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第13話 裁き


 ホールに使用人たちが一堂に集められていた。

 ざわめきが渦を巻き、誰もが何が起きるのかと緊張を隠せない。


 セリーヌは静かに一歩、前に進み出る。

 胸に手を当て、震える心臓を押さえた。

 ――これは、公爵夫人としての最初の務め。


「皆さまに集まっていただいたのは、この指輪についてです」


 彼女の声は最初こそ柔らかかったが、次第に力を帯びていった。


 手にした小箱を高々と掲げる。

「これは、私の母の形見。失われたと思っていましたが――倉庫の奥から見つかりました」


 ざわめきが広がる。その中で、セリーヌは真っ直ぐリュシュアンヌを見据えた。

「リュシュアンヌ。……あなたがそれを隠したのを、私はこの目で見ました」


 空気が凍りつく。リュシュアンヌは蒼白になり、必死に言葉を探す。

「わ、私は……そんなこと……!」


「嘘をつかないでください」

 セリーヌの声は鋭かった。

「あなたがしたことは、立派な窃盗です」


 リュシュアンヌは顔を引きつらせ、必死に言い訳を口にする。

「ち、違います! 私はただ……! 奥様が自分でなくされたから、助けて差し上げたのです!」


 セリーヌは静かに、だが冷ややかに言葉を継ぐ。

「言い逃れはできません。――公爵家の使用人としての誇りを、自ら踏みにじったのです」


 リュシュアンヌは泣き叫ぶが、誰も同情しなかった。


 沈黙が広間を支配する。その重圧にリュシュアンヌは崩れ落ちそうになった。



 次に、セリーヌは視線を侍女長へ向ける。

「侍女長。あなたには、別の罪がありますね」


 侍女長は唇を噛み、うつむく。

 レオンハルトが前に出て、冷徹な声で追い詰めた。


「……帳簿の不正、横領。お前の仕業だな。

 それをリュシュアンヌに知られ、盗んだことを黙っておけと脅されて従った……違うか?」


 侍女長の肩が震えた。

「……申し訳ございません、閣下……! 私は……つい、家族の借金のために……」


「言い訳は無用だ」

 レオンハルトの声は鋭く響く。

「お前が管理を独占していたからこそ、不正を見抜くのが遅れた。私の落ち度でもある。」


 その一言に、場の空気が震えた。

 レオンハルトが自らの非を認めたのだ。


 セリーヌは夫を一瞥し、そして使用人全員へと向き直った。

 背筋を伸ばし、凛とした声で告げる。


「リュシュアンヌ、侍女長――二人を解雇します。公爵家の誇りを汚した者を、これ以上置いておくことはできません」


 ざわめきが広がる。

 セリーヌは一度深呼吸をし、声を和らげた。


「けれど、私は……皆を敵に回したいわけではありません。私は伯爵家から嫁いできて、最初はどう振る舞えばいいのか分かりませんでした。けれど……私は皆さんと仲良くしたい。共に屋敷を支えていきたいのです」


 沈黙の中、マルグリットが一歩進み出て、深々と頭を下げた。

「奥様……ありがとうございます。私は、奥様を信じて仕えてまいります」


 その姿に、他の使用人たちの表情も次第に和らいでいった。

 中には「奥様のお言葉、心に響きました」と涙ぐむ者もいた。


 セリーヌは、ぎゅっと指輪を握りしめる。

 ――母の形見は、もう失われない。

 そして、公爵家の中で自分の居場所を作る一歩を、今踏み出したのだ。


 その場を締めくくるように、レオンハルトが低く告げる。

「本日の件は、これにて終わりとする。だが忘れるな。

 ――公爵家の名に泥を塗る行為は、決して許されない」


 彼の声は鋼のように冷たかったが、その視線の端には、確かにセリーヌへの信頼が宿っていた。


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