第40話 『アイコ』
3時間目終了のチャイムが鳴る。
………が。
「ぐー………」
昨日はドタバタして眠りが浅かったせいか、響太は未だに熟睡していた。
「………おい」
「………ん?」
誰かに呼ばれたような気がして、響太は目を覚ました。
(………結城?)
寡黙な友人の声を聞いた気がして、響太は目の前を見ると………
なんか見知らぬ女生徒がいた。
(………は?)
ショートカットの髪に四角い目がねをつけた小柄な少女。少しだぼだぼになるぐらいのセーラー服を着ており、そこからちらりと覗く真っ白な肌は人間離れした美しさだったが………
「………起きたか」
(………あれ?)
少女が発した声は、低音のハスキーな声。つまり結城の声だった。
(え、え、え………)
目の前の可憐な少女が結城の声を発している。
(ちょ、は? 何これ?)
「いつぞや話さなかったか?」
そう言うと、少女はへそを出すようにして制服をめくりあげた。
「え? ちょ、ま……!」
がちゃり
「はいっ?!」
無機質な音と共に、少女の腹が開き。
中からちきちきと音を鳴らす機械が見えた。
「コレは人型メイドロボット、『アイコ』だ」
「ええええええええええ!」
響太は絶叫した。
「ふぇ……響太?」
響太の絶叫で、体育館の中で同じく寝ていた紀子が目を覚ました。
少し髪がはねており、ごしごしと目を眠そうにこすっている。
「おぎゃあああああ!」
「え?」
悲鳴をあげた響太がどん! と勢いよく体育館のドアを開けた。
「なに……………きゃっ!」
「のっ、のりっ………」
どたばたと腰を抜かしそうになりながら、響太は紀子に抱きついた。
………普通逆じゃね? と思うのだが。
「どうした?」
結城の声と共に、人型メイドロボット『アイコ』が、遅れてついーっと入ってきた。
腹を開けた状態で。
「………………」
目が一気に覚めた。
「いやあああああ!」
紀子もまた絶叫した。
「………そこまで驚くことか?」
「「当たり前だ!」」
体育館から少し離れた運動場の隅。
響太と紀子は結城の作った人型メイドロボット『アイコ』とやらに向かって説教していた。
「明らかに人間っぽいものの腹がいきなり割れて、中身から機械が見えてるとか! どこのホラー映画だよ!」
「精巧に作りすぎじゃない!? それ!」
「………パソコン部の連中からの要望なんだが」
『アイコ』の口元にあるスピーカー越しに結城の声が流れた。
「「にしたって限度あるだろ(でしょ)!」」
「………んー」
部活動紹介では反応が薄かったんだが………と結城は困ったような声を出した。
「………んで、何の用事なんだ」
「3時間目は、2―Cが体育館を利用するらしいからな。
呼びに来た」
「わかった」
響太はちらりと紀子を見るが、紀子も「わかった」と何ともないように答えた。
(………ん。大丈夫っぽいな)
長年の勘で、響太は紀子が本当にもう大丈夫であると確信した。
「じゃ、行くぞ」
『アイコ』がウィーンとモーター音を出しながら移動する。
(………不気味だ)
「あ、響太?」
「なんだ?」
道中の廊下で。
紀子が頬を赤くし笑いながら小声で言った。
「今日もさ。お弁当一緒に食べない?」
「………っ!」
その瞬間。響太は昨日の保健室の紀子を思い出して、少し顔を赤くした。
(………また毒見か?)
響太はそう思うことでぎりぎり自分を落ち着かせた。
「んー、いいぞ」
(断る理由もないし……)
響太はそっぽを向きながら答えた。
「へへへ………ありがと」
紀子は僅かにカールした髪をもて遊びながら、笑っていた。
最近、平行して掲載している『パニカル!』と、ネタがかぶってしまってる気がします。できるだけ気をつけます。