夢見る男と儚む女。
男は、誰からも信用されないほど荒れた人間だ。
ただ一人の女以外に、彼の本心を知るものはいない。
親はおらず、血の関係はあてもない。
口に出せないような仕事で生計を立て、男はそんな己を恥じるのだ、
「ああ、将来は、なにかになりたいなあ」
と。
「あなたはいつも夢見てるのよ」
「夢?ふざけんな、そんなもの見たことなんか一度もねえ」
「でも今だってあなたの目には、その事だけが映っているでしょう?」
「俺の目に?はっ、今見えてるのはお前のよがる姿と、甘えた顔だけだ」
「そう言うことを言ってる訳じゃないことくらい、わかってるくせに。叶わないって、わかっていても追いかけるのね、難儀な人…」
「夢ってのがもしあるとして、それが叶うと解るものだったとき、それは夢とは言わねーよ。そいつは現実ってやつだ」
「………」
「くだらねーこといってねーでもっと腰振ってイキやがれ!」
「乱暴なのは嫌よ」
女は、誰からも羨まれるような人生を送っていた。
金には困らず、持ち前の美貌は妬むものすら魅了した。
そんな女は男の仕事の対象だった。
『殺される』
女の人生はそれで終わりだったのに、望むほどに、終わりたかったのに。
「死にたいなら、俺にその命を寄越せ。体ごとな」
男にさらわれた女には、孤独にさすらう猛獣との、同棲というつい昨日までではあり得ない世界へと足を踏み入れたのだ。
殺しの依頼を受けた男に、殺されるはずだった女の人生が、殺されなかったことで交わる。
そんな事、あるわけなかったのに。
あり得ないということは、『運命』を逆らった証だ。