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第31話

「出し惜しみはしねぇぜ!! 狼人化ウルフガイ!」

「それじゃあ、こちらも気合を入れようか」


 中堅戦の開始と同時に真咬は戦守学園の制服を脱ぎ捨て能力を発動すると、狼男に変身した。

 その姿は、正に伝説上の狼男そのもの。

 耳まで裂けた大きな口。

 その口から覗かせる大牙に長く伸びた爪。

 血走った瞳に忙しなく哭く粗い息継ぎが、いつ襲われるかわからない不安を催す。

 もっとも和吾は泰然自若としたもので、対戦者の異様な姿に心を乱された様子すらない。

 それ所か、涼やかな笑みすら浮かべているではないか!

 それは真咬が猛攻を仕掛けた後でも何ら変わらなかった。


「アオーーーン!! くそっ! 当たりやがれ!!」

「はははっ。そんな力任せじゃ、当たるものも当たらないさ!」


 颶風を身に纏い眼にも止まらぬ連撃を仕掛けたのだが掠りもしない。

 高速の足捌き、いやフットワークとウィービングで華麗に躱しきるや否や、真咬の攻撃を寸断する様に手痛い反撃を仕掛けた。

 それは下方から、あるいはその途中で鞭のようにしなり軌道を変え、相手の狙う変幻自在のジャブであった。

 もちろんただのジャブではない。

 手加減しているとはいえ猛に次ぐ肉体強化者であり、幼き日から猛と共に幾度も潜り抜けてきたのだ。

 神話の化物さえ打倒する拳は甘くない!

 真咬も何発かは回避したものの、直ぐに捕まり滅多打ちにされてしまう。


「ちっ! がっ!? くそが!!」

「それじゃダメだね」

「ぐぼっ!?」


 苦し紛れに振り回した腕の内側に入られ投げられてしまったのだ。

 強烈な勢いで地面に背中を叩き付ける一本背負いだ。

 人の身ならこれだけでも勝負はついてしまいそうだが、真咬は多少苦しみつつ直ぐに起き上ると、牙を剥き出しに闘志溢れる姿をみせた。

 みれば散々殴られた顔の傷も跡形も無く消えているではないか!


「回復力は中々のようだね」

「へっ、狼男を舐めるなよ! 俺達真咬の一族は伝説上の狼男そのもの! 腕が千切られようが足が取れようが、直ぐに再生するぜ!!」


 旧家の一角、真咬一族。

 化物に姿を変える能力から、忌み嫌われ忌避され続けた一族でもある。

 MCの出現と新人類の誕生のおかげで様々な能力が知られる事になり、漸く歴史の表舞台に出る事を許された悲しい一族だ。

 そんな一族の出身であるが、真咬大牙が己の能力を何の衒いも無く受け入れ戦う事ができる、心の強さを持っていた。


「しっかし、あんたの武術は何だ? ボクシングみてーな動きをしたと思ったら、今度は柔道。わけがわからないぜ!」

「これは“バリツ”! いうなれば投げ、打ち、締め、様々な武術の良い所を取り入れた武術さ!」


 バリツ

 それは、彼の有名な英国紳士の名探偵が嗜んでいたとされる武術。

 中身は日本式レスリングも含めた、和洋の武術の要訣を集めた武術。

 別の言い方をすれば、全局面を対応出来る様に創始された総合格闘技なのである。

 紳士たる事を目指す和吾にはもってこいの武術であり、猛の義父に頼んでわざわざ師を探してもらい身に付けた、特別な思い入れのある武術でもあった。


「バリツだあ? よくわからんが、色んな技を使うって事だろ! なら今度は真咬のわざを見せてやる! 真咬流獣拳法をな!!」


 真咬の者は、人でも、獣でもない。

 狼男としてその両者の特性を兼ね備え、かつ人を越えた化物の身体能力を有しているのだ。

 戦い方も自ずと独自の闘法になるというものだ。

 やおら四つん這いになり獣の様に地に低く伏せると、四肢を疾駆させ高速の噛み付きを行った。

 もちろん待ち構えていた和吾に当たる事なく、流麗なステップで回避されてしまったが、そこは大牙も敵の強さを想定済みである。

 横移動した和吾に獣の如き高速の方向転換を敢行し、逃すまいと追撃を仕掛けた!


