怪しさ漂う初日
まだ主人公は軽い気持ちで過ごしてます。
採用された私が配属されたのは、日配部門だった。
他の部門も求人してたけど、店舗として採用した後に配属先を決めるスタイルだと、面接時に説明されていたから別に文句は無い。
採用は履歴書の提出と当たり障りの無い雑談な面接でほぼ決まり、希望や得意分野も訊かずに配属先を決めた辺りに違和感は覚えたけど、まぁ珍しいと言うほどの事柄じゃなかったし。
このスーパーでは、「日配」とだけ言えば、トイレットペーパーや洗剤なんかを扱う常温商品の部門だった。食品は扱い無し。
要冷蔵の牛乳他乳製品やノンアルコールの紙パック飲料、デザート類や豆腐、蒟蒻、冷凍食品なんかを「冷日配部門」と呼ばれる部門が扱ってる。
因みに、常温の食品(パンや菓子類や乾物)、卵、酒類含む嗜好飲料や調味料などは「グロサリー部門」が扱ってるそうだ。常温で置けるけど、生卵ってグロサリー商品かな? 生鮮食品じゃないっけ?
グロサリー部門の冷蔵ケースは小さいのが一つだけ。要冷蔵じゃない商品だけど、冷えたのを買いたいお客さん用に酒や飲料を冷やしておく為。あと、要冷蔵のお酒の為。
え? 足りなくない?
ペットボトル飲料が常温で紙パック飲料が冷えてるなら、確かに消費期限の短い紙パック飲料を選ぶ人は増えるかもしれないし、店としては好都合かもしれないけどさぁ。
紙パック飲料が自社工場の製品多いから?
この辺の「部門の分け方」は、他のスーパーでも会社によって微妙に違うものではあるけれど、このスーパーは何か変?
他にも色々馴染みのない分け方があって、お客さんにもちょっと分かりづらそう。
それは置いといて、私は経験上、扱う商品の内容から「冷日配部門」の方が「日配部門」より重労働じゃないかと、聞いた時には思った。
そりゃ、紙類だって重いし嵩張るし、洗剤だって重い。
そっちも勿論、大変は大変だけど、要冷蔵の紙パック飲料や豆腐や蒟蒻をケースで上げ下ろしするのは、重いだけじゃなく手から体が冷える。冷凍食品なら、もっと冷える。冷え続けると、同じ重量でもダメージを受けやすい。
まさか、「重いからバラで運んでいる」なんてことは無いだろうし、見れば完全防備をして作業してるなんて事も無い。装備は普通の制服と薄い軍手一枚だ。
それに、お馴染み「冷凍庫閉じ込めリンチ」が一番やりやすい、冷凍食品だって扱っているじゃないか!
アレ? 冷凍庫閉じ込めリンチって、冷凍庫がある職場なら何処でもやる事じゃなかったっけ?
私の感覚、ちょっと麻痺して来てるわ。
あちこち脱線したけど、私が何を言いたいかというと、「冷日配部門」は求人を出して無かった。というか、出す必要が無かったんだと思う。「冷日配部門」はベテランさんで固められていて、もう何年も人の入れ替わりの無い部門らしい。
なのに、「日配部門」は出していた。出す必要があったってこと。
しかも、初日から小耳に入って来た噂によれば、「今度は何日もつかな」とか「今年何人目だっけ?」とか不穏な雰囲気バリバリモリモリ。
どういうことよ?
やけに簡単に採用されたと思ったけど、「とりあえず見るからにヤバそうな人間じゃなければ採用」の判定が下りるくらい、人が足りなかった気配がムンムン。
他にも人が足りない部門が幾つもあるっぽい。
でも、足りなかった、というか、寄り付かなかった、とか、定着しないとか。その辺が正解な予感?
アチャー、マズったな〜。
が、現在の心境。
コレ、「書ける経歴」にならないかも。
お仕事じゃないのに、調査先に潜入した時みたいな気持ちに「自分の中」が切り替わっていく自覚もあるし。
まぁ、入っちゃったし、何か得てから辞めてもいいよねぇ。
今は何処からも依頼を受けてないし、依頼人様方との交渉材料の備蓄を増やすと思えば徒労じゃない筈。
そう気を取り直して向かった「日配部門」で出会ったのは、噴き出すのを堪えなきゃならないほどに、過去の調査対象達と同類な輩だった。