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どうしようもない心の話  作者: 奈宮伊呂波


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2/2

愛するということ

 エーリッヒ・フロムという心理学者だか哲学者だかがいる。詳しくは知らない。

 彼曰く、愛するこということは自分を律することだそうだ。

 色々言っていたが一言でいえばそういうことだ。もしかしたら違うかもしれない。一度読んだだけだからきちんと理解できているか怪しい。

 律するというのは、自分のやるべきことをやり、自分自身のことを信頼するということだ。

 俺は今、それを身を持って実感している。

 というのも、恋人というものができたのだ。一応。一応なんていうと彼女に失礼だが、実のところ本当に彼女のことが好きなのか自分自身でもわかっていない。

 ただ単に、自分のことを好いてくれているから、というだけの理由で彼女と恋人関係にいるのかもしれない。

 物凄く俺がずるい人間のように思える。

 彼女の言葉を信じるなら、彼女は俺のことを好きだと言ったから、そうなのだろう。

 俺はそんな彼女を利用して、孤独という感情を消しているだけなのかもしれない。

 今日、彼女からのメッセージが一度も届かなかった。俺のことが好きなら、何か一つくらい送ってくれてもいいのではないだろうか。

 俺の疑問に対する答えはいくつか用意できる。

 一つ、彼女は毎日連絡を取らなくとも平気な人である。

 二つ、もう俺に対する思いなどなくなったのかもしれない。あの日の出来事は気の迷いで、もう彼女の中ではなかったことになっているのかもしれない。

 俺はこのうち、二つ目ではないだろうかと考えている。


 なぜか。


 自分のことを信頼していないからだ。自分を律することができていないからだ。

 仮に俺が自分に自信があって、信頼していたならば、一つ目の考えを支持していることだろう。

 でもそうではない。俺はやはり自分のことを信頼できないのだ。人に好いてもらえる価値があると思えないのだ。どうしても。無理だ。

 こんなことを蚊の字に打ち明けられるだろうか。不可能だ。こんなメンヘラ野郎だと気づいてしまったならば、彼女は俺のことを見限るかもしれない。でも、見限らないかもしれない。大丈夫だよと言ってくれるかもしれない。


 そんな風には思えない。


 あらゆる自信がないのだ。人生の様々な出来事に、選択肢は二つある。良い方と、悪い方だ。

 俺はそのうち、悪い方を選んでしまう。なぜなら、その方が傷つかなくてすむかもしれないからだ。

 良い方を選んで、いい方向に出来事が動くとは思えない。失敗すると思っている。それならば、はなから悪い方を選んでいれば、悪い方を選んだのだから失敗しても仕方がないと自分自身を慰めることができる。

 塵埃のような自尊心を保つことができるのだ。

 そんなことをしていてもその先に未来は無いというのに。

 そこまでわかっていながら俺は、やはり良い方の選択肢を取れずにいる。そんな自分が大嫌いだ。気持ちが悪い。死んでしまった方がいいと思う。何度想像の中で自分の胸を自罰の刃で突き刺しただろうか。

 もちろん、この行為にも価値なんてない。何一つ俺自身のためになりやしない。そんなくだらないことを考えるよりもすることなんて無数にある。

 仕事を覚えたり、小説のページをめくったり、書きかけの物語を進めたり、失礼な態度をとってしまった知り合いに謝罪の言葉を送ったり。

 そうしないのは、やはり自分のことを信頼できないからだ。

 彼女に聞いてみればいい。


 本当に俺でいいのかと。


 そうして安心する言葉でももらえばいい。少しは心が満たされるだろう。


 でも。


 やっぱり、そんなことをしても意味なんてない。

 自分のことを信頼できない奴は、他人がどんな言葉を紡いだところで、その言葉を信頼することができない。

 いずれ彼女とも別れが来るのだろう。

 今までがそうだったように。俺はその時に備えて、少しでも傷が浅く済むように、ゴミみたいな自尊心を守るために、何者も愛することができないのだ。


 だというのに、他人への執着が手放せない。

 誰にこんな話を打ち明ければいいのだろう。そう考えている時点で、駄目なんだろうな。


 願うならばどうか、俺のことを知る人たちよ。

 この文章を読まないでいてくれ。


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