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第2話:エルフとの遭遇と能力の秘密

目の前に立つエルフの女性から放たれる魔力は、ただ強いというレベルではなかった。それは森の深さ、水の清らかさ、風の鋭さ、その全てを束ねたような、純粋で圧倒的なエネルギーだった。


【緊急警告:極めて強力な魔力反応を検知しました。対象の原理を解析し、改変の機会を探しますか?】


カイの頭の中で、能力のシステムが警告を発し続ける。彼は慌てて、心の中でシステムを制止した。


(待て待て待て!いきなりこのエルフを改変しようとするな!敵意はない、敵意は!)


しかし、エルフの方もカイの異変に気づいたようだ。彼女は弓の弦をさらに引き絞った。


「貴様、何だ?この不快な干渉は。我の魔力を探ろうとしているのか?貴様はまさか、人間族の魔術師か!」


「違います!僕は魔術師じゃない!ただの、その、迷子です!」


カイは両手を上げ、手に持っていた青く光る小石を地面に落とした。その小石は、光を失い、ただの石に戻っていた。改変のエネルギーを使い切ったのだろう。


エルフは疑いの目を向けながらも、弓をわずかに緩めた。


「迷子?このような森の奥深くまで、何の護衛も持たずに来る人間などいるものか。名前を言え」


「カイ・アスベルです。僕は本当に、気づいたらここにいて……あなたを傷つけるつもりは全くありません」


エルフはしばらく沈黙し、カイの全身を観察した。彼女の視線は鋭く、まるで魂の奥底まで見透かされているようだった。


「……嘘をついているようには見えぬな。だが、お前が発したあの干渉波は、ただの迷子のものとは思えぬ。我が名はフィアナ・アウロラ。この**『エルトリアの森』**の衛士だ」


フィアナ、という名前が、カイの脳内で響く。ヒロインの名前だ。プラチナブロンドのエルフ。まさに王道。


「フィアナさん、僕は本当に何も知りません。もし何か不快なことをしたなら謝ります」


「不快なこと、か」フィアナは顔をしかめた。「お前の放った力は、この森の魔力の流れに瞬間的に干渉した。非常に危うい力だ。魔術師の中でも、原理級の探求を行う者しか持ち得ぬ類の気配。お前のような子供が、なぜそんなものを……」


カイは、ここで正直に「俺は異世界から転生してきて、チート能力を持ってるんだ!」と叫んでも信じてもらえないことは理解していた。彼の『万象改変』は、能力の規模が大きくなるほど、必要となる思考時間とエネルギー、そしてその「原理」を理解するための知識が膨大になる。


(さっきの宝玉化が無理だったように、フィアナの魔力を改変するなんて、今の俺には絶対に不可能だ。まずは知識が必要だ。この世界の魔法や魔力の『原理』を!)


「あの……フィアナさん。僕は、魔法について少し興味があるだけで、誰かに教わったわけではありません。もしよろしければ、この森のことや、魔法のことを教えていただけませんか?そうすれば、二度と不快な干渉はしないと誓います」


フィアナは弓を完全に下ろし、腕を組んだ。


「魔法に興味?お前のような人間族は、常に我らの知識を盗み、それを兵器に転用しようとする。安易に教えるわけにはいかぬ」


「お願いします!僕、行くあてもないんです。もし一人でいたら、すぐに獣にやられてしまいます。フィアナさんの邪魔はしませんから、ほんの少しの間、森の外に出るまでの道案内だけでも……」


カイは、自分が無職時代に培った、小説の主人公が使うであろう「必死な懇願」のスキルを総動員した。


フィアナは深くため息をついた。


「……仕方ない。我が部隊は現在、森の外縁に近づく**『ゴブリン』**の調査に出ている。お前を一人で放っておけば、奴らの餌になるか、あるいは森に火を放つか、どちらに転んでも面倒だ」


彼女はそう言いながら、カイをじっと見つめた。


「いいか、人間の子。お前は私から三歩以上離れるな。私が許可なく立ち止まれと言ったら、動くな。そして、お前の放った謎の力については、私が監視する。もし森に害をなすと判断すれば、その場で容赦なく射殺する」


