を傾げる。けれど、話を聞く限り、大きな問題になる様な事はないように思えた。


「へっちゃらですよ、きっと。ルカ様はお仕事第一の方ですから。それに、次はいつお会いできるかわかりませんので、その時にご報告します」

「そ、そう?なら、いいんだけど」


 楽観的なミシェルとは反対に、ディーナの頭からは懸念が拭えていない。

 その時、悪戯っぽくクリスが小さく舌を出した。ディーナはそれを目敏く見つけるも、何も言わずにこっそりとため息を吐いた。

 きっとこの後クリスは、ルカと会う予定があるのだろう。けれど、彼のこの様子を見るに、ミシェルの研修参加を報告するつもりはないようだ。

 普段ライバルに水を上げられてばかりのクリスの境遇を思えば、多少の報告の遅れは目を瞑っても良いのかもしれない。そんなことを思いながら、ディーナは明日からの研修へと思いを馳せたのだった。

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