魔物討伐 4
「これからは殿下って言った方がいい?」
「……。やめろ。気味が悪い。」
私が軽口を叩くと、ゼンは少し驚いたようだったが笑ってそう返してきた。
「で、何か対策はないの?王太子殿下!」
ギリギリで魔物の攻撃をかわしながら尋ねる。
「文献によると、闇魔法の使い手が現れると必ず聖女が現れる。だから、今もきっと近くにいるはず…。というか、その呼び方やめろ!!」
切羽詰まっている状況でも揶揄うことに余念のない私にゼンは呆れたような視線を向ける。
「その聖女サマがいればなんとかなるのね…?」
私は知っている。その聖女が誰であるかを。
というか、本人も知っているはずだ。
きっとこの時が来るのを今か今かと待ち侘びていただろう。
彼女がいればこの窮地は救われる。
魔物は一匹残らず駆逐され、傷ついた人々も回復する。
ハッピーエンドってやつだ。
でも何故だろう。
躊躇ってしまう。聖女を知っているとゼンに言いたくないと思ってしまう。
ただの平民が聖女が誰か知っているのはおかしいから?
今目の前にいる魔物を倒すことが最優先だから?
多分違う。
私は知っているからだ。
聖女として認識された彼女が王太子妃になることを。
ゼンの隣に彼女が立つことを受け入れられない。
私は……。
私は、ゼンが好きだから。
「おい、お前!危ないっ!!」
考え事をしていたからだろう。私の目の前に魔物が迫っていた。
これは避けられない。
そう思って目を瞑り、衝撃を覚悟した。
運が良くて瀕死。悪ければ即死だろう。
でも、いつまで経ってもそれはこなかった。
嫌な予感がしてすぐさま目を開ける。
「ゼンッ!!」
そこには真っ赤な血に染まったゼンが倒れていた。
頭が真っ白になり、涙腺が壊れたかのように涙が溢れ出る。
「俺に構うな……。魔物はまだ死んでない…。」
今にも意識を失いそうなゼンはそう言って私の涙を拭った。
ゼンが攻撃したのだろうか、魔物は致命傷を負っているようだった。
格段に動きが鈍くなった魔物の額に向かって短剣を投げつけ、魔物は絶命した。
「貴方が私にしてくれたように魔法は使えないの!?」
今からミリアナを探しても間に合わない。
でもゼンは回復魔法が使えるはずだ。
「自分に回復魔法は使えない…。」
ゼンは魔法を維持できなくなったのか、髪の色と目の色が元の色に戻ってしまった。
それがゼンの容態の悪さを表しているようで、私の心は焦りと動揺で溢れる。
「今からでも聖女を探してくるわ!いいえ、先に救護テントに行かなきゃ…。きっと大丈夫よ…。ね…?」
どうしたら、ゼンは助かるだろうか。
震える手を押さえ込みながら考える。
冷静に…、冷静にならないと。
そう言い聞かせる度に自分が冷静ではないことが分かるのに止められない。
「落ち着け…。俺はもう助からない。ここに置いていくのが最善だとお前なら分かるだろ?」
私を嗜めるようにゼンは優しい声色で、なのに私にとって1番残酷なことを言ってきた。
「嫌よ……。嫌よ!意地でも連れていくわ!!お願いだから…お願いだからそんな事言わないで……。」
「ここは血の匂いで溢れてる。近くにいる魔物が寄ってくるかもしれない。そうなったらセリスも危ないだろ?」
段々ゼンの声が弱々しくなっていくのが分かる。
それがどうしようもなく悲しくて私はその場から動くことができなかった。
「早く行け…。お前まで死んだら俺は悲しい。俺はお前が……」
ゼンは何かを言い終わる前に意識を失った。
「ゼンッ!!起きて!起きてってば!!」
肩を強く揺すってもゼンは起きない。
こんなはずじゃなかった。ゼンは死なないはずなのに。
私が原作を変えてしまったから?
私がミリアナを呼ぶのを渋ったから?
「お願いよ…。私はどうなってもいいから彼を、ゼンを助けて……!!」
そう叫んだ。
その瞬間のことだった。
自分の体が暖かな光に包まれたのは。
そしてその光が消えたと思ったら、自分に何かよく分からない力がみなぎっているように感じた。
何も分からない。
ただ、無意識に手をゼンの傷口に当てた。
すると、見るも無惨だったその傷は元々傷なんてなかったかのように綺麗に治った。
「えっ?」
あまりの出来事に驚きの声を上げたと同時に、私は意識を失った。




