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  作者: こここ
22/27

国道、夜

これより先は管理棟管轄下、市民の立ち入りを禁ず

錆の浮く看板にそう告げられて、今なお青さを失わない草の茂る道を行く。

道だと認識できるのは地面から僅かに敷石覗いているからで、これがなければ迷ってしまう。

下ばかりに気をとられていた楓よりも藤の方が早く山道の終わりを見つけた。

高くのびた杉の木の間を舗装された道路が長い体を横たえている。

アスファルトの上に立つと更に山の冷気が二人の体躯に張り付く。

雨は止んだ。

日は暮れ始めている。

薄暗さが次第に辺りに滲み出している。

進むべきは西南の方向、楓は藤に声をかけ先を急いだ。


この道で出会う車体があったのならばそれは迎えの車だと森崎は言っていた。

そもそも管理棟所属の者しか使わず、もし使うとあらば公務が絡んでくる為に事前に判明すると彼女は理由を教えてくれた。

国道を歩き始めてから一時間ほど経っただろうか。

風が揺らす枝葉の音に混じり微かな走行音を楓の耳は捉えた。

後方からその音は響いてくる。

付けたばかりの懐中電灯を楓は消し藤の腕を取って道を外れた。

「おい」

説明を求める藤の顔の前へ手を翳して制する。

木々の陰に身を隠し道路を窺う。

一台の車体がゆっくりと通り過ぎる。

掴まれたままの腕に強い握力を感じる。

藤はその手に自分の手を重ねた。

緊張が走る横顔がはっと振り返り「ごめん」と小声で詫びてようやく手を離す。

「あの車は多分、違う」

「違うとは?」

「管理棟の人間はスイレー社製しか乗らない」

通り過ぎた車体はミニバンで比較的若い年齢層に好まれるメーカーのものでスイレー社ではなかった。

「迎えの車でもなさそうだ」

運転席にいた男は知らぬ顔だった。

助手席には誰もいなかったが後部座席はスモークフィルムが貼られていて確認はできなかった。

二人のいる場所から百米程離れた地点で車体は止まり、二人の男が降りてきた。

運転席側と後部座席からだ。

楓は鞄から双眼鏡を取り出し目に当てた。

後部座席から降りてきた方の男の顔は知っているものだった。

二人の男は周囲を見回すような素振りをする。

「俺にも貸せよ」

間近に囁かれた声に驚いて双眼鏡を危うく落としそうになる。

いつの間にか藤が軽く触れ合う程に近くにいた。

パーカーのフードが楓の頬を掠り伸ばされた手が双眼鏡を奪う。

「あいつ、高岡だよな」

「そうみたいだね」

偶然通った管理棟所属の人間か、或いは市の意向に沿わない藤の派遣を察知した十雪市の役人か。

森崎はそのどちらにも遭遇しないと判断したが完全にあり得ないわけでもない。

しかしそれらに当てはまらない彼がここにいる理由は何か。

下手をすれば処罰を受けかねない。

そのような危険をおかす必要がどこにあるというのか。

目的が分からない現状ではこの場を動けない。

(夜が来る前に距離を稼ぎたかったな)

二人の姿が恨めしく睨む。

「あいつらが行くまで待つしかないな」

そう言って藤が背中合わせにもたれ掛かってくる。

その重みは楓の苛立ちを包んで霧散させた。

少しして伝わり始めた体温は下がりつつある気温の中で心地好いものだった。

「早く行けばいいのに」

藤の呟く声が背骨に反響する。

「うん」

再度後方より走行音が聞こえてくる。

拳を握り締め二人は木陰から国道へ視線を注ぐと、高岡たちは車へと乗り込み直ぐに走り去って行った。

走行音は高岡たちの車よりも早い速度で近付いて来る。

楓は通り過ぎる車体を確認した。

姫君という愛称で呼ばれるスイレー社の前身となった会社が作った車だった。

その名に相応しい優美なボディとその名に反する荒れ地でも楽々走行する力量を秘めた名車である。

楓はさっと国道へ飛び出すと走り去る姫君へ向かって懐中電灯を振った。

気付かれなかったかと不安になったが間もなく引き返してきた。

車には一人の人物が乗っていた。

「お世話になります。穂村さん」

楓は運転席の窓へ頭を下げた。

穂村は無表情で二人を見やり「乗れ」と言った。


先程の高岡の件を話すと穂村は不機嫌な顔になった。

「それはお前らを追っていたのだろう」

「高岡さんがどうして」

「そう、どうしてだ、何故ここを通るとばれている」

楓の疑問は高岡が追ってきた理由だったが、穂村は国道にいた状況を問題視している。

穂村は高岡が二人を追う理由を知っているのだ。

「ここに来る間に見られたとか?」

「だとすれば国道に入る前に捕まえている」

楓は知り合いらしいが藤は穂村とは初対面だ。

楓が尊敬の混じった眼差しを向けるのでどのような人物か興味がわく。

年の頃は二十代前半だろうか、つまらなそうな顔で車を運転している。

道は緩やかな蛇行を繰り返す。

対向車がいないと踏んで穂村は車線を大きくはみ出て最短距離を走る。

速度は出ているが不安定さは感じない。

運転技術が優れているのか、それとも車体の性能なのか、区別がつかない。

「お前たちは気に留めるな。無事に九鳩市へ入る事だけを考えればいい」

優しさからではなく説明が面倒になったなと藤は推測したが、隣の楓は真面目な顔で「はい」と返事をしている。

帰還者が対応所の職員ではない人間と他都市と繋がる国道にいたというのはかなり大きな問題ではないのか。

楓がそれに気づいていないわけがない。

(俺の前だから何も言わないのか)

後部座席に身を預け藤は星が輝く深い群青の夜空を見上げた。







説明がくどくなってしまいました。

読みづらいかもしれません。

ようやく穂村を出せました。

すぐ退場しますが。

次も読んで下さる事を願っています。

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