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第24話

 学内ランキング


 それは、戦守学園においてMC(神話生物)と戦う部隊、総数数百にも上る戦闘部隊の優劣を決定する、半年に1度の機会である。

 もっともこの学園に所属する能力者(ミスティック)だからといって、誰もが戦闘力が高いわけではないし、戦闘向きの能力をもっているわけではない。

 加えて、猛達の様に一応の義務だけは果たすが、ランキングによって得られる報酬や地位に興味のない者も少なくない。

 したがって不戦敗や参加そのものの辞退も一定数は存在するのだ。

 もっとも、これは仕方ない事なのかもしれない。

 元々裏方向きの能力や性格の者、あるいは戦闘自体好まない者達もいる。

 だがしかし、そういった者でも能力者であれば法律により、幼少から強制的にこの学園に所属され、共同生活を余儀なくされるのである。

 本分であるMCとの戦闘やその補助をきちんと行っている限り、それ以外であればある程度緩めるのが学園側の方針である。

 だから学内ランキングの参加も義務としないので、必然上述した者達も出てくるわけだ。

 といっても、不参加する者は少数である。

 学園側から用意される報酬や特権は魅力的であり、活躍すれば他の生徒からも一目置かれる。

 日頃の研鑽の成果を見せる場でもあるし、能力者同士の戦いを通じて見直すべき所を自覚したり、レベルアップの機会でもある。

 更には普段制限された力を思う存分、大手を振って使う機会でもあるのだ。 

 生徒達にとってはある種のお祭り、実戦を伴う体育祭であった。

 否が応にも盛り上がろうというものだ。






 第5部隊隊長であり長槍を得手とした熟達の戦士、庵治大成(おうじたいせい)もまたこの学内ランキングに並々ならぬ熱意を燃やす者の1人であった。

 庵治事態、能力者ランキング7位に位置する猛者であり、部隊員達も能力者ランキングの上位者で占められている。

 はっきり言ってランキング上位に毎回名を連ねる常連であり、彼の絶対王者率いる第1部隊から王者の座を奪還せんと執念を燃やし、日々仲間達と切磋琢磨を繰り返す、この学園において実に模範的な優等生であった。

 だがその大成が戦守学園の地下にある、外さながらの野外フィールド、実戦を想定した広大な模擬戦闘場で小刻みに震えていた。

 人工灯に照らされた地下闘技施設、草木が点在するう草原の如き数Kmにも及ぶ自然さながらの戦闘場。

 その中心にある開始線を挟み、第5部隊と第23部隊と対峙していた。

 では何にふるえていたのか?

 武者震い?

 いいや、今正に戦わんとしている敵部隊、第23部隊の態度に怒りを禁じえないのだ!

 大成の口から押し殺していた怒りが吐き出された。


「……どういつつもりだ!」

「どういうつもりとは?」

「総力戦を指定してきたのはお前達だろう! 何だその態度は! 真面に戦おうしているのは2人だけじゃないか!!」

「そうよ! 後ろで座っている男共は何の積もりなの!!」


 どうやら大成だけでなく部隊員達も同じ心算であったようで、口々に非難の言葉を発した。

 そうだというのに、目の前に佇む少女2人、前髪も少なく漆黒の髪を片口で揃え嫣然と微笑む大和撫子風の少女と、乱れた改造制服を着こみやる気なさそうに頭の後ろで両手を組む少女は白けた視線を送ってくるだけだ。

 何より許せないのは、後ろに座って眺めているだけの男達だ。

 これから戦うはずなのに、座って談笑しておりこちらを見てすらいないのだ!

 侮辱と受け取って当然の態度であった。

 だが、彼等にはそんな積りはない。

 ないというよりは、正当な評価を下してるに過ぎなかった。


「ああ、総力戦ですが、このまま開始して頂いて構いませんよ」

「何だとっ!!」

「本来なら私か美華ちゃん、どちらか1人で十分なのですが、猛さんの指名ですのでご了承ください」

「こんな退屈な試合、さっさと終わらせてダーリンとイチャイチャしたいから、ちゃっちゃとはじめようよ~」

「貴様っ!!」

「ふざけないで!!」


 傲岸不遜、あまりにも太々しい態度であった。

 栄えある第5部隊相手に不遜極まりない言動である。

 学内ランキング戦が部隊員同士の戦いであるが、1対1での勝利数や勝ち抜き戦、あるいは今回の様に全員同時に戦う総力戦によって、勝敗を決するものである。

 仮にもランキング上位者であり、隊員個々の能力も高いこちらに総力戦、10対2で挑み、なおかつ勝利すると言ってのけたのだ!