「逃がすかよ! 牙連爪!」


 大口を空けて襲い掛かり躱されるや否や、手足に生えた長い爪を駆使した突きやフック、前蹴りからの高速の飛び後ろ回し蹴りでの息つかせぬ連続攻撃である。

 獣の俊敏さと無尽蔵とさえ思えるスタミナ、それに人の部分を生かした拳法を取り入れた、まごう事無き独自の戦闘法である。

 格上の和吾に回避、あるいは攻撃をいなされても構いやしない。

 化物の体力を頼みに一気呵成に攻め立て続けた。

 

 全力全開、死にもの狂いで強者に立ち向かう姿が猛の琴線に触れた。


「……愉しそうだな」

「たのしそう、ですか?」

「何で? 頑張ってるみたいだけど、どうせ負けでしょ?」

「敗北から得る事もある。特にこの試合は負けても死ぬわけじゃない。負けられる試合なんだ」

「ふ~ん、あたしは負けるの嫌だけどな~」

「俺だって、負けるのは嫌さ。だけど、にがく苦しい敗北が成長の糧になるのさ」

「そうですね。敗北から得られるものがあるのなら、それもいいかもしれませんね」

「……」


 胡坐をかいて地面に座る猛の両脇を境子と美華が占有し、仲睦まじそうに談笑している。

 そんな様子を厚一が何か喉に小骨が引っ掛かったように眺めている。


「何よ? 何か言いたい事があるの?」

「いや、随分変わったなと思ってね。1ヶ月前はただのアバ○レとネクラ女だと思ってたのにさ」

「ふふふ。それは、少しは見直してもらえたという事でしょうか? それならうれしいですね」

「ふふん! ドチビが何言おうと平気よ! 恋する乙女は無敵なんだからっ!」

「……本当に変わったようだね」


 こちらの皮肉がまるで通じない。

 逆に笑顔で返されてしまえば、さすがの厚一でも毒を吐き辛い。

 変わった、本当に変わったしまった。

 2人は変貌したという表現が正鵠を射るくらい、容姿も性格も変わってしまっていたのだ。

 境子は髪を短くし、よく上を向き相手を見て話すようになった。

 何より違うのはあれだけ暗く淀んだ陰気を纏っていたのにどこえやら、今では華咲く様な笑顔で周囲に幸福を振り撒いているではないか!

 一方の美華は、改造制服や日焼けした肌はそのままであり、相変わらず突拍子もない言動で境子にたしなめられる事もしばしばであるが、それさえも友達とのコミュニケーションと肯定している。

