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第18話

「FCの出現を確認しました! オニ3体、ネーレーイス5体、ゾンビが……13体です!!」

「夫々のMP(戦闘力)ランクは、順にE、D、F。いずれも待機部隊で対処可能な範囲です!」

「ゾンビはどの部隊でも問題ないが、オニとネーレーイスは少々厄介だ」

「各部隊の事前の希望を考慮しても、オニは第18と47部隊、ネーレーイスには第5、68、および91部隊が合同であたるべきかと具申いたします」

「ゾンビについては、経験豊富な第22部隊にサポートに回ってもらい、新人の第123と174部隊に経験を積んでもらうのはいかがでしょうか?」

「ではその方針でいこう。司令、よろしいですか?」


 モニター越しに敵の出現を確認し、戦守学園の直下にある作戦統合本部は俄かに喧噪に包まれた。

 そんな中、佐(・)藤(・)啓(・)次(・)は本部中央に設えられた最も豪華なデスクに肘を付き、ただ黙々とモニターを眺めていた。

 また地獄の釡が開いたのかと、憂鬱な思いに駆られていたのだ。

 そんな最中に一際大きな声が、強引に佐藤を現実に引き戻した。


「司令っ!! 各部隊への指示内容は、作戦部の方針でよろしいでしょうか?」

「あっ、ああ。その通りに進めてくれないか」

「……承知いたしました。オペレータ達は、直ちに担当部隊に方針を伝えるように!!」

「「「はいっ!!」」」


 陰陽寮から派遣された立花副指令の号令一下忙しなく動く隊員の中、唯一人佐藤だけは黙して微動だにせず、周りに気付かれないようそっと溜め息をついた。

 何故なら佐藤はこの中で地位こそ最も高いが、本部の誰からも信頼されていないお飾りの司令にすぎないのだから……。

 もっとも、佐藤だけでなく歴代の司令もまた張りぼてに過ぎなかった。

 文民統制の名の下に、内閣府より信任された者が軍部と言って差し支えない程の戦力、いやMCに対し日本で唯一と断言できる程の巨大な力を有する、この戦守学園の戦の最高責任者に務めるのだ。

 わざわざ佐藤が戦守学園に赴いているのは、正直言って内閣府の人気取りにすぎない。

 即ち、能力者達を国から任命された無能力者が統制すると共に、無能力者であっても能力者達と共にMCという困難に立ち向かっているという、日本国民全てに対するアピールなのだ。

 この場には能力者だけでなく、無能力者も多数存在する。

 ただし無能力者といっても、佐藤の様なお飾りとは一線を画す者達である。

 佐藤は国から命令されたせいで任期を全うするまで居座らざるを得ない、例えるなら飛ばされてやってきたものの、地位だけは高いがつ(・)か(・)え(・)な(・)い(・)厄介者のようなものだ。