 これを侮辱と取らず、何を侮辱を取るのだというべき言葉であった。

 隊員達の怒りは頂点に達し、今にも激発しそうだ。

 大成自身もいつ爆発してもおかしくない。

 だというのに、目の前の少女達はただ見つめ返してくるだけで、こちらの様子など一顧だにすらしていない。


「どうしました? 納得できないのであれば、実力で私達を下し、その後に残りの3名を倒せばいいじゃないですか?」

「めんどくさいな~。さっさと始めてよ」

「……その言葉! 後悔するなよっ!!」

「隊長!?」

「いいんですか!?」

「こんな屈辱、認めるんですか!」

「言葉が通じないのだ! 相手が望む通り、実力でわからせるまでだ!!」


 そう、はじめから違和感があった。

 この2人は第5部隊を対戦相手と、競い合う同等の相手と見ていないのだ。

 そもそも欠片も興味が無いのは勿論の事、こちらの強さも部隊の練度も歯牙にも掛けていない。

 強者がただ弱者に見向きもせず構わない、言ってみればそんな態度だ。

 許しておけない!

 直ぐにその思い上がりを後悔させてやると、大成は気炎を吐いた。


「審判っ! 始めてくれ!!」

「……いいんだな」


 学園の教師、それも能力者であり、それも20歳以上で能力を喪わなかった稀有な存在で、後進を教え導きたいという熱い思いを持った、能力者専門の教師が審判を務めており、今回は公平な立場という事で審判を務めていた。

 審判の最終確認に少女達は静かに頷き、大成達、第23部隊は大声で叫んだ。


「ああ、さっさとはじめてくれ!!」

「……よろしい。お互い遺恨を残さず、あくまで仲間同士の切磋琢磨の場だという事を忘れないように! それでは、はじめっ!!」

「いくぞ!!」

「「「応っ!!」」


 激情の赴くまま彼奴等の思い上がりと正さんと、鬨の声と共に大成達は銘々武器を振り上げ、あるいは能力による攻撃を開始しようとした。

 攻撃しようとはしたのだ。

 だが、実行に移される事は永遠になかった。

 一瞬で、瞬きする様な秒にも満たない僅かな時で、勝敗は決していたからだ。

 第5部隊全てが抗しきれない強大な圧力を受け、地面に這いつくばされたのである!!


「「「っ!?」」」

「はい、おしまいっと」


 美華が投げキッスをすると寝転がされた全員に小さな火が飛び、当たるや否や全身を焼き焦がす劫火に変わった!


