天気予報
朝楓を送り出した後にまだ封を切っていなかった新譜を取り出すとプレイヤーにかけた。
徐々に加速する曲の流れに灰色の頭を揺らしながら藤は本棚から教科書を抜き出した。
通信制の高校に通いこのまま順調にいけば来年の春には卒業だ。
筆記帳の枠線の中鉛筆の尖った先端は走る。
空腹を感じて時計を見ると昼が近くなっていた。
区切りのよいところで休憩にする。
外に食事を買いに出るのは面倒だ。
適当に済ませようと部屋を出て台所へ向かう。
冷蔵庫や戸棚を漁ってみるといくつかの食料を発見した。
細長い堅焼きパンとハムに生卵に缶詰めのスープだ。
卵は殻を割ろうとして中身をぶちまけるという失敗の記憶はまだ新しいので手を出さない。
パンをかじりながら居間の大きな窓から外を眺める。
この共同住宅自体は低層だが立っている場所が周囲より小高く生い茂る常緑樹の隙間から町の様子が見下ろせた。
薄曇りの弱々しい日差しに照らされる高層建築群とその足元を流れる道路は夏よりも輪郭が鋭角になったような気がする。
吹きつける北風は常緑樹の枝葉を震わせる。
眺めていると冷気が背筋を這い上がってくる。
窓の隅に貼り付けた十雪新聞電子版の天気予報は青く光る文字で今日は十二月下旬頃の気温だと知らせてくる。
やはり楓に厚手の外套を渡せば良かったかもしれない。
携帯端末に母からの連絡が入った。
今日の夕食は父と来るという。
父は近頃仕事が忙しく久しく顔を合わせていなかった。
以前はこの家で三人で暮らしていたが一年前父の勤める会社が移転しそれに伴い香路川のかつての家へ両親だけが戻った。
母はほぼ毎日のように来て食事を作っていく。
希望を出せば今ならば通ったかもしれない。
藤が独立帰還者となりこの家へ移らなければならなくなった時に香路川の家を売らずに残して欲しいと望むと両親は快諾してくれた。
結局帰れたのは両親だけだ。
もし森崎がこの都市から去ればきっともう二度と香路川の家には帰れはしないだろう。
パンを口に放り込みその堅さに顔をしかめて噛み砕く。
天気予報が更新され明日は雨だと文字と同じ青で傘の絵を窓に浮き上がらせていた。
続きがあるのですが、ちょっと区切りました。
なのですごく短くなってしまいました。
次も読んでもらえると嬉しいです。




