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第37話 静かなる策動

 王宮の一室。

 夜半にも関わらず呼び出された王太子ユリウスは、レオンハルトの説明を聞き終えると険しい表情になった。


「……つまり、セリーヌ公爵夫人が行方不明。しかも、その背後にヴァロア家が関与している可能性が高いと?」


「状況からして間違いないでしょう。昨夜、ヴァロア侯爵邸へ怪しい人間の出入りが目撃されています。」


「確証はあるのか?」


「直接的な証拠はまだ。しかし、彼らが革命派と繋がっていることは以前から探っていた。セリーヌが攫われたとすれば……彼女を人質に、私を揺さぶるつもりかと。」


 レオンハルトの声は冷静だった。だがその瞳は、炎のように燃えている。

 妻を奪われた怒りが、その内側で静かに煮え立っていた。


「エドモンめ……そこまで堕ちていたとはな。」

 ユリウスは深く息を吐き、机を叩いた。

「父上に報告しよう。革命派を匿うなど王家への反逆。許されぬ行為だ。」


「殿下、お願いがあります。」


 レオンハルトが身を乗り出す。その声音は鋭く、しかし必死さが滲んでいた。


「セリーヌの命が危うい。どうか王室騎士団を動かす許可を。」


 ユリウスは目を細め、しばし沈黙した後――頷いた。


「……よかろう。私が全面的に支援する。ただし無茶はするな。」


「感謝いたします。」


 深く頭を垂れると、レオンハルトはすぐさま立ち上がった。

 その背中には、冷徹な公爵の面と、必死に愛する者を守ろうとする男の面とが、同時に刻まれていた。


 


 レオンハルトは数名の側近とともに、ひそかに動き始めていた。王室騎士団が正式に動く前に、彼には為すべきことがある。


「殿下に許可を得た以上、時間の問題だ。しかし……その前に証拠を掴まねばならぬ。」


 彼が向かったのは、革命派の隠れ家と目されていた路地裏の一角だった。

 かつて部下を通じて掴んだ情報を辿り、潜伏していた数名を一気に拘束する。


「き、貴様……グレイヴ公爵……!」


「問答無用だ。貴様らの罪状はすでに明らかだ。――ヴァロア侯爵家との繋がりを吐け。」


「し、知らん……!」


 男の叫びを遮るように、レオンハルトは冷ややかに告げる。


「黙れ。貴様らの往来はすでに把握している。侯爵家へ出入りしていたこともな。」


 怯えた男たちの顔色が変わる。

 それだけで十分だった。確たる証言を引き出すのに、時間はかからなかった。


「……やはり、ヴァロアか。」


 怒りを飲み込みながら、レオンハルトは拳を握りしめる。

 セリーヌが囚われているとすれば、今も――怯えながら、彼を待っているに違いない。


 


 ヴァロア侯爵家の奥の部屋では、セリーヌとカトリーヌが並んで縛られていた。

 カトリーヌは必死に縄をほどこうとするが、硬く結ばれた縄はびくともしない。


「ごめんなさい……セリーヌ様。わたくしが軽率に踏み込んだから……」


「そんなことありません。来てくれて嬉しかった。……一人じゃなかったから。」


 互いの存在だけが、暗闇の中で心を支えていた。

 その瞬間も、彼女たちは知らなかった。

 ――レオンハルトが、すでに動き出していることを。


 


 グレイヴ公爵邸に戻ったレオンハルトは、冷水で顔を洗い、深く息を吐いた。

 捕らえた革命派の証言はすでに文書にまとめられ、王家へ提出される準備が整っている。


「セリーヌ……待っていろ。必ず迎えに行く。」


 低く呟いた声には、凍るような冷静さと、溶け出すほどの熱情が同居していた。

 その目は迷いなく、ただ一つの場所――ヴァロア侯爵家を射抜いていた。


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