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霊の心  作者: タナカ
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第39話 体育館裏で





 2時間目終了後の休み時間。


 ガタッ! ダッ! ガラッ! ダダダダダ……!


 響太はダッシュで教室を離脱した。


「あ、逃げたぞ!」

「早く追いなさい!」

「イエッサ――!」

「行くぞ―――!」


 そのすぐ後を追って、男子たちが教室から出て行った。


「ふん! ざまーみなさい!」


 男子たちを煽っていたのはなぜか鳴美だった。


「鳴美………」


 深春が苦笑しながら鳴美を見た。


「おね………じゃなかった深冬さん」


 鳴美はとろけそうになるほどの笑顔を一瞬見せたあと、顔をきりっとさせる。

 そして外を見ながらしれっと言った。


「持てる者が持たざる者によって制裁を受ける。これは運命ですよ」

「………あははは」


 深春は乾いた笑いしか出せなかった。 









 キーンコーンカーンコーン………


 3時間目始まりのチャイムが鳴る。


「授業が〜………」


 響太は半泣きになって体育館裏の木陰に隠れていた。

 ちらりと外をうかがうと、「見つけたか!?」「いや!」「探せ――!」と血眼になって響太を探している男子たちが目に入った。


「………出れない」


 3時間目は苦手な技術だったから、別に休んでもいいかなーとは思うが。


「はぁ〜………」

「はぁ〜………」


(………ん?)


 なにやら他のため息が聞こえた気がした。

 しかし見まわしてみても、周囲には人はいない。


「しっかりしろ〜………あたし………」

「え?」


 よく聞くと、どうやら体育館の中から聞こえていた。

 しかもこれは………


「………は〜」

「紀子?」

「はひゃう!」


 響太が壁越しに声をかけると、案の定、紀子だった。

 紀子はすっとんきょうな悲鳴をあげて辺りを見まわした。


「きょ、響太? な、何? どこ?」

「壁の後ろ」

「あ………ああ」


 どうやら状況が認識できたらしい。


「どうしたのよ。もう授業始まってるわよ」 

「むしろそれを聞きたいのはこっちの方だ」


 逃亡中の響太はともかく、授業を休む理由のない紀子がここでさぼっているのはおかしなことだった。


「どーした」

「んー」


 紀子は努めて平静を装った。、


「何でもないわよ。ちょっと気分的にさぼりたかっただけ」

「へー」


 響太は納得したように相づちをうった。

 が。


「昔々、とある頑固者の少女がいた」


 響太はいきなり昔語りを始めた。


「は?」


 いきなり何を言い出すのかと戸惑う紀子。


「その子がある日ブランコで遊んでいたら、滑って落ちた。周りは心配したが、その子は「何でもないわよ」と言って元気そうに笑った。

 親にもそう言って、結局その子は病院に行かなかった。

 ………そして翌日。その子の腕は真っ赤に張れあがっていた」  

「………あ」


 紀子は思い出した。

 それは小学校時代の、自分の経験だったからだ。


「……今回も『何でもない』?」

「うー………」


 紀子はバツが悪そうに声をつまらせた。


「意地悪」

「ははは! ざまーみろ!」


 響太は勝ち誇ったように笑った。


(伊達に長い間一緒にすごしてるわけじゃないからな)


「んで? どうだ?」

「んー、悪いけど。響太に相談するわけにはいかないから」


 紀子は響太が心配してくれていることはわかっていた。

 だが………さすがに。このことを相談するわけにはいかなかった。 


(………恥ずかしいしね)


 なんとなく、だが。

 響太にこの気持ちを知られたくなかった。 


「そっか」


 響太はさして気にした様子もなく言った。


(こいつにもいろいろあるんだろ)


 心配でないといったら嘘であるが、あの時と違い紀子はもう大人だ。

 言いたくないことの1つや2つ、あって当然だろう。


「んじゃ、俺は授業が終わるまでここで寝てるから」


 響太は追求を諦め、どかりと壁によりかかった。

 未だに「どこだー!」と叫んでいる狼(おとこ)たちの前に出る勇気はなかった。


「ん………わかった」


 体育館の厚い壁越しに紀子は響太の存在を感じていた。


(そっかー………見破られてたかぁ)


 なまじ付き合いが長いとプライバシー守るのも大変だなー、と頭をかきながらも。 

 紀子は笑っていた。


「………ははっ」


 何を悩んでいたのだろう。

 そう思えるぐらい、心が軽くなっていた。

 紀子は、んーっと背伸びすると、内から涌き出てくる心地よさに身をゆだねた。


(あたしも寝よっと)


 そして静かに目を閉じるのだった。








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