イーディス侯爵家の波乱
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翌日
私が食事を取りに本館へ行くとちょっと、いやかなり、空気が重々しかった。
一体、何があったの?
ゲームが始まるのはまだ先なのに。
それとも、私の頑張りがゲームの展開を変えたとか!?
そう思ったけど、すぐに首を振る。
それこそ、ゲームが始まってからしか反映されないだろう。
色々と考えながら、調理場に向かっていると、目の前にフィンが通りかかった。
私はナイスタイミング!と思いながら、周りに誰もいないことを確認し、
「フィン!!」
と話しかけた。
フィンは振り返って、私を数秒見つめてから、
「本当にいつもながら、すごい擬態ですね。最近、こっちのお嬢様とは会ってなかったから、認識するのに時間がかかりました。」
疲れた様子でそう言った。
「ふふん!私の能力は素晴らしいのよ!と、まあそれは今は置いといて、何でこんなに空気が重いの?怖いんだけど。」
いつも少ない使用人ながらも皆、仲が良いから楽しそうなんだけどな。
「いや、それがですね…。」
フィンはそう言って私の耳元で
「侯爵様の浮気が奥様にバレたんですよ。」
と言った。
それを聞いて、私は軽く拍子抜けした。
いやいや、今更か?
だって、私ここにいるじゃん。浮気してるじゃん。
そんな私の心を見透かした様に、
「お嬢様の場合は浮気というより遊びでしたけど、今回はほぼ毎日家に通われているご様子で。」
フィンは言った。
あーね。ゲームでもミリアナのお母さんにぞっこんだったもんね。
それに気づいちゃったのか。
侯爵夫人にとっては、かなりプライドが傷付いただろう。
「それで?夫人が暴れでもしたの?」
私が聞くと、
「暴れただけでは済みませんよ。奥様の部屋はもちろん、めちゃくちゃだし、侯爵様の執務室も見るに無残な状況で…。かなり、やばいんですよ。」
フィンはかなりゲンナリした様に言った。
「へえ。それで、肝心の侯爵は戻ってこないと。
で、夫人の怒りは倍増。って事でいい?」
「流石です…。その通りです…。」
フィンの疲れ切った様子に可哀想だと思いながらも、
「きっと、私にも八つ当たりが来るわね。」
これから起こるだろう事に私も頭を悩ませていた。
「へっ?何でです?」
フィンは単純に疑問に思ったのか、私に質問してきた。
「考えてもみなさいよ。侯爵がいない今、夫人の八つ当たり先は娘であるマリアンヌでしょ?そのマリアンヌの八つ当たり先はどこ?」
私が聞くと、フィンは納得したようで、
「あっ、あ〜。まあ、お互い頑張りましょう。」
逆に励まされてしまった。
「とりあえず、私は静観するわ。健闘を祈っているわよ、フィン。」
私はそう言ってフィンと別れた。
無事に食事をもらい、私は別館へと戻った。
パパッと食事を終え、私はあえて地味な格好のまま図書室へと向かう。
医学書を覚える間は、稽古の休みをもらったため、図書室を活用して今懸命に覚えている。
前世ではあまり記憶力の良い方ではなかったのだけれど、不幸中の幸いなのか今の私は記憶力が凄まじく、昨日の夜に2冊の医学書を暗記できていた。
今日も、このまま医学書に集中していられたらいいのだけど…。
そう思っていた時だった。
「セリスティア!!何処なの!?出てきなさい!!」
マリアンヌの声が聞こえてきた。
まあ、そんなに上手くはいかないわよね。
私は嫌々ながらも、図書室から出て上へと向かった。
広間へと着くと、もうマリアンヌは偉そうな態度で座っていた。
マリアンヌは私の姿を捉えると、
「この私が来たというのに、一体何をしていたの!?生意気すぎるわ!!」
完全に超不機嫌。きっと、かなり夫人に八つ当たりされたんだろう。
不憫だとは思う。でも、同じ事を他人にやろうっていうのはどうなんだ?
「も、も、申し訳ございません…。」
私は反論する事なく、謝ると
「ふんっ!やっぱり母親の身分が低いとこうなるのかしら。ああ、汚らわしい!!」
見下した様子でマリアンヌは言った。
それでも、私が黙っていると
「何とか言いなさいよっ!!」
マリアンヌは私を強く押した。
私は倒れるかどうか迷った。これくらいの力じゃ、毎日鍛えてる私はびくともしない。
でも、倒れておく方がいいの?
迷った結果、倒れておく事にした。
「あっ…!」
私が倒れると、マリアンヌは意地の悪そうな笑みを浮かべて、
「あんたみたいな子生まれなかったらよかったのよ!どうせ、何もできないいらない子なんだから!!」
そう言った。
その瞬間、ハッとした。
それがマリアンヌ自身が言われた言葉だと気づいたからだ。
実の子に言う言葉ではないだろう。
夫人に対する怒りで顔が歪む。
もし、この子がイーディス侯爵家に生まれていなければ、全く違った人生を送っていたんだろう。
そんな風に思う私の目が気に入らなかったらしく、
「何なの!?その目!!」
マリアンヌは私の頬を叩いた。
避けれないこともなかったけど、避ける気にならなかった。この子は私と違って、まだ12歳。
感情の行き場がないんだ。
受け止めてあげないといけない。
そう思ったからだ。
それでも表情の変わらない私が怖くなったのだろう。
「何なの、何なのあんた!もういい!!帰る!!」
マリアンヌは慌ただしく、メイドを連れて帰って行った。
本当に嵐のような子。
私はそう思い、息をついた。
侯爵か夫人がもう少しマリアンヌに興味があればよかったのに。
侯爵は夫人と結婚した時にはもうミリアナの母親を愛していた。愛していない夫人が産んだ子供なんて興味がないに決まっている。
それでも、男だったら少しは気にかけただろう。
でも、マリアンヌは女だった。
不運でしかない。
よくもこんな大層な浮気が10年以上もバレなかったもんね。
夫人は夫人で自分に全く愛情を注いでくれない侯爵を忘れるかのように、贅沢に走ってた。
自分の産んだ娘には目もくれず。
まあ、どっちもどっちって所だ。
そう思いながら、私はまた図書室へと下って行った。
マリアンヌは私に対して、怯えていたからしばらくは来ないかもしれない。
まあ、その方がいいんだけど。
でも、私がいなきゃマリアンヌは壊れてしまうような気がした。




