ヒロインの狙い
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パーティーも終わりに近づいた頃、
「セリス!」
アルがこっちにやってきた。
「やっと、厄介な挨拶回りが終わったよ。」
アルは疲れた様子というか、うんざりしているように見えた。
「それはそれは。お疲れ様です。」
私は少しからかってやろうとそんな言葉を返すと、
アルは、
「今は誰も見てないし聞いてないからその敬語やめない?さらに疲れるよ。」
そう言ってため息をついた。
「ふふ。お疲れ様。どうせ、いろんな人から娘を婚約者にって勧められたんじゃない?」
公爵家の嫡男で第一騎士団所属。こんなに将来有望な人を放っておくわけないしね。
「その通りだよ…。放っておいてくれればいいのに。」
アルが不満げに呟く。
そんなアルに私はずっと思っていた疑問をぶつけた。
「前から疑問に思ってたんだけど、どうして婚約者がいないの?高位貴族は小さい頃に婚約するのが普通だと聞いたけれど。」
原作ではあんまり触れられてなかったけど、一応マリアンヌにも婚約者がいるらしいし。
アルはちょっと困った顔をしたと思うと、
「あー…。それは、王太子殿下が原因なんだよ。」
歯切れ悪そう言った。
「王太子殿下が?」
そういえば、王太子にも婚約者はいなかったわよね?
「小さい時に何度も婚約の話が出てたらしいんだけど、王太子殿下はちょっと無愛想っていうか、全く相手に興味を示さなくてね。全て成立しなかったんだ。それで僕の父が『王太子殿下に婚約者がいらっしゃらないのに私の息子に婚約者をあてがうわけにはいかない!!』って言い出して…。今に至るんだ…。」
アルは嫌な事を思い出したと言わんばかりに額に手を当てる。
「それは…。とんだ災難ね。」
アルの場合は女性が嫌いっていうわけでも無さそうだし、そのせいでいろんな人からアプローチされるのは可哀想としか言いようがない。
私の言葉にアルは色々思い出したのか、
「なのに、自分はそういう紹介を全部巧みに交わしてるんだよ!?ひどくないか!」
余程恨みがあるのか、感情的に言葉を吐く。
「はいはい。まあ、それは心底同情するわ。というか、アルにそれだけ言わせる王太子殿下ってどんな人なの?」
私は顔も見た事ないし、ちょっと冷徹な所があるって事しか知らないんだけど。
私の質問にアルは何故か動揺し出した。
「えっ、あっ。ふ、普通かな…?」
「普通って何よ。さっきまで愚痴ってたでしょ?」
なんか隠し事でもあるの?
そう思って、ジーっとアルを見ていると、
「いや、まあ、無愛想だけど完璧!みたいな?」
焦ったようにそう言った。
無愛想だけど完璧…。
それって、、、
「なんか、ゼンに似てるわね。ゼンも初対面の時は無愛想だったし。色々と完璧だし?」
私が言うと、
「いや!似てないと思うよ!」
すぐに否定してきた。
それもさっきよりも焦ってるっぽいし。
「さっきからどうしたの?怪しいんだけど。」
ちょっと似てるって言っただけなのに。
「いや、こんな話してると王太子殿下にバレたら怒られるから!めっちゃ怒られるから!」
アルはめっちゃ焦りながら、それでも必死に言ってきた。
「そうなの?そういう事なら、突っ込んでは聞かないことにしとく。」
王太子殿下は冷徹な人らしいし、悪口を言っていた事がバレるのが怖いんだろう。
「そうしてくれると、ありがたいよ…。」
アルは安心したように肩を撫で下ろした。
すると、
「ご挨拶よろしいですか?アルフレッド様。」
聞き覚えのある声がした。
それもそのはず。そこにいたのはレアナだった。
「あぁ、レアナ嬢。」
その瞬間、アルの顔は明らかに強張った。
もしかしてレアナのことが苦手?
「お久しぶりですわね。1年前の会合以来でしょうか。アルフレッド様は中々パーティーにはいらっしゃらないから。」
レアナはそんなアルを気にも止めず、優雅な仕草でそう言った。
「騎士団の仕事が忙しいくてね…。レアナ嬢は今年、学園に入学したみたいだね。入学、おめでとう。」
2人の会話から察するに、2人には親交があるらしい。アルは苦手っぽいけど。
「ありがとうございます。あっ、そういえば今日もアルフレッド様は御令嬢方に大人気でしたわね。まあ、奥の手を使っていたようですけど。」
にっこりレアナは笑った。
ん?奥の手?
レアナの言葉にアルはギクッとしたように固まる。
「あのような御令嬢に囲まれるのは大変でしょうが、そちらの騎士殿を口実にするのは如何なことかと思いますが。」
レアナは続けた言葉に私はハッとする。
そして、ジロッとアルの方を向くと、アルはしれっと視線を外した。
こいつ、私を使って令嬢達を追い払ったわね。
そんな私達を見たレアナは、
「それでは、私はこの辺で失礼したいのですが、少しだけ騎士殿をお借りしても?」
アルに笑顔で尋ねた。おそらく、本題はこっちだろう。何か、話したい事があるに違いない。
「知り合い?」
アルは不思議そうに聞いてくる。
まあ、アルにとって全く接点があるようには見えないだろうし、この質問は妥当だ。
「先程、貴族の令息方に絡まれているのを助けていただきましたので。」
でも、私は即座にそう答えた。
さっき助けられたのは本当だし。嘘は言ってないよね?
