第二王子との出会い
私は慌てて跪いた。
「第二王子殿下にお会いできて誠に光栄でございます。」
一つ一つの行動が不敬罪に問われてしまうかもしれないから気をつけないと。
「ああ。」
それにしても、第二王子がバラの咲き乱れる中庭にいるなんて意外だな。
なんか、ずっと部屋にいるか剣の鍛錬してるイメージなんだけど。
そして、そんな私の心を読み取ったかのように、
「私がここにいるのは変に思うか?」
と、第二王子は聞いてきた。
「えっ、いや…、別にそんな!」
図星すぎて私は慌てる。
えっ、逆鱗に触れたりとかしてないよね?私、罰されないよね!?
私の不安とは裏腹に、第二王子はあまり気にしていない様子で、
「ここの中庭は私の母が好きだった所だからな。よく、自分で手入れしていたりしたんだが。」
と呟いた。
第二王子の母親。
アスタリア王家は基本、一夫多妻制ではないが、結婚してから4年間子供が生まれなければ強制的に側室又は妾を娶らないといけない決まりだ。
今の王妃殿下は中々子供が生まれず、王妃殿下を溺愛している国王陛下は渋々妾を作った。
その妾が第二王子の母親というわけだ。
だが、その翌年に王妃殿下は妊娠し、第二王子殿下の母君も少し後に妊娠が分かった。
つまり、結局王妃殿下の子供が第一王子として生まれたわけだ。
そして、第二王子殿下の母君はその6年後に病気で亡くなってしまった。
そっか。だから中庭に来てたのか。
意外なんて思ってしまって少し後悔してしまう。
「素敵な母君ですね。」
第二王子の横顔があまりにも悲しげに見え、思わず声をかけた。
だが、
「ふっ。」
私の言葉を聞いた第二王子は自嘲気味に笑った。
「周りは国王陛下に色目を使った女狐などと言うがな。その息子である私も卑しい血の混じった無能の王家の恥とよく陰口を叩かれているが。」
酷い…。
その酷すぎる言い様に私は怒りを通り越して、逆に冷静になった。
そして、
「そんな事を言った人達は馬鹿ですね。」
私ははっきり言った。
「いや、周りから見たらそう見えるのも仕方がないだろう。」
第二王子は私の言葉をやんわりと否定した。
もう、諦めているのだろう。
そう割り切ってしまわないと、納得できないんだろう。
でも、私は反論した。だからこそというべきかもしれない。
「いいえ。第二王子殿下の母君は国王陛下が直々に選ばれたお方なのですから、聡明で素晴らしい方に違いありません。今の国王陛下は自分の部下などを選ぶのにも良い目をお持ちなので。そして、その素晴らしい母君とその血をひく第二王子殿下にその様な陰口を叩いた人は馬鹿、いや頭が壊れているに決まっています。」
だんだん、怒りが倍増してきて最後にはかなりの暴言を吐いてしまった。
言い終わった後の私は多分不敵な笑みを浮かべていた事だろう。
対する第二王子は目を見開いていたが、
「ふっ…。」
突然笑い始めた。
「お前は…面白いな…!そんな遠慮なく貴族に暴言を吐く奴は初めて見た。ふっ…。」
そして、私はほぼ素の状態で話していたことに気づき、
「も、申し訳ありません!」
慌てて頭を下げた。
怒りが大きすぎると、それ以外に気を配れなくなるのは私の悪い癖だ。
「いや、いい。お前のおかげですっきりした。礼を言う。」
第二王子はそう言って笑った。
「い、いえ…!」
私はその笑顔にノックアウトされてしまった。
や、やばい…。笑った姿が超可愛いというかまさに天使すぎて!!
破壊力が…!!
こんなの鼻血が出てもおかしくないよ…!
かなりの精神的なダメージを受けていると、
「実をいうと、全てを諦めかけていたんだが、見返してやらないと気が済まなくなった。目を背けていたことにも向き合ってみようと思う。で、最後に聞きたいんだが。お前の名は?」
第二王子は晴れた表情で聞いてきた。
だから私も笑って、
「私の名はセリスです。」
堂々と答えた。
「覚えておこう。」
第二王子はその一言を残してその場から去っていった。
「セリス!城の中は楽しめた?」
時間は過ぎ、アルと合流する時刻になった。
「ええ。まあ予測し得ない事もあったけど楽しかったわ!」
まさか、第二王子と会うとは思ってもみなかったし。
でも、私の言葉で少しでも気分が晴れたなら嬉しいけどね。
「それは良かった。今からは結構長いからね。お互い頑張ろう。」
「もちろん!」
私達はそう言って昨日とはまた違う会場へと足を踏み入れた。
「アルフレッド・モンフォール様。お久しぶりです!!」
「アルフレッド様!少しだけお話を!!」
「アルフレッド様!!」
アルは昨日よりも大人気だった。
昨日は大人も含めたパーティーだったけど今日は同じ年頃の人しかいないから、遠慮もなくなるのかもしれない。
これは、仕事が大変になりそうだわ…。
そう思った矢先のことだった。
「ご挨拶してもよろしいですか?」
1人の少女の声が聞こえたのは。
そして、優雅にこちらへと歩いてきた。
誰かというと…。
もちろん、ミリアナだ。
私は心の中ではぁとため息をつく。
やっぱり来たのね。
ミリアナも侯爵令嬢だから、後ろに護衛を連れてるけど…。
ガタイのいい強そうな男だ。
だからか。他の人達がミリアナのために道を開けてるのは。
「お会いできて光栄でございます。イーディス侯爵家が三女。ミリアナ・イーディスでございます。」
ミリアナは可愛らしい笑顔でそう言った。
これは、どんな風にしたら1番可愛く見えるか計算してる顔ね。
流石、逆ハー目指してるだけのことあるわ…。
「僕はアルフレッド・モンフォールです。よろしくね。」
アルも爽やかな笑みで答える。
そんなアルにミリアナは大胆にも
「よければ、少しお話ししませんか?社交界は初めてなので、慣れないことも多くて…。」
そう言った。
守ってあげたくなる不安そうな表情で。
それを見た私は、
もしかして前世では元女優とかですか?
演技力ありすぎでしょ。
と思ってしまった。
だって、もうあざといを超えてるよ!?
それでも、
「申し訳ないんですが、この後は友人と話す約束をしていますので。」
アルはやんわりと断った。
レオさんと話す約束してるのかな?まあ、これはミリアナの作戦不足だね。
どんなに可愛くたって、初めて会った令嬢とアルが約束するわけな…
「では、その後少しだけお話できませんか?」
にも関わらず、ミリアナは諦めずに尚も言い募ってきた。
いやいや、しつこすぎでしょ。
アルもまさか、まだ引き下がらないとは思っていなかったらしく少し困った表情をする。
よし。確か、護衛対象のトラブルを収めるのも騎士の役目だもんね。
「申し訳ありませんが、アルフレッド様には先約がございますので、もうよろしいですか?」
私は一歩前に出てそう言った。
ここで私を初めてミリアナは見た。
全く違う外見とはいえ、この姿で会うのは初めてだから私は緊張していた。
そして、ミリアナは何故か嫌な顔をした。
でもすぐ笑顔になって、
「分かりました。引き止めてしまい、申し訳ありません。」
そう言った。
そして、私とアルはアイコンタクトを交わしながらその場を離れた。