「ごああああああっ!?」

「きゃあああっ」

「!? 止めっ!! 直ぐに止めるんだ! もう勝負は着いた!」

「はいはいっ、すぐ消しますよっと」


 動けないまま炎に包まれた所、誰も脱出できないと判断した審判が試合を止め、それに従い美華と境子が能力を消しただけである。

 高重力場の中で何もできず焼かれたのは極短時間であったが、少女2人の能力の高さゆえか、第5部隊のメンバーの様子は悲惨の一言に尽きた。

 火傷による外傷や骨折や打撲とあげたらきりがない。


「これはひどいな。救急隊、第2闘技場だ! 直ぐ来てくれ!!」


 審判が携帯から電話を掛け、控えていた救急部隊を急いで呼びよせた。

 少女達は礼儀的に対戦相手の医療室の搬送を見送った後勝利宣言を聞くと、猛達のもとに駆け出した。


「ダーリン、終わったよー!」

「猛さん、思ったより時間が掛かったようで、申し訳ありません」

「ああ、予定通りの勝利だな。ただ2人はもう少し手加減しような。あれだとやり過ぎだ」

「申し訳ありません、あんなに脆いとは思っていませんでした」

「ぶぅぶぅ~、ちゃんと言い付け通り勝ったんだからさ~。もう少しほめてよ!!」

「はいはいっ、美華も境子もよくやった」

「えへへへっ」


 猛の大きな手で頭を撫でられると、美華も境子も嬉しそうにほほ笑んだ。

 傍にいる厚一は見てられないと大げさに頭を左右に振り、和吾は微笑ましいものを見るかのように温かな視線をよこした。


「勝ったのはいいけど、反省すべき所はすべきだね」

「そうだな。2人は急激に強くなったせいもあるが、相手と自分の力量差が上手く掴めていない」

「ううぅ~、わかっているわよ!」

「そうですね、厚一さんと和吾さんのおっしゃる通り、あそこまで能力を使わずとも、もっと簡単に。いえっ、相手を必要以上に傷付けずに勝つ事もできたはずです」

「はあっ、そうね。ちょっと張り切り過ぎたかもっ。次はもっと気を付けるわ!」

「えらいぞ、2人共! 間違いを認め、改善しようと努力できるのはいいことだ」

「はいっ!」

「えへへへ~」


 猛の言葉に気を良くした2人は、猛の左右から抱き着き、仲睦まじい雰囲気を醸し出した。

 そして、そのまま唖然とする審判を置き去りに、闘技場を後にしたのだった。




 

 









 「……。これは、ひどい、でござるな……」


 第1部隊に割り当てれた個室で、先程行われていた試合を観戦していた、細見で黒髪を真後ろに結び腰に愛刀を差した女侍の如き姿の少女、白凰麗香は勝手に言葉が漏れた。

 近くに座っていた野生の獣を思わせる、目の鋭く鍛え抜かれた長身の男も追随した。


「何だこりゃ!? 虐殺じゃねーか! しかも第3部隊相手だぜ!?」

「ああ、信じられない強さだな」

「聖也殿、彼女は貴殿の妹でござらなんだか?」

「……。ああ、そのとおりだ」

「あれが、御影の落ち零れだってっ!? おいおい冗談キツいぜ!」

「拙者には優れた能力者。下手すれば、我々よりも上位の実力者にしか見えなかったでござるよ」

「……」


 苦虫を噛潰し顔の聖也、御影一族の長子は否定も肯定もしなかった。

 普段は快活で、明確に断言するこの男には珍しい態度である。

 だが、その態度自体が答えを言っているようなものだ。

 プライドの高いこの男は決して公言しないだろうが、否定しないという事は肯定しているのに他ならない。

 認めている、認めているのだ。

 つい1月前までは無能の誹りを受けるに値した、自分の能力を真面に行使すらできなかった少女が、今ではどうだ!

 高速かつ精密、対象以外を傷付けずに敵部隊全員を御して見せたのだ。

 先程の白凰の言ではないが、自分でもあんなに簡単に第3部隊を倒せるかと言われれば、決して負ける心算は毛頭ないが、圧倒できるとは断言できなかった。

 今まで口を挟まなかった、参謀然とした眼鏡を掛けた優男が言葉を発した。


「……第23部隊、今まで全く学内ランキングに参加しなかったのに、ここまでの実力を隠していたとはね。これは作戦の練り直しが必要かな」

「戦った2人の実力は素晴らしかったでござるが、後ろの3名はどうでござろうな?」

「見た目だけの雑魚だったら笑えるが、強ければありがたいがな! まっ、俺らが負ける事はないか。せいぜい、頑張ってランキング戦に花を添えてほしいぜ!」

「……逆だ」

「「「逆?」」」

「……彼等には絶対に勝てない。戦えば僕等は必ず負けるだろう」

「「「!?!?」」」


 いつも自信満々、主役は自分であると全身で主張して憚らなかったあの聖也が、顔を歪めている。

 現能力者ランキング1位、勝者の立場である筈の男にしてはあまりにも情けない顔であった。


「俺達が負けるって!? おいおい、冗談きついぜ!」

「……事実だ。後ろの3人、彼等の強さは桁違いだ。彼等の内誰か1人と第1部隊全員が戦ったとしても、僕達が負けるだろう。特に真ん中の大男、雄忍猛相手では、この学園の生徒全てをもってしても勝つ事は不可能だろう……」

「それほど、でござるか……」

「嘘だろっ!? 聖也! お前はこの1ヶ月死ぬ物狂いで俺達と修行して、更にレベルアップしたじゃないか!! もうすぐLV100にも届くって、それだけの努力をしたじゃねーか!」

