24 誘い
ジークフリートとアンネリーゼを外に出し、代わりに彼女の侍女であるエルゼとミリヤムを部屋に招き入れる。
今までと同じようにレベッカは机に座ったまま二人に責める様な瞳を向けて問いかけた。
エルゼはシャキッとしてレベッカを睨み返し、ミリヤムは困り果てた様子で縋るようにレベッカを見つめていた。
「……あなたたちの主人であるアンネリーゼ様と話をしたけれど、わざとじゃないそんなつもりじゃない、遅刻の件も知らなかったの一点張りだわ」
「アンネリーゼ様はそそっかしい所のある方ですが、わざとそのようなことをするなどわたくしが許しはしませんし、本人も相手に迷惑の掛かることをするような人間ではありませんから。それが真実です」
エルゼはレベッカの言葉にきっぱりと答えて、まったく疑っていない様子だった。
話をする意思がある様子だったのでレベッカは最初は彼女からでいいかと決めて、体を向けて疑問に思っていたことを聞いてみた。
「それでもこちらには証拠もあるのよ? それに私の貸した書類だって新しく作り直さなければならない、お母さまも侍女頭のマグダレーナもアンネリーゼを問題視している。問題を起したら責任を取ることからは逃れられないのよ」
「責任だなんてそんな、アンネリーゼ様は、至らない部分が多くあるとしてもそれでも必死にやっております。もう少しだけでもご恩赦をいただけませんか」
「認めて反省することもできない人に恩赦を? どうしてそんなことをしなければならないの? あなたたちも口裏を合わせているのでしょう? 本当は私のことを陰で笑っていたんでしょう?」
レベッカは畳みかけるように問いかける。
しかし、エルゼはレベッカの言葉に、どう返したらいいのかわからない様子で混乱して本当にそんなことは知らなかったとばかりに、それでも頭を振った。
「そのようなことは。ありません、アンネリーゼ様は決して他人をさげすみ笑うようなことは致しません。このエルゼが、保証いたします」
「使用人が保証? 笑ってしまうわ」
「たしかに何の価値もないかもしれませんが、これでも昔は王都で城勤めをしていた経験もございます」
「あら、じゃあどうして辞めたのかしら」
「それは…………わたくしの強い態度に多くの使用人がついていけないと……ですがそんな、仕方のない使用人でも、きちんと意見を言ってお側においてくださる優しい方なのです」
エルゼは声を震わせながら、レベッカを縋るように見つめて、先ほどの兄と同じように頭を下げる。
つまり彼女が問題を起こしているとジークフリートが言っていたのは、その強い態度のせいで折り合いがついていないだけということだったのかとレベッカはとても納得したような気持ちになった。
そして、そんな気の強い人にまで頭を下げて貰って守られようとしているアンネリーゼのことを少しだけうらやましく思った。
自分のことを助けるために果たしてどれほどの人がこうしてくれるだろう。
そういう状況になったことはなかったのでわからないけれどアンネリーゼには少なくとも二人そうしてくれる人がいる。
……とても尊いことね。
心が洗われるような気持ちになってそう思った。
けれども続けなければならずに、レベッカはひそかに彼女たちの後ろを見て、切り替えてさらに厳しく言った。
「信用できません。はぁ、離縁されるかもしれない主に媚びてなにになるの? 離縁されたらそれまで。今までと同じようには戻れないわ。侍女の証言があれば、正式にお兄さまとの離縁を進言して、アンネリーゼを追い出せるというのに」
レベッカは心が痛んで、途中で言葉を止めそうになった。それでもなんとか誘いをかけて、机の下でぐっと手を握って耐える。
ここまで言って、ぼろを出さないようならばレベッカが感じ取った直感とは意図が違った可能性も出てくる。
そうなるとまた事情が難しくなるが、ミリヤムへと視線を向けると、そんな心配などすぐに消える。
彼女はレベッカの言葉を聞いてきらりと瞳をきらめかせ、胸に手を当てて一歩踏み出し、大きな声で言った。
つい、興奮して出てしまったような「私っ!」という言葉にエルゼが視線を向ける。
「私、実は言わないようにと脅されていたのだけれど、それでもっ、ああそう! こんな時を待っていたのだわ!」
「……あら、なにか有力な証言をしてくれるのかしら」
苦しそうにとも嬉しそうにとも取れる様な表情で彼女は続けて、レベッカの言葉に「はいっ!」と元気よく返事をした。
胸に手を当てて気持ちを落ち着けようとしながらも、ミリヤムはレベッカにこらえきれない明るい声で言った。
「アンネリーゼ様はレベッカ様のことを自室に戻ってからこれでもかと悪く言って、だからあんな噂が出回っているのですわ」
「ミリヤム?」
「それから、借り物で大切な書類にわざとインクを垂らして、困ればいいと笑みを浮かべていました! 私はそれをみて、ああなんと意地が悪いと! そう、思ったのよ!」
意気揚々と解説し始めたミリヤムにエルゼはぽかんとして、首をかしげて名前を呼ぶ。
「証言なら私が! 私がしますわ、レベッカ様、あの娘は本当に性根の腐った、最低最悪なっ……きゃあ!」
彼女はまだまだ続けようとした。まるで同士を見つけたみたいにレベッカのことを見ていて、その変わりように驚いているとミリヤムは後ろから腕を掴まれて飛び上がって驚いた。
それもそのはずだ、彼女たちが入室した後に、カリーナがこっそりと音を立てないように扉を開けて、廊下に出たジークフリートとアンネリーゼを招き入れた。
二人の侍女から話を聞く前に、二人にはこういうことをすると事情も話をしているし、だからこそ今まで静かに息をひそめて彼らは二人の侍女のことを見守っていた。
そうして、やっと明らかになった。
アンネリーゼを貶めようとする人物はミリヤムだ。




