毒
「テメー、目的は何だ?」
「楽しいでしょ、戦いは。それだけよ」
ジートが人差し指の腹を噛むと、歯の隙間から紫色の混じった粘り気のある血が手のひらを伝った。
「気色悪いヤローだぜ」
ジャンクスは中空にとどまったまま、ジートにゆっくりと大杖を向けた。
「!」
瞬間、ジートの足元からつむじ風が天高く舞い上がる。
それは直径5メートル以上はあろうかという巨大さで、ジートはなすすべなく渦の中心へと取り込まれた。
防壁を削り取りながら竜巻はさらに巨大化していく。
粉塵を巻き込み、轟々と激しい音を立てながら茶色い風の層が天の雲までも吸い込もうとした時、中心で何かがキラリと光った。
ジャンクスは瞬時に反応し、顔めがけて飛び込んできたそれにふっと息を吐き出した。
キンッと金属がぶつかり合うような音がした後、紫色に輝く美しい破片がくるりと一回転し、中空に静止する。
「ヴェノムクリスタルか」
ジャンクスが再び息を吹きかけると、クリスタルは地上へと落下していった。
「全部受けきれる?」
いやに澄んだジートの声にジャンクスは戦慄した。
気付けば六角形のヴェノムクリスタルが大量に自分の周囲を取り囲んでいる。
美しく煌く紫の宝石は濃縮された毒そのものだった。普通の人間ならばすぐ傍に立つだけで1分も経たずに息絶える最凶の物質。
自然界に存在することのない、ジートのみが作り出すことのできる猛毒の結晶。
風の精霊を操るジャンクスは、漏れ出た毒の元素を自分の元から遠ざけるように空気の流れを操作していた。
「禁術だぜ、そいつは」
「そうね、ディーヴァなら。ね。」
「本気でとち狂ったらしいな」
無数のクリスタルがジャンクス目掛けて飛び込んでくる。
「はあ!」
叫んだジャンクスの体から、激しい風が全方位に吹き荒れる。
いくつかのクリスタルは勢いを失い、四方に弾け飛んだが、それでもしつこく追走してくるクリスタルに向けてジャンクスは大杖を振りぬいた。
小気味良い音と共にクリスタルが粉々に砕け散る。
「禁術にして正解だぜ。こんなしょうもない術はな」
そう言い放った自身の声に違和感を覚え、ジャンクスは自分の口に手を当てた。
ろれつが回らず、目の前の景色がぼやけてくる。
ヴェノムクリスタルは全て叩き落としたはず、どこで毒をくらった?
竜巻の中からゆっくりと姿を現したジートの体はほとんどの皮と肉が削げ落ち、内側から紫色のクリスタルが露出していた。
「良かったね、そんなしょうもない術にあんたはやられるんだ」
空中で体勢を維持することすらままならず、ジャンクスはゆっくりと石壁の上に降り立った。その間にジートの体は再び肌色の肉を纏い、紫色のローブが体の内側から浮き出るようにして現れた。
眩暈、吐き気、意識障害、しかしまだ体は痺れていない。
ジャンクスはしっかりと握ったままの大杖に爪を立てた。