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番外編10 フィンの馴れ初め

私事ですが、ちょっとした病気になってしまい一年半更新が止まって申し訳ありません。


『女性には優しく』

それが俺に最初に刻まれた教訓だった。


3個上と一個上の姉、2個下と4個下の妹。

俺は女に囲まれて過ごしてきた。

兄も2人いるが、どちらも年が離れている。

つまり姉達や妹達に理不尽な行為を受けるのは全部俺だった。そんな俺が女性の扱いになれるのも女が嫌いになるのも当然のことだと思う。

だから、俺は16になってすぐ家を出た。

貴族に生まれても嫡男でないと平民と変わらない。

俺には剣の才能もなかったため、侯爵家に就職した。

侯爵家のような高位貴族の使用人は貴族の生まれのものも多く、気位の高いメイド達もたくさんいたが、持ち前のスキルで上手くやり過ごしていた。


「おい、フィン!新しく入ってきたメイドの子見たか?」


「まだ見てない。どうした?お前の好みだったのか?」


同僚の興奮した様子に俺は若干引きながらも尋ねると、


「いやまあ、顔立ちも整ってるんだが、それよりも!身体つきが超エロいんだよ。何カップあんだってくらい胸がでけーの!」

結果もっと引くことになった。


俺は全く興味を持てず、すぐにそのメイドのことは忘れた。

配属も違ったため、それから会うこともなかったのだ。



「この女狐!!」

だから彼女と初めて会ったのはそんな暴言と共に水をぶっかけられる音が聞こえた時だった。

ただならぬ空気を感じ、音のしたところまで来てみると、数人のメイドが1人のメイドを囲んでいた。

痴情のもつれか?