その言葉には一切の冗談の色はなかった。カイはゴクリと唾を飲み込み、頷いた。


「はい!絶対に迷惑をかけません!」


こうして、カイは剣と魔法の世界での初めての相棒――監視役であり、ヒロイン候補であるエルフの衛士、フィアナ・アウロラと共に、森を進むことになった。


第3話:原理の片鱗とゴブリンの襲撃


フィアナは身のこなしが驚くほど静かだった。落ち葉を踏んでも音を立てず、風のように木々の間をすり抜けていく。それに比べ、カイは何度か枝に服を引っ掛け、そのたびにフィアナに鋭い視線を向けられた。


「人間の子よ、お前は本当に運動能力が低いな。これでは、獣避けにもならぬ」


「すみません……」


(くそっ、筋力Eを改変したいけど、今の魔力じゃすぐ枯渇する。この世界で安全に魔力を増やす『原理』を知りたい……)


カイは歩きながら、フィアナにこの世界の「魔力」や「魔法」の基本原理について尋ねた。フィアナは教えるのを渋りながらも、最低限の情報だけを口にした。


「魔法とは、世界に満ちる**『マナ』**を体内の魔力回路を通じて引き出し、法則コードを構築することで現象化させるものだ。魔力の強さは生まれつきの『器』と、回路の鍛錬に依存する」


法則コードですか……じゃあ、火の魔法を使うには、火の法則を理解しないといけない?」


「そうだ。火の元素の『熱エネルギー変換の原理』を理解し、マナをそこに流し込む。それが基本だ」


『原理』。その言葉を聞いた瞬間、カイの能力が反応した。


【キーワード『原理』を検知しました。能力『万象改変ワールド・リライター』が学習を開始します。】


(きた!やっぱりこの能力は、知識を吸収して、それを実現するんだ!)


カイは急いで、能力に意識を集中させた。


「俺の魔力の器、そして魔力回路の『構造の原理』を、この世界で最も効率的かつ成長率の高い**『エルフ族の上級魔術師』**のそれに書き換える」


【警告:改変の規模が大きすぎます。対象の『原理』が複雑すぎます。】 【改変を強行しますか?(成功率0.001%)】


「知ってた!これも無理か!」


カイはがっかりしたが、すぐに思考を切り替えた。原理の改変は一足飛びにはいかない。


(なら、まずは最も簡単な原理からだ。例えば、『疲労』)


「俺の体の**『疲労物質が分解されるまでの時間』を、『三分の一』**に改変する」


【改変完了。身体原理(疲労分解速度)を上書きしました。】


その瞬間、長時間歩き続けていた体の怠さが、スーッと引いていくのを感じた。


「凄い……!これならフィアナさんの速度にもついていける!」


カイが密かに喜んでいると、フィアナが急に立ち止まり、弓を上空に向けた。


「静かに!奴らだ」


フィアナが指差す先には、五体の醜い緑色の肌をした人型生物が、粗末な木製の棍棒を持って、こちらに向かってきていた。


「ゴブリンだ……!」


「人間の子よ、すぐに木の陰に隠れろ!奴らは数が多く、気が立っている!」


フィアナは矢をつがえ、正確無比な一撃で先頭の一体のゴブリンの眉間を射抜いた。ゴブリンは甲高い悲鳴を上げ、その場に倒れ伏す。しかし、他の四体はむしろ興奮し、奇声を上げながらフィアナに向かって突進してきた。


(くそ、丸腰だ。剣が欲しい!防御魔法が欲しい!でも、今の俺には何も――いや、違う!)


カイは、自分が『万象改変』の使い手であることを思い出した。


「どうする、カイ?この状況を生き延びるための**『原理』**を編み出せ!」


彼は地面に転がる、フィアナが撃ち倒したゴブリンの棍棒の破片に目を向けた。


(武器の原理。この**『破片』を、フィアナに気づかれないように、一瞬で『魔法の剣』**に改変する!)


カイの脳内で、最も緊急性の高い改変が開始された。

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