第5話:修行の始まりと新たな誓い
「それにしても、お前は本当に体力がないな」
フィアナは呆れたように言った。疲労分解速度を改変したにもかかわらず、急激な知識の吸収と能力使用は、カイの集中力を奪っていた。
「す、すみません。実は、少し前に大きな怪我をしまして……」
「言い訳はよせ。私の部隊に合流するまで、あと半日だ。お前を背負う趣味はない」
フィアナはそう言い放つと、前方の木々に向かって、素早く木の枝を切り落とした。そして、それをカイに投げつけた。
「これを杖として使え。ただし、もしお前の『剣』のような、不審な改変を試みたら、その杖ごと切り捨てる」
「ありがとうございます!」
カイは杖を握り、フィアナの後ろを必死で追いかけた。
(今は、フィアナから教わる原理の知識が、何よりも重要だ。この杖も、いつかチート武器に改変できるようになるための、ただの『木』の原理として覚えておこう)
その後、フィアナはカイの**『万象改変』**の危険性を理解するため、様々な質問を続けた。
「その力で、病を治せるのか?」 「理論上は可能です。病気の『原理』を『健康』に書き換えることで」
「この森を、一瞬で炎上させることは?」 「規模が大きすぎるので、今の僕では無理です。炎上の『原理』も複雑すぎて、知識が足りません」
「人の心を、思い通りに変えられるのか?」
その問いに、カイは一瞬、言葉を詰まらせた。
「それは……原理的には可能かもしれません。しかし、もし僕がその力を使って、誰かを意のままに操るような改変をしたとしたら、僕はきっと、前の世界で嫌っていた**『悪役』**になってしまう」
カイは立ち止まり、フィアナの目をまっすぐに見つめた。
「僕は、この世界を『支配』したり、『破壊』したりするために来たわけじゃない。ただ、誰かに頼られ、誰かを守れるような、**『物語の主人公』**になりたいんです。そのために、この力を使います」
フィアナは弓を構えることなく、ただ冷たい目をしていたが、その奥にわずかな安堵のようなものがよぎったのを、カイは見逃さなかった。
「……その言葉、忘れるな、人間の子よ。お前がその力を悪用した瞬間、私が最初にお前を討つ」
フィアナの言葉は脅しではなかった。それは、この森の衛士としての誓いだった。
カイは決意を新たにした。
「はい、約束します」
彼らは再び歩き始めた。カイの持つ、原理を書き換える最強の力。そして、彼を監視する、高潔なエルフの衛士フィアナ。二人の異色な旅は、まだ始まったばかりだった。




