23 妙案
レベッカは深く下げられた兄の頭を見つめて、どう対応するべきかと視線を鋭くして考えていた。
ジークフリートのすぐ後ろにはアンネリーゼが立っており、その顔が真っ青になっているところをみると事実はすぐに察せられた。
「俺の不注意だったんだ」
「だとするならば、それほどお兄さまが頭を下げる必要性は感じないわ」
ジークフリートの言葉にレベッカは冷静に返す。
借りていた資料をなにかの拍子に解読不能にしてしまったとしても「悪い悪い」と言って美味しいものをごちそうしてくれる程度には、レベッカとジークフリートの関係は気楽なものである。
「そうかもしれないが、アンネリーゼがお前から借りたものだっただろ? それを俺が壊したのだから」
「……っ」
頭をあげないまま言う兄の言葉にアンネリーゼはいよいよ耐えかねたとばかりに兄を差し置いて前に出て、両膝をついた。
彼女の後ろには二人の侍女がおり、二人とも表面上はとても深刻そうな顔をしていて彼女たちの心中は定かではない。
「ごめんなさい! 違うんです、本当はわたくしがやっちゃったのです! ジークフリート様はわたくしをかばうために━━━━」
「あ、おい、いや、アンネ!」
「本当にごめんなさい、いつもこうなんです肝心なところで、いつもいつも失敗して、わたくしがそそっかしいから」
「でも、わざとじゃないんだろ? アンネ」
アンネリーゼが謝罪を始めると、途端に兄はその腕を掴んで立たせようとする。
かばっていることぐらいはわかり切っていたので、レベッカは意外でもなんでもなかったが遅刻に無視に、仕事の記録の破損となると一応、報告しないわけにはいかないだろう。
そう考えてから、マグダレーナの今朝がたの言葉を思い出す。
アンネリーゼが糾弾されて、そんな非常識な人をこの屋敷には置いておけないと何かしらの対策をするのかもしれない。
「わざとなんかではもちろんありません! でも、わたくしが駄目にしたのは事実なんです!」
「だとしてもお前がやってしまったことなら俺にも背負う権利があるだろ、つまりお前がやったことは俺がやったことにしておけばいい、そのあとゆっくり今後について話し合うべきだって言ったじゃないか!」
ヒートアップしていく彼らの問答に、レベッカはしばらく頭をひねって考えた。
そして少々兄の理論に無理があるような気がしてから、ぱっといい案が思い浮かんだ。
考えていた話し合いの形とは違う物になるが、それぞれが思っていることを明らかにするという点においては、同じことだろう。
「……わかったわ!」
レベッカは机を叩くようにしてバンッと手を打ち付けながら腰を上げた。
すると彼らは声に反応してこちらを向く。
そうして、怒っているような声を出してそれぞれの顔を見ながら言った。
「もういい加減、はっきりさせてもらうわ! アンネリーゼが私をどう思っているのか、なにがしたいのか!」
「そ、それはっ」
「レベッカ?」
「お兄さまは黙っていて! それにアンネリーゼの侍女の二人も部屋を出て、別々に話を聞きたいのよ、今はアンネリーゼ、あなたの話を聞こうじゃないの。カリーナ」
「はい、レベッカ様がこうおっしゃっていますのでこちらにどうぞ」
カリーナもきびきびとした態度で、侍女の二人を部屋の外へと案内する。
ぱたりと扉が閉められて、レベッカはふぅとため息をついて、それから一応警戒して声を潜めてレベッカの突然の行動に驚いている二人に言ったのだった。