そんな事を考えながら近づいてみると、


「何を勘違いしてるか知らないけど、こんな事するってことは同じことされる覚悟はできてるんでしょうね?」

気丈に彼女は濡れた髪を掻き上げながら相手を睨みつけていた。

「な、何よ!平民のくせに!!」

その圧に気押されたのか水をかけた女は捨て台詞のような発言をしてその場を走り去っていった。

取り巻きのような女達も一緒にだ。



「全く。貴族のお嬢さん達は気位が高いわね。」

呆れたような声を出しながら、彼女は一部始終を隠れて見ていた俺の方へ視線を移した。


「で、貴方は誰?」


「同僚。」

俺は簡潔に答えて、慣れている彼女にハンカチを差し出した。

「おせっかいな同僚さんね。」

ハンカチを受け取りながら、彼女は少し笑った。

初めてだった。

女を可愛いと思ったのは。


「俺はフィン。あんたは?」


「ユラよ。貴方が女たらしで有名なフィンなのね。」


俺の悪い噂が彼女に伝わっていたようで俺は若干焦る。


「いや、別にトラブル起こさないように親切にしてるだけで…!そういう気はマジでない!」


言い訳がましい発言になってしまって我ながら情けない。


「ハンカチありがとう。洗って返すわね。」


俺の焦った様子を見て彼女は笑いながら、その場を後にした。

我儘な女、女王様気質の女、かまってちゃんな女。

色んな女に囲まれてきた俺にとって彼女は異質だった。


その後、配属の整理があって同じ所になりなんやかんやで仲良くなっていったのだ。

ユラは知れば知るほど魅力的な女性だった。

だからだろうか。

ユラはモテた。非常に。

ユラに近づく男共を蹴散らすのは本当に大変だった。

その上、本人は全く気づいていない。

美人で賢くて仕事もできる。

いつもは無表情なのに不意に笑った時のギャップが男を沼らせるということに気付いてほしい。


「あー、なんかの間違いでもいいから俺のこと好きになってくんないかな。」


「フィン、好きな人いるの?」


俺がふと呟いた一言に反応があった。

慌てて振り向くと、驚いた様子のユラがいた。


「何でいるんだよ!」

思わず叫ぶと、

「休憩時間にどこにいようと勝手でしょ?」

ユラはそう言って俺の隣に腰掛けた。

「で、どんな人?」


「お前にだけは絶対言わない…。」

俺は赤くなった顔を隠すように下を向きながら小さく呟いた。



それからというもの、ユラはやたらと俺に好きな人について聞いてきた。それ聞かれる度に脈なしだと分かるから聞いてこないで欲しい。

正直傷つく。

そんなある日、休みの日に俺は街を彷徨いていた。

特にやることもなく、ただ歩いていると見慣れた後ろ姿を見かけた。

直感的にユラだと分かり、話しかけよう思った瞬間のことだった。隣に男がいるのが分かったのは。

いつもあんまり笑わないくせに楽しそうに笑っている。

俺は頭を殴られたかのようなショックを受けてそのまま飲み屋に向かった。



「俺結構良い男だと思わない…?」

酔っ払って泣きながら店主に絡む。


「今まで散々女を泣かせてきた天罰だな。」

顔馴染みだからこそ、店主は冷たい。

何気に初恋だったというのに。

もう少し優しい言葉をかけてくれても良いと思う。


「別に泣かせてないし。もう俺無理。軽く死にたい。」

そう言いながら机に突っ伏していると、隣に誰か座ったのが分かった。


「何?俺を慰めてくれるわけ?それとも罵倒しにきたのか…?」

いわゆるウザ絡みというものをしようと、相手に話しかけた。

「慰めてあげようと思って。」

聞き慣れた声に俺は顔を上げた。

そこにいたのはユラだった。


「……。何でお前ここにいるんだよ。」


「貴方割と有名人なの自覚ある?失恋したらしいって街で噂になってたわよ。」

呆れたようにユラは言う。

誰のせいだと思ってるんだ!

と言いたくなるのを我慢して俺はグラスを飲み干した。


「失恋なんてよくあることよ。私だって最近したばっかりだし…。」

ワインのおかわりを頼もうとしていた所にユラの爆弾発言があった。


「は!?お前今日恋人と歩いてただろ!」

俺を慰めようとしてくれているのかもしれないが、俺には逆効果だ。


「違うわよ。あれは兄。気になる人ができたってプレゼント選びに付き合わされただけ。」


「へ?」

じゃあ俺は失恋してなかったってことか?


「傷心中に言うのはずるいかもだけど。私じゃだめ?」

畳み掛けるようにユラはそう言った。

まだ酒は飲んでないはずなのに顔は真っ赤だ。


「ちょっと待て。脳が追いついてない。」

今日一緒にいたのは兄で最近失恋をした。

ということは……。

「お前、俺のこと好きなの?最近失恋したのって俺に?」

恐る恐る俺はユラに聞き返した。


「だったら悪い?」

その瞬間、俺はユラを抱きしめた。

「ちょっ、何?どうしたの?」


「俺が好きなのは……ユ…。」

間の悪いことに俺は意識を失った。



次の日、二日酔いによる頭痛と共に俺が目覚めたのは自分のベッドの上だった。


「目が覚めた?」

まだ寝ぼけていると、不意に部屋のドアが開いてユラが入ってきた。

「貴方が酔い潰れるから店の人が運んでくれたの。今度あったらちゃんとお礼言いなさいよ。」

呆れたようにユラは俺にコーヒーを渡してくれた。

それを一口飲み、やっと俺の脳は覚醒した。


「俺、1番大事な瞬間から記憶ないんだけど。」


「そうね。もう少しで貴方の好きな人が聞けそうだったのにそのまま寝ちゃうんだから。」


「待って。ユラは俺のこと好きって言うのは事実?俺が勝手に捻じ曲げただけってことではない?」

念の為に確認を取りたい。

あれが俺の幻想なら完全にイタイ奴だ。


「本当よ。貴方はただのちょっと仲の良い同僚くらいにしか思ってないでしょうけど。」

ユラは俺を鈍感と言いたげな目線で見てくる。


「俺が好きなのはお前だよ!失恋したのもお前に!!」

俺はヤケクソになって叫んだ。

このまま誤解されたら俺があまりにも可哀想だ。


「は?」


「昨日、お前が男と歩いてたから…。恋人かと思ったんだ。」

ユラは驚いたのかしばらく固まっている。


「で、でも!私に好きな人いるって言ったじゃない!!」


「俺の独り言をお前が聞いてただけだろ!?」


「じゃあ私たちお互いに勘違いしてたってこと?」


ユラは信じられないといった様子でその場に崩れ落ちた。

私の今までの苦労は?

1日泣いて過ごしたのに。

とかなんかちょっと可愛い呟きが聞こえてくる。


「こんな格好つかない状況で言いたくないけど、俺と付き合ってくれませんか?」

また空回ったら洒落にならない。

俺はベッドから降りてユラの手を取りながら言った。

「よ、喜んで…。」




「とまあ、紆余曲折あって俺たちは付き合い始めたわけです。」

お嬢様にねだられて俺はユラとの馴れ初めを白状させられていた。


「今度ユラからも聞いてみるわ!人の恋愛話って聞いてて楽しいわよねー。」

お嬢様はうっとりした様子で微笑みを浮かべている。

この様子だときっと結婚した時にはプロポーズの事まで話させられるかもしれない。

そう思って俺は苦笑したのだった。





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