私の言葉に納得したのか、
「もうそろそろパーティーは終わるし、別にいいよ。」
アルはそう言ってくれた。
「ありがとうございます。」
レアナはアルに一礼をして、私に話しかけてきた。
「ちょっと、お話いいかしら?」
私は、
「もちろん、構いません。」
そう答え、レアナに促されるままに歩き出した。
「一応、仕事中なんだけど。何かあった?」
レアナのことだ。何かあったとしか考えられない。
「会合では公爵家の身分の人達と王族に招待された特別な人達は王城に3日間泊まれるって知ってる?」
レアナはアルから少し離れた所で止まると、そう聞いてきた。
「一応ね。私もアルの護衛として泊まる予定だから。」
知ったのは2週間ほど前の事だけど。
「それでなんだけどね、第二王子がイーディス侯爵家を招待したのよ。もちろん、ミリアナを含めてね。」
レアナは深刻そうに言った。
「え?それは本当なの!?」
原作ではまだそんな仲に発展していなかったはず!
展開が…変わった?それも私にとって悪い方へ。
「ええ。私がこの目で見たから確かよ。このままじゃ、あの子が第二王子の婚約者になるのは時間の問題じゃないかしら。」
おかしい。おかしすぎる。
ミリアナは一体何をしようとしてるの?
ミリアナはきっと原作通りに動くと思っていた。
誰のストーリーにするか分からなかったけど、第二王子との出会いイベントをしていたから、このまま原作通りに第二王子ルートをいくんだと思ってた。
でも、もしかしたら…。
逆ハールートを自分で生み出そうとしてる?
その答えに辿り着くと全ての謎が解ける。
こんな早い展開で第二王子とこの仲の良さ。全員と恋愛しようとしてるとしか考えられない。
今日、王城に泊まるってことは…。
王太子とアル狙い?2人とも王城にいるし、絶好のチャンスじゃない!!
「中々、やるわね…。」
私が呟くと、
「そうね。かなりのやり手だわ。それに王太子殿下にも手を出そうとしていたしね。」
レアナが気になる一言を言った。
「どういう意味?」
私は今日色々とありすぎて王太子の姿を見ていない。ミリアナもだ。
「第二王子殿下がミリアナから少し離れていた時に、王太子殿下に挨拶しに行っていたわ。それはもう健気な少女アピールをしながらね。」
まあ、王太子殿下は興味なさげにしてらっしゃったけど。と付け足してレアナは言った。
だとしたら…。ミリアナの狙いは…。
「ミリアナの1番の狙いは王太子殿下よ。第二王子殿下は王太子殿下に近づくための駒と言ってもいいかもしれない。」
私の言葉にレアナは一瞬息を呑む。
「まさか…!そんな事をすれば王族侮辱罪に値するわよ!?」
「今、第二王子殿下はミリアナに夢中よ。気づかれることはほぼないわ。恋は盲目って言うでしょ?」
何をしたかは分からないけど、今の第二王子はミリアナに洗脳されてるって言っても過言じゃないほどミリアナに夢中だ。
「それはそうかもしれないけど…。とりあえず、私もセリスも今夜ここに泊まる訳だし、様子を伺いましょう。」
レアナはそう言って私の手を取った。
「セリスは仕事とかで忙しいと思うけど、お互い頑張りましょう!」
「ええ。じゃあ、また明日ね。」
私達はそう言ってわかれた。
「話は終わった?」
アルはさっきの場所で立っていた。
「仕事を疎かにしてしまい、申し訳ありません。」
私が言うと、
「別にいいよ。なんともなかったしね。」
アルは気にしてないというふうに笑った。
だから、
「じゃあ、遠慮なく話を戻しますね。私をどのように紹介したのかな?」
私はにっこり笑って尋ねた。
アルは途端に焦りだし、
「いや、仲良くしてる同僚だって紹介しただけだって。」
と言った。
「それくらいで追い払える訳ないでしょ!本当の事を言って!」
そんな事くらいで引き下がる訳ないじゃない。
私がアルを睨むと、
「いやいや、本当だって。普通は引き下がらないかもだけど、セリスだから。すぐに引き下がってくれたって。」
アルはブルブルと手を振った。
「何で私だと引き下がってくれるのよ。」
私がどこかの貴族の娘とかだったら、まだしも。平民として騎士をやってるのに。
そんな私をアルは一瞥すると、
「うん。セリスがちょっと鈍い事が分かった。」
ため息をついて、何かを悟ったかのようにそう言った。
「どういう意味?」
急によく分からない事を言い出すから少し戸惑う。
「いや、分からなくていいよ。」
結局、最後までアルはそう言い張って教えてくれはしなかった。