 一方この場に従事する無能力者とは、熾烈な選抜試験を潜り抜けた優なる者達である。

 しかも国の未来を憂いMCという脅威に抗おうと様々な知見を得、研鑽を積んだ志高く熱意溢れる者達なのだ。

 ただ判然と謂われるままに任地に赴き、周囲に身を任せるだけで何もせず、時が過ぎるのを願うばかりの佐藤とは、比べること事態烏滸がましいくらいの傑物が揃っている。


「各部隊接敵しました!」

「各自、モニターを注視しなさい!! 救護班および控えている予備部隊にいつでも動けるように伝達を密にするように!」

「敵ゾンビおよびオニ共の数を順調に減らしているようです!!」


 そんな佐藤の思惑等お構いなしに、統合本部の何割かを占める巨大モニターの向こうでは激しい戦の火蓋が切られている。

 化物共の意味不明な咆哮。

 能力者達から発せられる炎や風、雷といった無数の超常現象。

 そして、それらが引き起こす大音と、顔を顰めたくなる破壊の痕。

 MCとの戦が始まって大凡30年。

 逃げ惑う事しかできず、化物のせいで身内から犠牲者を出した佐藤には忌避感ばかりが募っていた。

 戦いそのものでさえ、見たくないのだ。


「ネーレーイスの水撃で負傷者がでています!」

「!? 急いで援護部隊と救護班を出動させなさい!! 負傷者の救助を優先させるのよ!」

「「了解しました!!」」


 切れ者の女性副指令榊が矢継ぎ早に指示を繰り出す中、佐藤は己の恐怖と嫌悪感を吐き出さないようにするだけで精一杯であった。

 彼にとって画面越しの世界は、恐ろしい化(・)物(・)と(・)化(・)物(・)同(・)士(・)が戦っているようにしか見えなかった……。





「こんばんわ。午後六時、NEWSグローリーの時間がやってまいりました」

「こんばんわ。本日も日本各地で起こった様々なでき事をお伝えしてまいります」

「まずはT県の試験研究所にて、新品種の開発に成功したと発表がありました……」

 

 柔和な笑顔の壮年の男と若く溌剌とした雰囲気の女性キャスターが、日本全国のニュースを紹介し始めた。MCの出現によって世界各地に大きな被害がもたらされたが、幸いな事に科学技術は衰退せず発展を遂げていた。

 科学兵器に関してはMCに通用しないという事もあって停滞しているが、それ以外の分野にいたっては概ね進歩しており、殊に農業や建築分野の発展が目覚ましかった。

 大幅な人口減による働き手の減少、およびMCからの身の守りという事で、これも必要に迫られた結果という事だろう。


「……そして本日のMC出現状況についてですが、御神楽島以外での出現は確認できませんでした。前回の東京出現から30日程安全が続いている事になります」

「しかし、油断は禁物です。いつ何時MCが出現しても逃げられるよう、避難場所と避難経路を忘れないようにお願いいたします」


 この時代、MCとの戦闘は秘匿情報ではない。

 むしろ積極的に国民に発表しているといっていい。

 日本では神遊島にMCの出現が集中しているからといって、それ以外の場所に絶対に出現しないわけではないのだ。

 神遊島、正確には戦守学園で毎日戦闘を行っているのために、日本各地のMCの出現件数は年十数件。

 よしんばMCの出現が確認されたとしても、配備された能力者達によって迅速に排除され、被害も小さい。

 世界的にても最も安全が確保されている地域が、この日本なのである。

 ただし、安寧を受け入れ慣れきってしまえば、いざMCが出現した際の被害は悲惨な事になるだろう。

 それ故戦いを忘れないためにも、ニュース等で毎日MCの情報を流すのだ。

 もっとも、伝えるのはFCの情報だけではない。


「本日、神遊島で出現したMCは鬼、ネーレーイス、そしてゾンビの3種類です」

「戦守学園から防衛にあたって頂いた部隊名、および隊員はこの通りになっています」

「まず、MCとの命懸けの戦いに身を投じてくれた皆さんに、感謝の意を表したいと思います」

「皆さん、いつもありがとうございます」

「「「ありがとうございます!!」」」


 戦った隊員達の情報も公開されるのだ。

 法の下とはいえ、実質徴兵したのと変わらない少年少女達に対し、自分達の代わりに戦ってもらう感謝の気持ちを忘れないためであり、MCという化物に蹂躙される事しかできない無能力者が、年端もいかぬ子供達を戦いに従事させる後ろめたさを、感謝を捧げる事で少しでも緩和させるために行っているのだ。