そして何といっても、脱ぼっちに向けていた有り余る情熱の全てを、愛しい恋人に向けているようだ。

 加えて、猛自身に女性陣が注ぐ想いを受け止められる、大らかさと寛容さを持ち合わせていた事も、彼女達の傾倒ぶりに拍車を掛けた。

 必死、文字通り死にもの狂いで修業し、努力した成果を猛に肯定してもらえ、ご褒美として甘やかしてもらえるのだ。

 今まで行き場を無くしていた少女達の想いは猛を得る事で報われ、また猛を失わないためにも提示された条件を、血反吐を吐き、何度も何度も限界を越え成し遂げたのだ。

 今まで人生経験を一新させるような強烈な体験である。

 性格が変わったとして誰を責められよう。


「えっと、真咬だっけ? ほんの1月前までは私より上だったのに、今だと大分格下よね。私達の努力がまさったのもあるけど、やっぱり色々恵まれてたってのも大きいのかな」

「そうだよ。処○ビ○チなんて、本来なら僕等の部隊に入隊できなかったんだから、ほんと感謝してほしいね!」

「はいはい、わかってますよーだ! 私を受け入れてくれたダーリンの懐の大きさには毎日感謝してるわ!」

「その他にも色々恵まれていました。多種多様な修行環境、何時でもMCや能力者と戦える機会、そして何といってもクリスティナさんの回復の助けでしょうか」

「姐御はねぇ、ほんと、猛が絡まらなければ超優秀だからね……」


 肉体の怪我や疲労はおろか、能力エクストラセンスの行使に必要な精神力をもクリスティナならば、離れた場所に居てさえ回復できるのだ。

 LVや個人差によって精神力の回復に要する時間は大分違うが、LV100以下という条件下であれば、精神力を枯渇すると全て回復するまで半日程度掛かってしまう。

 精神力が戻るまでは能力が行使できないので、その間は修行したくともどうすることもできないのだ。

 だが美華や境子には、クリスティナという規格外な程優秀な回復能力者の助力によって、精神力が無くなる事はなく能力が使いたい放題だったのだ!

 それだけではない!

 猛の義父剛毅、ひいては彼の会社である不忍コーポレーションのバックアップによって、様々なトレーニング機材や場所、更には地下闘技場での戦闘だ。

 修行と戦闘を交互に繰り返す事により、修行の成果を実感すると共に次の課題や問題点を見つける、という好循環が形成されたわけだ。

 これら全てが相乗効果をなし、常人では数年、いや10年経っても辿り付けないであろう圧倒的成果を生み出したのである。

 ただし、疑問も残る。


「そういえば、何故お義父様はこれほど協力的なんでしょうか?」

義親父おやじがか?」

「ええ。戦守学園と比べても見劣りしない所か、遥かに優れています。ここまでの好条件は何か理由があるのかと……」

押忍おしおさんも姐御と一緒で猛大好き人間だけど、あれでも経営者だ。僕等にここまでのお金を掛けるのにも、ちゃあんと正当なわけがあるのさ。例えば、このMPCを見てごらん」


 厚一が差し出したのは不忍製のMPCである。

 不忍コーポレーションは、何も安全だけを売り物にしているわけではない。

 外国から特産物を仕入れ日本で売り捌く商社の役割をこなすだけでなく、最新鋭の能力関係の機器、対MC用の防衛機器から測定装置や分析機器、あるいは実験装置等々、様々な商品を開発するメーカーの役割も担っているのだ。

 その中でも不忍製のMPCは世界に先駆けて発売され、数度のリニューアルを得てもなお、測定精度と範囲の広さから最も人気のある主力製品であった。


「あっ、不忍の最新モデルのMPCじゃん。小型でおしゃれな見た目だから、今人気なんだよね~」

「ア○ズ○はこれだから……。そこは外見より性能だろ!」

「何よ! ドチビ、文句あんの!!」

「おいおい、厚一、今はMPCの話だろ?」

「ちっ、話がそれたか! それでMPCのCはカウンター、まあ測定器の意味だけど、じゃあMPは何?」

「そんなのあたしでもわかるわよ! ミリタリパワーでしょ?」

「私達能力者の戦闘力は、軍事力に匹敵する事から付けられたのですよね?」

「おおはずれ! そんなのは対外的に面倒だから、考えられた後付けの理由さ! 本当は別の言葉なのさ」

「ええ~、うそ~!?」

「えっ!? そうなのですか?」

「……マッスルパワー。MPはマッスルパワーの略だ」

「「!?」」


 いつの間にか試合の観戦は忘れ去られ、厚一と猛の話に興味を引き寄せられていた。

 まあ試合に関しては、獣人化後の真咬の猛攻も経験豊富な和吾の前に攻めあぐね、逆に手痛い反撃を喰らっている状況が続いているだけなので、これといった進展はなかったが……。

 それよりも先程の猛の言葉だ。

 MPの略はマッスルパワーだとする根拠がわからない。

 困惑気味に境子と美華が顔を見合わせていると厚一が誇らしそうに解説しだした。


「世界で初めてMPCを実用化したのは不忍コーポレーションなのは知ってるでしょ? じゃあどうやって開発したかなんだけど、見本となる能力があったから、それを機械でも測定できるように工夫したのさ。もうここまで言えばわかるだろ? 見本となったのは猛さ!」

