番外編2 レイスの人生 上
レイスさんの過去です。
わしの人生は波乱万丈だった。
元々、子爵家の次男で剣の才があったから、騎士団に入り第一騎士団長まで登り詰めたのだ。
かなり順調だっただろう。ここまでは…。
そこからだ。崩れて行ったのは。
25年前
「レイス様!産まれました!!」
俺が20才の時、初めて子供が産まれた。
妻とは恋愛結婚で、子供をそれはそれは楽しみにしていたのだ。
すぐさま、部屋へと駆けつけると、
「あなた…。」
疲れた表情で、それでも嬉しそうに娘を抱えていた。
そんな妻を今でも覚えている。
妻はあまり体が強くなかったから、子供は1人だったが、その分ありったけの愛情を娘に注いだつもりだ。
娘は剣術に興味を持ったのか、12才になった時に剣術を教えてほしいと言ってきた。
妻は反対したが、娘が剣に興味を持ったのが嬉しくて俺は意気揚々と教え始めた。
娘は剣の筋が良くて、どんどんと腕を磨いていった。
それが俺も何より嬉しかった。
15才になった時に、騎士団に入りたいと言ってきたが、貴族には学園に通う必要があるため、卒業してからならいいと言った。
もし、ここで入ってもいいと言ったら。
もっと他のことを言っていたら。
何か変わっていたのかもしれない。
娘は学園に入り、俺は第一騎士団の団長となった。
俺はますます仕事が忙しくなり、家族の事を顧みる時間がなかった。
妻は理解してくれたし、娘も笑顔で頑張れと言ってくれていた。
だから、家族のことは心配ないと思っていたのだ。
娘はとても悩んでいたのに。
そこから半年が経ったある日、娘が姿を消した。
部屋には書き置きが残されていた。
『父上、母上へ
このような事をするのは、今まで育ててくれた恩を仇で返すことと同じだとは分かっています。
でも、私は学園で愛する人と出会ってしまいました。相手は4個上の新人の料理人です。
身分は違いますが、とても優しくて良い人です。
だから、私はこの人と結婚します。
そのためにはもう貴族ではいられません。
親不孝者の娘をお許しください。
どうか、お体には気をつけて。
リア』
と。
本当に俺は動揺した。まさか、こんなことが起きるとは。
妻は、
「最近、あの子は悩んでいたの…。その理由に気づけないなんて母親失格だわ。」
自分を責めていた。
そこからは、すぐだった。
俺が1人になるのは。
娘は見つからないし、妻はショックで体を壊してしまったのだ。
そして、妻は亡くなった。
立て続けに家族を失ったのだ。
その悲しみは尋常じゃなかった。
それでも、第一騎士団長として仕事はちゃんとした。
騎士としてのプライドがそうさせたのだ。
ただ、それは5年と続かず、40才の時に引退した。
国王陛下や騎士団総長には新人騎士の指南役などに誘われたが、貴族を教えるのは好かんと言って断った。
理由はそれではなかった。
もう、剣術に関わりたくなかったのだ。
娘を思い出してしまうから。
そのせいで体を壊した妻を思い出してしまうから。
ただ、剣以外に能があるわけもなく、自分の剣は自分で作っていたことから、剣を作る事にした。
そちらにも才があったのか、剣は売れた。
金は騎士の時にたくさん稼いだから、興味がなかった。
だから、売りたいと思う相手だけに売り、質素に生活する事にした。
家族の気持ちに気づかなかった自分への戒めとして。
住んでいた屋敷も売った。団長になった時にもらった子爵位は、返そうとしても、気が変わった時のためにと返させてはもらえなかったが。
これからは、目立つ事なく死んでいこうと思っていたのだ。妻のもとへと早く行きたいとすら思っていた。
なのに、突然その日はやってきた。
客は1人もおらず、静かな昼時に
「すいません。誰かいらっしゃいますか?」
小さな女の子が店に入ってきた。
ここは鍛冶屋なのに、一体何の用だと思いながらも、
「いらっしゃい。」
淡々と言葉を投げかけた。
女の子はそれに反応してこちらを見た。
真剣なその顔が何となく気になり、
「何が欲しい?」
と問いかけた。
すると、女の子は
「申し訳ないんですが、客じゃありません。」
と答えた。
あまりにも大人びたその口調にかなりびっくりしたがすぐに客じゃないのなら、何をしにきたのかと思い、顔を顰めながら
「じゃあ、何のようだ。」
少し睨みながら聞いた。
女の子は怯む様子もなく、
「私は貴方に剣術を請うためにここに来ました。」
睨み返すようにそう言った。
その様子が初めて剣術を教わりたいと言ってきた娘に重なって、心が痛んだ。
それでも、
「何を言っているか分からないな。ここは鍛冶屋だ。」
と言った。
背格好も当時の娘とよく似ている。
何故、この女の子はわしに剣術を教わりたいというのか理由は分からないが、どうしても娘と重ねてしまい、警戒心を強めた。
ただその瞬間、その女の子は衝撃の発言をしたのだ。
「でも、貴方の剣術は素晴らしいはずです。
元第一騎士団団長、レイス・フォードさん。」
わしが元騎士団長なんて事を知っているのは国王陛下と騎士団総長ぐらいのはず。
なのに、この女の子は知っている。
少なからず恐怖を感じたが、それよりも興味の方が勝った。
「わしの居場所を知る者はほぼいない。何故、お前が知っている?」
すぐに質問を返すと、
女の子はすました顔で、
「それは秘密です。情報源を伝えるつもりはありません。ですが、私は本気で騎士になりたいと思っています。強い人から習おうと思うのは当然だと思いますが。」
そう言った。
さらに興味が湧き、
「無理に聞こうとは思わん。それにお前の考えは妥当だ。だがなぜお前は騎士になりたい?その理由は何だ?」
笑みを浮かべそうな顔を必死に隠して、尋ねた。
女の子は少し狼狽えた様子だったが、すぐにこう答えた。
「私は、自由に生きたい。決められた人生なんて歩きたくないし生きたくもない。だから、強くなって自分で決める。私の人生は私のものだから。」
と。
続きます。