「……」


 仲間達が多大な衝撃に打ちひしがれる中、御影聖也だけは沈黙を続けた。

 感情を顔に出さないようにしているようだが、その瞳には隠しきれぬ恐怖が宿っていた。

 先程の発言とこの態度から、聖也の発言に何らかの根拠があるのだと類推できる。

 逸早くその考えに至った第1部隊の頭脳である眼鏡の優男、佐伯朱鷺(さえきとき)が疑問を口にした。


「聖也、この1ヶ月の必死な修行とどこか怯えている様な態度が気になっていたんだ。彼等と、いや、雄(・)忍(・)猛(・)と何かあったのかい?」

「……くわしくは言えない。家や国家に関わる事だからだ」

「ああ、全て教えて欲しいとは思わないさ。きみの言えることだけでいい」

「……言える事は唯1つ。僕と彼(・)は戦った、そして負けた。僕の完敗だったよ」

「マジかよ……」

「「……」」


 苦しそうに独白する聖也に、メンバーから直ぐに掛ける言葉が見つからないほどだった。

 そんな重苦しい雰囲気の中、佐伯は目と閉じ黙考すると、やがてため息を付きながら目を開くと再度問うた。


「聖也、間違いないんだね? 僕達は絶対に勝てないんだね?」

「……間違いない。彼等と戦う事自体が間違いなんだ。手加減してもらっても、真面に試合になるかどうかすら怪しいな」

「今調べたんが、あいつら能力者ランキングなんて3、40じゃねーか。特にあの大男なんて48位だぞ? そんな奴に俺達は勝てねーのか?」

「それは擬態だ。僕の今までの発言からもわかる通り、彼等こそ真なる強者。能力者ランキングの本当のベスト3だ。それも、この僕でさえ遥かに及ばない、圧倒的な上位者だ」

「「「……」」」


 再び重苦しい沈黙が部屋を満たした。

 自分達こそがこの学園の絶対強者だったという矜持、そして聖也の言とはいえ認めたくないという思いがあった。


「なるほど、彼らが学園内の戦に興味を示さなかった強者でござるか……。聖夜殿の言葉と合わせると、やはり殿(・)の言葉は正しかったんでござるな……」

「殿?」

「あははっ、独り言でござる! ごほんっ! まっ、まあ、拙者にも情報を得る術があるという事でござるよ! その情報筋から今回の学内ランキング戦では、拙者らは勝てないと言われたのでござるよ。聖也殿の言と合わせれば信憑性が高まったでござるな!」

「……つーことは、俺等の負けは確定ってか? ふざけるなよっ!! 俺は戦う前から負けは認めねーぞ!!」

「無論、拙者は勝てないにしても全力を尽くすでござるよ! 手抜きなど恥でござる!!」

「まっ、僕等にも今まで積上げてきた矜持があるんだ。簡単に、はいそうですかと勝ちを認められないよね」


 夫々の勇ましい言葉が聖也の胸を打つ。

 裏カジノのそのまた下、地下闘技場でのあの一夜を思い起こせば、また言い知れぬ恐怖に襲われるが、それでも畏れを振り払おうと我武者羅に努力してきた。

 戦えば絶対に負ける事はわかっている。

 だが、だが、それでも戦う前から負けを認めはしない!

 仲間達に背を押され、再び聖也の目に闘志の炎が灯った!!


「皆、僕に力を貸してくれっ!! 勝てないまでも、せめて一矢報いたい!」

「もちろんでござるよ!!」

「いい顔(ツラ)になったじぇねーか! 聖也! これまでの高慢ちきな澄まし顔より、今の方がずっといいぜ!」

「僕も全力で手を貸すさ! さあ、これから忙しくなるぞ!!」

「ありがとうっ!」


 強大な敵を前に第1部隊の結束は深まった。

 彼等は決意を胸に、来るべき第23部隊との戦いに向け励むのだった。





 





 そんな中、第23部隊は破竹の勢いで連勝街道を突き進んだ。

 向かう所敵無し。

 全ての戦いを総力戦で行い、猛を除いたメンバーの1人、ないしは2人で戦い、ハンデを背負ってもなお圧倒的なまでの力を振るい、常勝を当然の様に積み重ねていった。

 

 1週間、2週間と過ぎる内に、戦いを観戦した生徒や張り出されたランキング戦の結果からちらほらと彼等の異常性に気付く者達が増えていった。


 そして、それは第2部隊、第1部隊を除いて負け越した事のない、今回の優勝候補の一角を変わらず圧勝して見せた事で、完全に知れ渡る事になるのだった……。




 




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