「俺の第2階梯の能力は筋肉審美眼マッスルアイ、筋肉の総量や美しさだけじゃなく、対象の戦闘力、あるいはLVや階梯まで全て見ることができるのさ」

「ええ~!? MPCってダーリンの能力を基にして開発されたの!? えっ、でも10何年も前の話じゃない!」

「そうだ。 俺は3歳ぐらいには、もう第2階梯に目覚めていたそうだ」

「!? すごい、すごすぎるよ! さすが私のダーリン♪」

「さすが猛さんです」


 興奮して抱き着く2人に、満更でもない顔で受け止める猛。

 厚一は見たくもない物を、至近距離で見せられたといった風に首を横に振った。


「ごほんっ! その他にも姐御の能力を活かした様々な回復薬、スレーンやアコ、スラーなんかもうちの主力商品さ」

「へえ~、色々あるんだね」

「なるほど、能力者を研究する事で得るものも多いという事ですね」

「そう、猛や姐御の協力によって会社に大金が入り続けているからこそ、これだけ厚遇してもらえているのさ。まあ、その他にもMCとの戦闘によって様々な知見が得られるって事も大きいかな」


 人類との敵性存在MC。

 この神話上の存在の姿を模す敵に対し、人類はまだ余りにも無知なのだ。

 知るべき事、知らなければならない事は山ほどある。

 だからこそ、目的はどうあれ猛達の様に、自らMCとの戦闘に志願する存在は貴重であり、社への貢献は計り知れない。

 つまりWin-Winの関係であり、お互いに利があるからこその現状なのである。


「やっぱり私達恵まれてたんだ~。この環境に感謝しなくちゃ!」

「そうね。感謝しつつ、私達にできる事をがんばりましょう」

「やる気があるのはいい事だ! 頑張って俺に付いてこい!」

「はいっ!!」「は~い♪」


 疑問も解消し戦闘に集中すると、そろそろ終盤といった所だろうか。

 真咬が散々攻勢に出たようだが、結局和吾の防御を上回る事はできず為す術も無く反撃を貰い、体中傷付き方で息をしている。

 もっともさすが狼男といった風で、怪我や傷は見る間に治ってしまっているようだ。


「はあっ、はあっ。くそっ! MPは同じだっていうのに、真咬のわざが獣人の技が通じねえっていうのかよ!」


 盛大に悪態を付いているが、真咬自身本当は理由もわかっている。

 戦闘能力は一緒だが、技で遥かに上回れているのだ。

 獣の俊敏性でもって真咬一族が長きに渡り練り上げた技を繰り出しても、和吾のバリツによって受け、捌かれ、あるいは回避され、酷い時にはカウンターを貰ってしまったのだ。

 おそらく速さは上回っているというのにだ!

 だが、相手も決定打に欠けている。

 狼男の回復力をもってすれば、骨折だとて数分で治ってしまうのだ。

 ここまで戦闘が長引いた理由は、単純に真咬の異常な回復力のせいでもあった。


「……今まで、ここまで屈辱的な経験をしたことはねぇ。認めよう。あんたの方が俺より上だ! 本来なら俺なんかが敵う相手じゃねえ! だがこのハンデ戦は別だ。力を抑えた状態なら、お互いに決め手に欠けた千日手じゃねえか?」

「ははっ、そんな事ないさ。狼男と戦うのは初めてでね。どこまでやっていいか、見極めてたのさ」

「何だとっ!?」


 和吾の返答に、忽ち真咬はいきりたった。

 何故なら相手は、息一つ乱さず散々こちらを打ち据え投げてくれた細マッチョのイケメンは、MPを抑えるだけでなく攻撃にも手を加え、致命傷にならないように手加減をしていたというではないか!!


「ふざけるなっ!!」


 怒りに身を任せた大振りの爪撃。

 それが真咬の覚えている最後の光景だった。

 和吾はその一撃にカウンターを取り顎を跳ね上げ一瞬で背後に回ると、首の頸動脈を両手で絞めながらバックドロップの要領で後方に投げ、頭を地面に突き刺してしまったのである!!

 さしもの狼男も、首を絞められながら叩き付けられた衝撃で気を失ったようで、全く動けない。


「そこまで! 勝負あり!!」


 さながら墓標の様に、地面から真っ直ぐ突き立った姿のまま勝負は決したのだった。



 









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