 何しろ能力者は、人口比にして発生率は数千人に一人という低確率であり、例外を除いて20歳前後で力を失うのだ。

 加えて近代兵器が通じないMCには、超常現象を操る能力で抗するしかない。

 必然的に少年少女が矢面に立たざるを得ないのだ。


「今回は部隊ランキング上位の部隊が強敵を受け持つと共に、新人を教導しつつ出現した中で最も弱い敵と戦ったようですね」

「新人の部隊はまだ固さが取れきれない様子で負傷する場面もありましたが、経験豊富な部隊の助勢もあり、最終的には見事な勝利を収めています!」

「こうして、新人の皆さんが成長している姿を見るとうれしくなりますね。日本の未来は、ある意味彼等の双肩に掛かっているともいえますからね」

「神遊島が、戦守学園があるからこそ、私達がここまで安全に暮らせるのですものね」

「先程の発言は、決して無理強いするつもりではありませんが、無能力者である私達ではMCのカモになるですからね。戦守学園の生徒の皆さんの怒力と尽力には、唯々頭が下がります」

  

 司会者達の後ろでは、本日の戦闘の様子が映し出されている。

 悍ましくも恐ろしいMCの姿が恐怖を喚起し、見る者の心胆を寒からしめた。

 だがそれと同時に、醜悪な化物達を生徒達が打ち倒していく痛快で胸に希望が灯る。

 

 人類は消して負けてない!

 MCさえも倒せるのだと!!


「さて、ここでMC研究家の田中敦教授(せんせい)をお呼びして、解説をお願いしたいと思います」

「田中教授、本日もよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします。それではMP(戦闘力)ランク順に、紹介していきましょう。まずは最下層、Fランクのゾンビです」

「なんというか、とても醜く汚い姿ですね」 

「皆さんも映画やゲーム等でお馴染みの怪物ですが、有体に申し上げると腐った死体が動いているもの、と思ってもらえればいいでしょう」

「腐った死体ですか。あの醜い姿だけでなく、臭いもすごいでしょうね」

「ええ、動画内において時折顔をしかめる生徒もいた様に、死臭といいますか、とてもひどい悪臭がします」

「それは、戦って頂いた皆さんには申し訳ないですね」


 苦笑いの壮年の司会に対し、白髪ながら矍鑠とした姿の田中は無言で肯定の意を示すと補足し出した。


「ゾンビのMPは5~10。力はとても強いですが、動きは鈍重です。例え遭遇したとしても、走って逃げる事もできるでしょう。ただし、爪や牙に毒があります。映画の様に噛まれたらゾンビになる、なんて事はありませんが、万が一噛まれると痛みで動けなくなってしまうので注意が必要です」

「人間の成人男性のMPが凡そ1から2、アスリートや格闘家等では5に到達する場合もありますから、もしかしたら無能力者の私達でも倒せるのでしょうか?」

「そうですね。最弱のFランクであれば、無能力者の私達でも武器を持ち、かつ複数で対処すれば、倒す事も不可能ではありません」

「おおっ、それは希望がもてますね!」

「ただし、敵が1、2体程度であれば、という条件は付きます! ゾンビは一度に多数出現する事も報告されておりますので、基本的に戦わないのが一番でしょう」

「それは、つまり?」

「まあ逃げるが勝ちですな」 


 田中の身も蓋もない意見に、乾いた笑いが起こった。

 一瞬でも無能力者でも対処できるかと希望を持たせ、即座に切り捨てたのだ。

 まあ、下手に戦おうとして被害が拡大したら目も当てられないので、田中の主張は間違いではない。


「先程私は最弱のFランクならば、条件付きで無能力者でも勝てると申し上げましたが、例え運良く倒せたとしても無傷で済むとは限りません」

「そうですね、やはり逃げるのが一番でしょうね」

「政府から配布されているMC対処マニュアル、そしてお住まいの地域の避難場所を確認し、有事の際はお間違いのないようにお願いいたします」


 TVの向こうのできごとといえど、毎日戦闘シーンを流しキャスター達が真に迫った顔で忠告を続ければ、楽観視できる者は少ない。

 明日は我が身と、深刻に受け止める者が大多数を占める。

 国民が怠惰に流され、自分が安全だと過信しないよう、政府は各番組にMCの危険性を周知徹底する様に義務付けているのである……。










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